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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第三章 『十字に仇なす怪物たち』前編
25/122

レオンはいい人? -2

 レオンが宿に戻り、自分の部屋の前まで来ると、


「お腹減った~」


 という声が中から聞こえてきた。

 アニスはかなりご機嫌斜めのようである。

 レオンはドアの前でしばらく様子を見ることにする。


「レオン遅いね」

「私がうなされてたのに、レオンは町を見に行って、良い御身分ね」


 ここだ! とレオンはドアを開ける。そして手に持っていたパンを前に出し、


「そんなこと言うならこのパンはうがッ‼」


 その瞬間、レオンの顔面に何かがヒットした。

 それはアニスが不満のあまりドアに向かって投げた枕だった。


「「あ……」」


 そんな声が二人から漏れた。『変化の魔法(トランス)』は解いたようだ。

 レオンは枕を顔面に受けて硬直するが、


「……何すんだよッ!」


 次の瞬間それを手に取ってアニスの顔目がけて投げ返す。それはまたきれいにアニスの顔面にヒットし、


「ぐはッ‼」


 彼女はそのままベッドに倒れる。

 レオンはフッと鼻を鳴らす。


「お前は寝てろ!」

「うぅ~、お腹減ったぁ~」


 その枕の下から、すすり泣く声が聞こえてくる。本当に泣いてるようだ。相当お腹が減っているようだ。

 レオンは疲労感を含んだため息を吐くと、パンを千切って、アニスに向かって放る。


「ほら、お前の分だ」


 それ聞いてアニスはすぐに枕を退けると、空中にあるパンに狙いを定め、落ちてきたところを口でくわえる。


はひはほう(ありがとう)!」

「動物かお前は。何か餌付けしてるみたいだな」


 ドアを閉めると、カリオスが座っているところの向かい側にある席に座る。

 そして買ってきたパンを適当に千切ると、カリオスにも投げ渡す。


「ほら、お前の」

「え、僕の?」


 カリオスはそれを受け取ると、「ありがとう!」と言ってかぶりつく。彼もお腹が減っていたようだ。

 その食いっぷりを見て、買ってきたかいがあったとレオンは頬を綻ばせ、自分も食べ始める。


 というわけで、全員が食べ終わり、


「ごちそうさま! レオンはやっぱりいい人だね」

「は? たまたまだ。ああそうだ。これ旅の食料。たまには狩り以外のものも食いたいだろうと思ってな」

「やっぱりいい人だよ!」

「もう知らん」


 レオンはうんざりしたようにため息を吐くと、少し間を置いてから気持ちを切り替える。


「で、情報は共有できてんのか?」

「まだしてない。アニスがそれどころじゃなかったから」


 それにカリオスが困ったように返事をする。


「ちょっと戻したし……」

「よ、余計なこと言わないで‼」

「大丈夫かよ……」

「だ、大丈夫よ! ちゃんとトイレでしたし!」

「そういう問題じゃねえよ!」


 疲れる……、と顔を押えてため息を吐くレオン。


「じゃあ今から酒場で手に入れた情報を言うが、準備はいいか?」

「「いいともー」」

「もういやだ……」


 というわけでウィスパーから手に入れた情報を二人に話した。

 そしてタイムリミットが迫っていることに二人の表情が引き締まる。


「今年度末……」

「あと一年って、微妙ね……」

「何か宛てがあんのか?」

「一応予定はしてたんだけど……」


 アニスは腕を組んで唸り、


「『インテレッセ・ベルディーテ』って知ってる?」

「いや、僕は聞いたことないな」


 その単語を聞いてカリオスは首をかしげる。

 しかしレオンは思い当たるところがあるらしく、


「なんか聞いたことあるような……それって何かの名前なんだろ?」

「ええ。人の名前よ」


 とアニスは一拍深呼吸を挟むと、


「ヴォール王国最古の魔女、インテレッセ・ベルディーテ。彼女は『魔法の始祖』とも呼ばれ、リスクが大きく、時間もかかり、高い技術も必要な『(まじな)い』を『魔法』に昇華した天才と言われているわ」


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