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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第三章 『十字に仇なす怪物たち』前編
23/122

町にて -2

「ざっけんじゃねえぞッッッ‼」

「上等だッ‼ ぶっ殺してやる‼」

「いいぞいいぞ~」

「やっちまえ!」


 真っ先に飛んできたのはそんな怒声。

 次いでそれをはやし立てるような歓声が巻き起こる。


 見ると木造で薄暗い部屋の真ん中に人だかりができている。


「なんだか盛り上がってるようね」

「喧嘩だな。いつものことだ」


 レオンは中に入って、その塊を無視してカウンターに向かう。

 椅子に座って、マスターに話しかける。


「葡萄酒くれ。『ウィスパー』」


 そう言われ、グラスを磨いていた男は振り向く。そして目を丸くし、


「レオンッ! 久しぶりじゃないか!」


 グラスを片付けると駆け寄って来る。爽やかな雰囲気の金髪の男性だ。俗に言う『イケメン』というやつだ。


「ヘマやらかしたって聞いたからてっきり獄中かと思ってたよ!」

「ああ。何とか森に隠れて助かった。『ライト』と『レフト』は森に隠れてる。それより葡萄酒をくれ」


 ライトとレフトとは子分(左右)のことだ。

 彼は「ああ、すっかり忘れていた」と棚にあったものを取り出し、グラスに注ぐ。


「あれ? じゃあ何で君だけここにいるの?」


 葡萄酒をだした後、彼はふと疑問に思う。レオンは葡萄酒を口に運びながら、


「ああ、ちょっと野暮用でな」


 と、少し困ったように笑う。ウィスパーは「ふーん」となんとなく理解したように頷くと、


「あ、もしかしてあの人が関係してる?」


 そう言って別のところを見る。その視線を追ってレオンは目を向けて見ると、そこには、



「いけいけえッ‼ もっとやれー‼」



 さっきの塊に交じって楽しそうに飛び跳ねているアニスの姿があった。


「ブーッッッ!!!」


 思わず葡萄酒を吹き出してしまう。

 そしてレオンは立ち上がり、彼女のところに行くと、ゲンコツを食らわして、カウンターに連れてくる。


「何やってんだバカ!」

「いった~い! 楽しそうだったからつい盛り上がっちゃったの! 悪い!?」

「悪いわ! 勝手にふらふらするな!」

「まあまあ二人とも。落ち着いて」


 そういうとウィスパーは二人をなだめに入る。それに反応し、アニスは彼に視線を向ける。


「あなたは?」


 質問を受け、ウィスパーは一歩下がると一礼し、


「僕はこの酒場を経営しているウィスパーと言うものです。きれいなお嬢さん」


 キリッ、と二枚目な顔で彼女を見る。


「そう。なら何か飲み物が欲しいわ」


 見事スルー。


「ぼ、僕も何か欲しいな!」


 その声の方を見ると、椅子に座ったカリオスがカウンターに頭だけ出していた。

 ウィスパーはカリオスの方を見て、レオンに少し迷惑そうな目を向けると、


「おいおい子供を連れてこないでくれよ。ここは大人の場所だぜ?」

「俺の子じゃねえよ!」

「はあ!? ならかっさらってきたのか? 危ないことを持ち込まないでくれよ。せめて仕事は片づけてからっていってるだろ? 忘れたか?」

「それもちげえよ!」

「は? じゃあ何?」

「そ、それは……」


 レオンは少し苦悩の表情を浮かべて、葡萄酒を含む。


「……まあここに長居はしない。ちょっと情報が欲しくてな」

「ふーん。まあいいけど今回だけだぞ」

「ありがとな」


 ウィスパーはアニスとカリオスの前にグラスを置くと、レオンの話に移る。


「で、何が欲しいんだ?」

「国家連合軍に関しての情報が欲しい。できるだけ詳しくだ」



 その話を聞いて、ウィスパーは少し驚いた表情をして、



「……何を企んでる?」



 疑問の目を向けてくる。


「なに、そっちに被害が出ることはない。心配するな」


 それにレオンは落ち着いた様子で返す。ウィスパーはしばらく黙っていたが、


「やつらの主な活動は弱国の支援だ。川や城壁を作る手伝いや、兵士や武器を売ったりして国の強化をしたり、食糧事情の改善をしたりって感じだな」

「魔族への対策はそれだけか?」

「今のところはね」


 でも、と彼は付け加える。


「今年中には準備が整うんじゃないかって話もある」

「今年……」

「ああ。大戦争の始まりまでカウントダウン開始ってな」


 彼はフッと鼻で笑ってお道化てみせる。


「勘付いてるやつらは動き始めてる。早いに越したことはないからな」

「……そうか」


 レオンは葡萄酒を口に含む。ついさっきまで飲んでいたものだが、味が変わったように感じた。酷くマズい。

 しかし聞けて良かった。

 最後のはここに来ないと分からなかったかもしれないことだ。大きな収穫であることに間違いない。

 レオンは葡萄酒を置くと、ため息を吐く。それにウィスパーは、


「……本当に何をしようとしてるんだ?」


 疑惑の視線を向けてくる。それに彼は頭を抱え、横を指さす。


「こいつに聞いてくれ」


 そこには、


「指をぉ、さすんじゃぁねえよ‼ ん~にゃめるぞッ! うへへへへ……」


 顔を真っ赤にしたアニスがいた。どうやら酒を飲んでしまったらしい。


「そんなに強いのじゃないんだけど」

「下戸なんだ」

「それなら早く言ってよ!」

「俺も今知った」


 レオンは葡萄酒を含んで、これから運ばなくてはいけないのだろう、と考えてうんざりする。

 ウィスパーは髪をかき上げ、困った顔をする。


「ここでリバースしないでくれよ?」

「ジョブジョブ! わったしにまかしぇんしゅぁあい!」

 いったい何を任せろと言うんだろう。彼女はそういうと残っている酒を一気飲みし、

「「あ……」」

「―――っぷはあッ! ……あれ? 世界が、歪んで……」


 そう呟くと、ばたりとカウンターに突っ伏すように倒れてしまう。

 それを見て二人で頭を抱え、


「言わんこっちゃない」

「吐かなかっただけ助かったよ。水でも出そうか?」

「いやいい。起こすと戻すかもしれないしな」


 そういうとレオンはアニスに肩を貸すと、


「じゃあな。助かった。また来るよ」


 と言ってきびすを返す。とそこで、


「お前、本当に大丈夫なんだろうな?」


 ウィスパーは呼び止める。それに彼は振り返らずに足を止めて、


「ああ。お前に迷惑はかけない」


 とだけ言う。

 それだけ聞くとウィスパーは「そうかい」と言う。そしてそのあとに、


「迷惑とか言ってんじゃねえよ。らしくねえ」


 とだけ付け加える。それを聞き、レオンはフッと笑う。


「最近善人になることが多くてな。ならやばくなったらここに逃げ込もうかな」


 それを聞くと彼もクスリと笑う。


「厄は内、金は外か。ダチには金がかかるな(・・・・・・)

「ハハ、違いねえが寒いな」


 それだけ言うと、レオンらは店を出る。


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