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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第一章 わんぱく王女の大脱走!?
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魔郷にて

 生い茂る草木。

 木々の間から光が薄らと零れている。


 湿気と、薄らと寒気が漂う森を少年は歩く。


 その手には手作りのバスケット。中には草や虫や爬虫類のようなものが雑多に入れられ、まるで幼い子供が宝物だと集めてきたもののようである。


 森を抜けると、そこには小さな村があった。


 ここは魔族の村のひとつ。


 柵で囲まれた中には、黒色の肌に、薄らと紫がかった髪を持ち、大小様々な角を頭に生やした者たちが見える。

 そして少年の頭部には角があった。小さいながらも山羊のような捻じれた角が。



 少年の名は『カリオス』。魔族である。



 カリオスはバスケットを持って駆けていく。

 村に入り、自分の家のドアを開ける。

「ただいま!」

「おかえりなさい」

「こんにちは」

 家に入ると二つの声が返って来た。


 一つは台所。カリオスの母親の『カヤナ』のものだ。長い髪に、深い母性を感じさせる穏やかな雰囲気の女性だ。


 もう一つは同い年の『ケトニス』のものだ。髪は短髪で、少し強気で活動的な性格であるが、瞳の中にあどけなさが残る愛らしい少女だ。


 カリオスはカヤナのところに行き、彼女にバスケットを手渡す。

「ちゃんと獲ってきたよ」

「ありがとう」

 先ほどの色々なもの・・・・・が入ったバスケットだ。これが今日の、彼らの昼ご飯になるのだ。


 その後カリオスは部屋の真ん中にあるテーブルの椅子に座る。その正面にはケトニスが座っている。


「昼飯食べに来たの?」

「うんそう! カリオスのお母さんの料理はとっっってもおいしいからね!」


 その言葉にカヤナは嬉しそうに笑い、腕まくりをする。


「ありがとう。今日は腕によりをかけちゃうからね!」


 やった! と喜ぶ声が二つ。どちらもまだ幼い。見た目は十歳かそこらだろうか。しかし、実のところ年齢は三十を超えている。カヤナに至っては八十越えである。

 しかし心はまだ子供。好奇心の塊である。


「ねねケトニス。ご飯食べたら何して遊ぶ?」

「私鬼ごっこがいいな!」

「え~かくれんぼしようよ!」

「私鬼ごっこがいいなぁ」

「かくれんぼも似たようなものじゃないか」


 そんな二人の会話に、カヤナは耳を傾けつつ料理の準備をする。

 親から見れば、子供の喧嘩もまた(なご)ましいものだ。大人になるにつれて、自分の意見を発することは難しくなる。ズバッと言う人もいるが、カヤナはどちらかと言えば周りに合わせようとする。だから、カリオスやケトニスのような子供たちを見て、時々(うらや)ましく思うことがある。

 と、しばらく聞いていたが、


「鬼ごっこ!」

「かくれんぼ!」


 うぅ……、と互いにゆずらないと唸っている。そろそろ雲行きが怪しくなってきた。助け舟のタイミングだろう。


「……なら二人で狩りにでも行って来たらどうかしら」


 その案にカリオスとケトニスは顔を見合わせてから、料理をしているカヤナの方を見た。カヤナは振り返り、二人の顔を見て、微笑む。


「ちょうど晩御飯の材料も獲ってきてもらおうと思っていたから、二人で行ってきてくれないかな」

「「わかった」」

「お昼ご飯すぐに作っちゃうから、もう少しだけ待っててね」

「「はーい!」」


 どうやら(いさか)いは解決したようだ。二人は目をキラキラと輝かせ、


「大物獲ろう!」

「うん!」


 と早速午後のプランを練り始めた。そんな仲(むつ)まじく、微笑ましい光景を見て、カヤナは一安心する。

 しばらくして二人の前に待ちわびたカヤナの手料理が運ばれてくる。


「おまちどうさま」


 テーブルの上に大きな鍋が置かれる。その中にはさっきカリオスが獲ってきたものが入っていた。その中にはまだ、幾分か原型を(とど)めている物もある。

 二人は深緑色に泡立つその料理に目を輝かせ、


「いただきまーす!」


 と(むさぼ)……食べ始める。

 そんな二人の無邪気な様子を見て、カヤナは「よかった」と微笑む。

 二人は料理にがっつき、驚くべき速さで平らげていく。


「ちゃんと噛んで食べなさい」


 カヤナは少し心配げにそう言うが、二人は「うん!」「はーい!」と返事しつつも、聞いている様子はない。完全に生返事である。

 そして料理はあっという間になくなり、


「「ごちそうさま!」」


 手を合わせた後、二人は跳ぶように立ち上がると、


「行こう!」

「うん!」


 一目散に外に駆けていく。


「怪我だけはしないようにね!」


 彼女の注意は二人の耳に届いただろうか。あっという間に小さくなっていく二人の背中を見送りつつため息をつき、カヤナは片付けに入る。

 そして食器や鍋を片付け終わったころ、入口のドアが叩かれる。


「はーい」


 手を拭き、エプロンを取って入口に向かい、ドアを開く。そこには男の人が立っていた。その顔は見知っている。小さな村だから全員の顔は知っているが、その人は特に知っている。村長の息子の一人だ。

 彼は一礼し、


「すみませんが……」


 そこでカヤナは察し、


「わかりました。そろそろ来ると思っていたので」


 と、使わずにとっておいた食材を持ってきて、


「これだけしかありませんが」

「いつもすみません」


 バスケットの中のものを息子さんの持っていた籠の中に入れる。大きな籠でその中には既に他の食べものも入っていた。


「大変ですね」

「……ありがとうございます」

「早く戦争が終わるといいですね」

「はい」


 息子さんは申し訳なさそうに一礼し、ドアを静かに閉めた。

 戦争。そのための物資の補給。

 食料の提供だけで済んでいるこの村は、比較的影響が少ない方だ。

 





 戦争



 その単語がこの魔族が住む世界『魔郷(まきょう)』に流行るようになったのはもう数年前だ。

『ヴォール王国』

 彼らが来たことにより、戦争は始まった。


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