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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第三章 『十字に仇なす怪物たち』前編
29/122

図書館にて -2

「失礼。ここに座ってもいいかな?」


 一人の老人が二人の向かいの席を指さし微笑む。


 アニスが「どうぞ」と答えると、老人は「ありがとう」と会釈えしゃくを返してそこに座る。


「いやぁすまない。やはり本を読むには読むに相応しい場所で読まないとねぇ」


 それにアニスが笑顔で答える。


「わかります。私も勉強とかは中々自室でできなくて、図書室に通っていました。ありますよね、そういう適した場所って」

「ええ。昔は川原やレストランもありかなと思っていたのですが、どうも最近は肌に合わなくてね。川原なんかは時期によっては蚊が多くて。ひどい目に逢いました」


 ハハハ、と笑う老人に、アニスも小さく笑いを返す。

 一方カリオスは、


(虫がいても本は読めると思うけどなぁ……)


 と、今一つその話に共感できず、ただ黙って本を読んでいるふりをする。


 しばらく世間話をしていたアニスと老人だが、ふと老人がアニスとカリオスの前に積まれている本について、訪ねてきた。


「ところで、何やら童話や伝承関係の本が多いように思えますが、調べものですか?」

「はい。この辺りの言い伝えや伝承に興味がありまして。インテレッセ・ベルディーテという魔女についてのものを中心に調べています。ご存じありませんか?」


 世間話の延長で気軽に発した一言だった。

 別にこの魔女の名前は広く知られているし、話したところで怪しまれることはないだろうと。


 その魔女の名前に老人はピクリと眉を動かし、興味深げな表情になる。


「その歳で伝承に興味があるとは、いやはや渋いですな。しかもあの魔女についてとは。ヴォールの方ですか?」

「ええ。魔法の勉強の中で色々な本を読んで興味が出てきまして」


 『ヴォール』という単語が出たことに、カリオスは思わずサッと読んでいた本で顔を隠し、アニスも少々動揺したが、何とかポーカーフェイスを装うことができた。


 老人は「なるほどそうでしたか」と特に気にかけている様子はなく、アニスは少し安堵する。が、これ以上質問されると取り繕うのが難しくなってきそうだったので、話を切り返すことにする。


「あなたはこの町の方ですか?」


 そう訊くと、老人は「ええ」と頷き、自分の懐から一冊の本を取り出す。


「私はこういったものを趣味にしている者です」


 老人はその本をアニスに渡す。カリオスもなんの本か気になって、視線を向ける。


 その本のタイトルを見て、二人は目を丸くした。


 それはある作家の童話を集めた本だった。

 それは『可哀想な洋服』を書いた人の童話集だった。


 老人はにこりと微笑むと、


「この歳になると長い話は辛くてね。同じところをぐるぐる回ったりしてしまって。その点童話や民話は短くて読みやすいのでね」

「……この作者は?」

「ああ。『マイネ・リーベ』ですか。本名は確か『ツユクサ』だったかなぁ。あなたの調べているその魔女に人生を費やしたと言われている人物ですよ」


 いきなりのビンゴに思わず硬直してしまう二人。

 それを見た老人は彼女の肩を揺すり声を掛ける。


「え? あ、あの……大丈夫ですか?」

「「……は!」」


 二人はハッとして、一度大きく呼吸をして落ち着きを取り戻すと、


「す、すいません。少し驚いてしまって」


 アニスは彼に本を返し、その本の作者について訊ねる。


「さっきの言葉はいったいどういう意味ですか?」


 ツユクサという人はインテレッセ・ベルディーテに人生を費やしたといった。

 一体どういうことなのだろうか。


 その質問に、老人はどこか得意げな顔になる。


「この作者が好きなら誰でも知ってることですよ。旅する魔女に恋い焦がれ、亡くなった。哀れで一途な作家。実は、あなた方がこの作者に関係する本を持っていたのが見えたので、お声かけさせてもらったんですよ」


 老人は童話集を受け取ると立ち上がり、


「初めから話すと長くなるので私の家に来ませんか? 丁度お茶といいお菓子を頂いたので」

「すいません。よろしくお願いします」


 と彼女らは持ってきた本を返し終えると、通りに戻る。



「そういえば、ハハハ、まったく遅くなってしまいましたが、お名前をまだうかがっていませんでした。聞いてもよろしいですかな」

「私は『アイリス』と言います。こっちのは息子の『カリオス』です。あなたは?」

「私はこの町の町長を務めております。『ローダン』と言います。以後お見知りおきを」



      ・・・



 闇に紛れる二つの影。

 彼らは今まで機会を伺っていた。

 そして今日、その機会が訪れる。


「準備はできてる?」

「オーケーオーライ。いつでも余裕ってな」

「はいはい。時間になったら行動開始だ」


 少女はため息を吐き、少年は笑った。

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