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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第三章 『十字に仇なす怪物たち』前編
28/122

図書館にて

 カリオスとアニスは町の図書館に来ていた。


 流石に大きな町なだけあって、規模が大きい。


 入って見渡せば本、本、本。


「すごい……」


 カリオスは思わず感嘆の声を漏らす。

 それにアニスは自慢げに鼻を鳴らし、


「フフンッ、うちの書庫の方が大きいわよ! 掘り出し物も多いし」

「へえこれよりも大きいんだぁ。すごいね!」

「それほどでもないわよ!」


 と高笑いをしそうになったが、ここが図書館であるということで思い出して、自分の口をふさぐ。


「さて、それじゃあ調べ始めましょ」


 二人は目的のものを探し始める。

 ここに来たのは当然本を探すためだ。


 ジャンルは、伝説や魔女、宗教、魔術組織などである。


 宗教や組織はインテレッセ・ベルディーテが直接関わってなくても、彼女を崇拝するものたちがいてもおかしくないからだ。


 ということで、二人はそれぞれ天井まである本棚からそれらしいものを持ってくると、机に置いていく。

 分厚い本が何冊も彼女を挟むように積み上げられる。


 さてと、とアニスは腕まくりをし、


「始めるわよ!」

「こ、これ……全部?」


 カリオスはその山々を見て、山脈という言葉を連想する。

 と、カリオスがその本の山に圧倒されている間に、気が付けば隣のアニスはそこから本を取ると、サラサラと読み進めていく。


 それにならい、カリオスもおもむろに一冊手に取って開いてみるが、中は文字でいっぱいで、絵本程度しか知らない彼にとって、それは毒のようなものでしかなかった。


(め、目が回る……)


 三十分ほど経っただろうか。カリオスはバタンと本を閉じると、げっそりとした顔で突っ伏す。


(う……限界……)


 脳味噌が沸騰しているような感覚に襲われる。

 ふと彼女の方を見ると、さっきと変わらず、黙々と作業を続けている。


「……よく本なんて読めるね」


 それに彼女は振り向き、にやりと笑みを浮かべる。


「魔法の勉強でたくさん読んだからね。このくらいなら今日中に終わるわ!」


 と言ってまた本に視線を落とす。集中しているようなのであまり声はかけて欲しくないだろうと思い、カリオスは「ちょっと休憩してくるよ」と一声かけて席を立つ。

 しかし休憩と言っても彼女を残して図書館を出るわけにはいかないだろう。


 どうしようか、と本の海をさまよっていると、絵本のエリアにたどり着く。

 

 見ると、そこで子供が二人、男の子と女の子が話していた。


「絵本なんて読んでるの? 子供だね~」


 女の子は男の子を指さし笑う。しかし男の子はそれを鼻で笑い、一冊の本を手に取る。


「絵本だってばかにできないんだぞ? 確かに中身はうそばっかだけど、もとになった話があるときだってあるんだ。神話だったり、書いた人の身近に起こった事件や現象を民話なんかと組み合わせて書いてあったり、その民話もまた土地に残る伝承とかでお宝のヒントになったりもするんだぞ!」


(や、やけに詳しい……)


 と本棚の陰からそれを聞いていて、絵本という手を思い付く。


 民話や童話を探してそれっぽいものをチョイスしてまとめて、アニスのと照らし合わせればうまくいくかもしれない。


(絵本なら読むのは得意だ!)


 というわけでカリオスは、本棚から民話や童話がいくつか束になっているものを探してアニスのところに持って帰る。


 ドンと机に置くと、それに反応してアニスが振り向く。

 カリオスは席に改めて座り直すと、嬉しそうに、少し得意げに笑い、


「地方の民話や童話の作者の出身地から探してみようと思う!」

「あ! それ面白いわね!」


 というわけで二人は作業を再開する。

 好みとは不思議なもので、こういった読み物はスラスラと読み進めることができた。

 


 

 そしてもうお昼が軽く過ぎてしまった頃。

 カリオスは一つの話が目に入った。

 



『タイトル/可哀想な洋服』




 洋服が主人公の童話だ。


 主人と一緒にずっと居たいのに、くたびれて、ぼろぼろになって捨てられてしまう洋服。

『生まれ変わったらきれいで永遠に捨てられない洋服になりたい』と願った彼(彼女?)は、魔法使いの服に生まれ変わり、魔法で永遠にきれいであり続けました。めでたしめでたし。』というお話だ。


 これを書いたのはネーベル出身の作家だ。

 残念ながらもう亡くなってしまっているようだが。


「ねえアニス……これどう思う?」


 カリオスは気になったその童話をアニスに見せる。

 彼女はその話に目を通し、


「一応覚えときましょ。不老不死に関する話はたくさんあるわ。誰もが一度は憧れるからね」

「そうなの?」

「私も思ったことがあるわ。地上最強と不老不死は全人類が一度は憧れるものよ。あなたはないの?」


 カリオスは記憶をさかのぼってみる。


「……ないかな。アニスは何でそう思ったの?」


 その質問にアニスはさほど時間をかけず、すぐに答える。


「面白そうだったからよ」

「……どの辺が?」

「いやなんとなくだけど。やっぱりすごいことじゃない? 不老不死って。すごいなら欲しいと思わない?」


 ふーん、とカリオスは少し首を傾げながら頷く。

 それにアニスはどう説明しようか悩み、


「あの~、ほら。あの人みたいになりたいみたいな漠然としたものよ。それに、不老不死になるといったいどんな風に世界が見えるんだろうってのも気にはなったわね」

「そうなんだ。ん~ちょっと僕には理解できないな」

「あなたは何かになりたいとか思ったことないの?」


 それにカリオスは再び記憶をさかのぼって考えてみるが、


「……特にないかな」


 思い当たる者が見当たらない。

 アニスは不思議そうな目で見てくる。それにカリオスは笑って返し、


「それよりもかくれんぼや狩りの方が楽しかったしね」

「バリバリのアウトドア派だったということね」

「不老不死になったらあのスリルが楽しめないと思うし」

「え? あなた、そんな恐ろしいこと考えて狩りをしていたの?」

「んー、あんまり自覚はなかったけど、今になって考えてみればそうだったのかな~と思って」

「へ、へぇー……」


 そのいきなりのカミングアウトにアニスは若干引き気味になってしまう。

 と、そんなことをしていると、二人の前に、


「失礼。ここに座ってもいいかな?」


 一人の老人が立つ。彼は二人の向かいの席を指さし微笑む。


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