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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第一章 わんぱく王女の大脱走!?
3/122

魔郷にて -2

「そっちに行ったよッ!」

「わかってる!」


 迫ってくるものを目視で確認し、カリオスは駆けだす。


彼の背後からは猪が突撃してくる。

 否、それは猪と牛を足して二で割ったような容貌をしており、体長は二人の身長を優に超している。

 猪牛(イノシシウシ)といく魔獣だ。


 カリオスは走る。

 地面は木々の根が露出していて非常に足場が悪い。しかし、そんな地面を彼は何の抵抗もなく走る。

 いくらか行くと目の前に朽ち木が倒れているのが見えた。表面にはコケやキノコが生えており、腐敗が進んで脆くなっているのが分かる。


 その木の前で彼は猪牛(イノシシウシ)の方に向き直る。猪牛は追いつめたと言わんばかりに突っ込んでくる。

 そしてスピードにのってきたところで、カリオスは駆けだし、


「ッ、それっ!」


 跳躍し、猪牛の背中を跳び箱のようにして、開脚とびをする。

 そして突然目標を見失った猪牛は勢いを殺せず、そのまま朽ち木に激突し、角が刺さり抜けなくなる。


 カリオスは()かさず腰からナイフを抜いて、猪牛の背中に飛び乗り、脳天を突き刺す。

 真っ赤な血が流れ、猪牛はビクッと体を痙攣させたかと思うと動かなくなり、力なく地面に崩れる。


「よし」


 カリオスはナイフを引き抜き、血をその毛で拭き取って納める。

 と、後ろから声が走って来る。


「ちょっとカリオス!」


 ケトニスである。何やら怒っているようだ。


「なに?」

「作戦と違うじゃない! こっちの設置した罠に誘き寄せてよ!」


 ケトニスは頬を膨らませて罠の方向を指さす。そこには木の蔓で逆さに吊り上げるタイプの罠が見える。


「獲れたんだからいいじゃん」

「えぇ……頑張って準備したのに……疲れた」


 ケトニスは「あーあ」とその場に足を投げ出すように座り込む。カリオスも疲れていたので少し腰を下ろそうとするが、日が傾いていることに気が付く。夜の森は危険だ。そのことは狩りをするものなら誰でも知っている。


「暗くなってきたし、そろそろ帰ろう」


 そう言ってカリオスが立ち上がると、ケトニスは両手を前に出す。


「起こして」

「嫌。早く獲物持つの手伝って」


 もう少し休ませてほしい、とぶーぶー言うケトニスだが、やはり同じ狩りの経験者である。

 昔、二人とも保護者同伴で夜の森を経験したことはあるが、暗闇から感じる獣の息遣いや物音からくる緊張感で、睡眠どころではなく、散々だったのを覚えている。

 というわけで、猪牛を棒に括り付け、二人で肩に担ぐと、急いで村に向かう。


「重い……」

「我慢して」


 と、その途中でカリオスはふと目に留まった。

「ん?」


 それはこの魔郷を支えている『支柱(しちゅう)』と総称される山の一つだ。


 空に突き刺さっている・・・・・・・・それは魔郷ができたころからずっとあるらしい。別に支柱自体は魔郷の至るところにあり、そう珍しいものではない。


 しかし気になったのは、その根元。


 そこには岩が崩れるように積み重なっているところがあった。そしてよく見ると、そこにはちょうど子供が入れそうな小さな空洞が見える。


「ねえケトニス」


 カリオスは思わず足を止める。


「何?」

「あれ何かな?」

「あれ?」


 カリオスは気になった瓦礫を指さす。それにケトニスは目を凝らし、


「……瓦礫ね」

「でも空洞があるように見えるんだけど」

「偶然できたものよきっと。それより早く帰ろう。もう疲れた」

「そうだね」


 ケトニスは懇願するように言う。カリオスも思ったより体力を消費しているため何も言わなかった。


(明日にしよう……)


 そうしてカリオスたちは村に戻った。


 村に戻ったとき、外はもう暗くなっていた。なんとか地獄の野宿という選択を免れた二人は、カヤナからひどく叱られた後、


「……はい。じゃあこれはケトニスちゃんの分ね」

「ありがとうカリオスのお母さん!」


 カヤナに切ってもらった今日の獲物の半分を受け取って、ケトニスは帰っていった。


「それじゃあさよなら! じゃあねカリオス!」

「さようなら~」

「じゃあねー!」


 大きく手を振る彼女にカリオスとカヤナは振り返して、二人は家に戻った。



      ・・・



 翌日。

 朝からカリオスは一人、昨日の場所に向かっていた。

 今日はケトニスがいない。親と一緒に町に買い出しに行ったらしい。


 昨日来た道を思い出しながら支柱を目指し、


「えーっと……あ、」


 目的の瓦礫の山に辿り着いた。


 見てみると、そこにはやはり小さな空洞がある。


 そして、


「風?」


 奥から風が吹いている。


(この空洞はどこかに続いている!)


 その瞬間、カリオスの中で沸き立つものがあった。


 好奇心。

 探求心。


 子供の行動力の原料となるものが彼の小さな胸の中で沸騰していた。


 その小さな闇の向こう。


 いったい何が待っているのか。

 どこに繋がっているのか。


 何かの巣なのか。

 なら何の巣なのだろうか。


 気になり、考えだしたら止まらない。


 当然、子供の理性が好奇心に勝てるわけもなく、選択はすでに決まっていた。


 カリオスは腰のナイフを抜き、四つん這いになって空洞に入っていく。


 瓦礫を抜けると、そこは大人一人が立てるくらいの通路が続いていた。


 ……思っていたよりも長い。

 山を切り抜いた跡があるそれは、明らかに自然にできたものではなかった。


 支柱の中がこんなふうになっているなんて、聞いたこともない。


 それに少し驚いたが、同時に興奮が増してくる。

 カリオスは奥を警戒しながら足を進めた。




 ――――そうして、もう十分は経っただろうか。



 闇はまだ深くなっていく。

 カリオスの気持ちに少しずつ暗い緊張が生まれる。しかし引き返すことはない。


 そしてさらに十分ほど。開けた場所に出た。


「なんだ……ここ」


 かなり広い空間が現れた。ここもやはり自然にできたものではなさそうだ。

 暗闇に目は慣れていたが、それでも奥が見えない。


 彼はナイフを構え、辺りを警戒しながら進む。しかし人の気配は全くない。それどころか生き物の気配もない。


 と、部屋の突当りには階段があった。


「……階段?」


 それは壁に挟まれ、上に向かって伸びている。その行き先も闇に包まれている。


 カリオスは少し躊躇いつつも、慎重に階段を上っていく。かなり急な作りになっていて、足腰にくる。

 しかもそれなりに長く、途中、小休憩を挟みながらカリオスは階段を上がっていく。





 そして――――





「あ……」

 気がつけば一時間は歩いただろうか。ついにゴールらしき行き止まりに辿り着いた。


 何かないかとその行き止まりを調べてみると、取っ手のようなものがあることに気付く。

 カリオスはそれを引いてみるが、

「ん〜!」


(がん)として動かない。


「あ、もしかして押すのか……?」


 引いてだめなら押してみろ。カリオスは興奮を(しず)めるように大きく深呼吸し、力を込めて取っ手を押す。


 案の定、扉は軋みを上げて開き、そこからは光が入って来る。


 そして、何か埃のようなものも一緒に入って来る。


 それをカリオスは頭から被ってしまう。


「えッ! うえっ、ごほごほッ! 何だこれ?」


 (にお)いから、それが灰であると理解した。

 思いもよらないトラップに、涙を流し、鼻を垂らしながら、扉をさらに押す。


 そして扉を開ききったとき、日光で目の前が真っ白になる。


「う……ま、眩しい!」


 目を閉じ、手で(さえぎ)る。そして段々と目が慣れてくると、そこには……





「あなた、何してるの?」





 真っ白な少女がいた。




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