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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 いたずら心に勝るものなし!
19/122

結果報告

 というわけで、子供たちは村に帰り、兵士が盗賊だったこと、自分たちがどれだけ頑張ったかを説明し、




『何やってるのッッッ‼』

『ごめんなさあああああああああああいッ‼』



 当然ながら、こっ酷く叱られました。



 子供たちはわんわんと涙を流し大泣きする。

 それを見て村長がなだめに入る。


「まあまあ、そのへんにしておいたらどうかね」

「まったく。自分がどれだけ危険なことをしてたか分かってるの?」


 まったく、と親たちは全員頭を抱える。


「無事で帰ってこられたからいいものを」

「本当に申し訳ありません」


 アニスは深々と頭を下げる。それに村長も「う~ん……」と言葉を濁す。


「まあわしらも助けられた身じゃし、責めることはできんのですが、もう少しこちらにも情報を流してほしかったですな」

「申し訳ありません。みなさんは完全に彼らのことを信じていましたし、それにこちらにも事情がありましたので、一番信頼できるススキに話すことにしたのです」

「事情?」


 村長がそう聞いたとき、彼の目はアニスの背後に向く。それは村長だけに限らず、全員がその村の入り口の方に向く。


「重い~」

「それを言ったら僕は二人だよ? しかも君転がしてるじゃないか」

「重いものは重いの!」


 盗賊たちを運んできたカリオスとススキだった。

 カリオスは二人の脚を持ってずるずると引きずり、ススキは横にして転がしている。


「痛い痛い痛い! 引きずんじゃねえ!」

「目が回る〰〰〰〰!」

「なんてざまだ……」


 そして全員の前に運んできたところで、アニスは指をさす。


「こいつらが犯人の盗賊ですって、みんな知ってるのよね」


 運ばれてきた瞬間、大人たちの表情が変わる。

 憤りを露わにする彼からは、


「ふざけやがって!」


 石の(つぶて)が飛んでくる。


「食べ物粗末にしやがって! 野菜が一つ育つのにどれだけの苦労があるか分かってるのか!」

「返しなさいよ! 私たちの努力を返しなさいよ」


 皆口々に溜まっていたものを吐き出し、石を取る。


「いてッ!」

「あ、危ないって!」

「……」


 両腕両足を拘束されている盗賊たちはそれを防ぐ術がない。

 ただなされるがままに礫を受ける。


 投石は彼らの胴体や足だけではなく、頭にも当たる。彼らは目に当たらないようにするだけで精一杯だ。


「待って!」


 そんな盗賊たち前で、アニスは庇うように両手を広げた。

 それを見て、村人たちは驚いて石を投げるのをやめる。が、既に投げられた石のいくつかが彼女の体に当たる。頭にもあたるが、しかしアニスは気に留めない。


 とりあえず石を投げる手は止まったが、しかしまだ村人たちは腹の虫は納まっていないようで、アニスが退けばすぐにでも投げそうな雰囲気だ。


「アニス!」


 カリオスは彼女の前に、さらに庇うように立つ。

 その肩に手を置き、


「大丈夫よ」


 と言うと彼女はみんなの前に歩み出る。そして村長やみんなの方を見て、


「村長。みなさん。見ず知らずの旅人である私を助けてくれて本当にありがとうございます」


 深々と頭を下げる。


「お礼と言っては何ですが、皆さんには私の『事情』を話そうと思います。手厚く看護していただいた方々に隠し事はしたくありません」


 と言って彼女はもう一度盗賊たちの前に戻り、カリオスの横に並ぶ。そして大きく息を吸うと、腰に手を当て、胸を張って、




「我が名はヴォール王国第二王女、アニス・ヴォールッ! よろしくッ!」




 ドッカーンッ! と後ろで爆発が起きそなカミングアウトの仕方だったが、現実は逆にシーンと静まり返ってしまった。何を言っているのか分からない、唐突にあまりにも予期していなかった言葉が飛び出して、誰も脳の処理が追いついていないようだった。

 しかしそんなことはお構いなしで、彼女は「そしてぇ……」と懐から魔杖を取り出し、カリオスに魔杖を向けながら呪文を唱え、


「『変化の魔法(トランス)』、解除」


 杖の先をカリオスの頭に当てる。すると例の如く魔法陣が彼の体を飲み込んでいく。


 肌は漆黒に、

 髪は闇色に、

 頭には捻じれた角が、

 カリオスは魔族の姿に戻る。


「彼が魔族のカリオスでーす!」

「え、あ……ど、どうも……魔族のカリオスです……」


 アニスとは違い、低姿勢に肩をすぼめて頭を下げるカリオス。

 それに村人は、


『……………………』


 驚きのあまり、全員口を開けて固まってしまった。何人かは息をすることすら忘れてただただ凍り付いたように固まっていた。当然の反応である。


 しばらくして、


「ヴォールって……あの、ヴォールか?」


 最初に話しかけてきたのは盗賊の兄貴だった。彼も隠しているようだが動揺が漏れ出している。

 アニスは振り返り、


「ええ。言ったわよ?」

「いや、信じられなくてな」

「あ、そういえばあなたたちに聞きたいことがあったの」


 後ろで「ヴぉ、ヴォールぅ‼」「しかもお、おおおお王女様だぞ‼」『お兄ちゃん魔族だったんだ‼』「角引っ張らないでぇ〰〰〰〰!」などと騒ぎ始めている村人らを無視して、アニスは彼に向き直る。

 それに彼はフンとそっぽを向き、


「はいはい。王女様が何の用です、か?」

「すねてるの? まあいいけど」

「すねてねえよ! で、何だよ」


 アニスは彼の前に立ち、真剣な面持ちで尋ねる。


「何で盗賊なんて始めたの?」

「……何でそんなこと聞くんだ?」

「私はこの戦争を止めようと思ってるわ」


 兄貴の言葉を遮るように放ったそれに、彼は一瞬硬直して、


「……くくくッ―――ハハハハハハッ‼ これは傑作だ! そこらの二流コメディよりよっぽど面白い!」


 大笑いする。

 彼がいきなり笑い出したので、それに全員が注目する。

 アニスは兄貴を黙って見て、


「……もういいかしら?」


 と、話を戻そうとする。

 彼はヒーヒー言いながら、涙を顔を振って払うと、


「は、はいはい分かったよ。で、世間知らずの王女様は何を聞きたいんでしたっけ? へへへ……」


 小ばかにした表情でアニスを見る。しかし彼女の表情は相変わらず真剣なものだ。


「あなたが盗賊になった理由を教えてほしいの」

「へいへいへい。何でもお話ししますよ~」


 といって兄貴はにやりと不敵な笑みを浮かべる。


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