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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 いたずら心に勝るものなし!
18/122

決行!



 くしゃくしゃ、と草を踏む音。


 ヴォールの服を着た盗賊三人組は村に向かっていた。


「兄貴、これでこの生活ともおさらばですね」


 向かって右側にいる男が兄貴と呼ばれる男に話しかける。兄貴はフッと鼻で笑い、


「ああ。これで手に入った金でとんずらこいて、また本業を再開するか」 

「へへ、また暴れられると思うとうずうずするぜ」


 そう言って左側にいた男は腕を回す。

 彼らはもともと町で盗みを働いていた者だ。しかし仕事に失敗してこの森に逃げ込むこととなった。鎧は大通りを通る行商人からこっそり拝借したものだ。

 右の男はくんくんと鎧の臭いを嗅ぐ。


「この鎧とも今日で最後か。ちょっとくせぇが売れねえかな」

「こんな(あか)まみれな物誰が買うんだよ」

「だがよ。きれいに洗えば何とかなるんじゃねえか?」

「自分で洗えよ? その間に置いてくけどな」

「はぁ? てめぇこの金づる置いてくのかよ?」

「どうせ売ってもはした金だろ」

「売ってみなくちゃぁ分かんねえだろ!」

「聞き分けがねえな!」

「ああ? やるか?」

「上等だ! かかって来いよ!」

「いい加減にしろ!」

「「へい兄貴! すいませんでした!」」


 喧嘩を中断し、二人は気を付けをする。

 まったく、と兄貴は顔を押え、ため息を吐く。


「先に行くぞ」

「「待ってください!」」


 と二人が付いていこうとしたところで、

 



 ストン、と兄貴の足元に木の矢が刺さた。




「ッ!」


 それに気が付き彼らは足を止める。しかしそれに気が付かない二人は、


「あれ? どうしたんですか?」

「馬のフンでも落ちてましたか? 一ゴールドで売れますよ? もちろん金貨一枚って意味じゃないですけど。へへ」


 と、そこへ手順通り丸太が飛んでくる。

 それに気付いた兄貴は身をかがめ、


「よけろ!」


 その声で二人も前に伏せる。

 丸太は彼らの上を通り過ぎる。


「んだ! 誰やこんなことやつは!」

「出てこい! そこにいるのは分かってんだ!」


 二人は起き上がり丸太の来た方を見る。その瞬間、クシャ、と草を踏む音が聞こえる。

 それに二人はにぃと口の端をつり上げ、


「早く出てこないとこっちからいひでふッ!」

「うごはッ!」


 後頭部に返ってきた丸太が命中し、倒れる。


「『植物の魔法(グロウ)』!」


 そしてその体を地面から生えてきた木にしっかりと巻かれてしまう。完全に身動きができない。

 兄貴は顔をしかめ、腰の短剣を引き抜き、丸太を切り落とす。


「クソがッ‼」


 そして丸太が来た方を見る。すると子供何人が逃げていくのが見える。そして子供にしてやられたということを実感する。


「のやろうが‼」


 と追いかけようと一歩踏み出そうとしたところに、二本の投げナイフが飛んでくる。

 彼はそれに気付き、


「二回も効くかよ!」


 弾き落とす。しかし、


「兄貴! 後ろ!」


 右の男の声で振り向く。その瞬間に彼に向かって逆手で持ったナイフが振り下ろされる。

 彼はそれを短剣で受け止める。見ると攻撃してきたのは子供だった。


 ナイフを持った子供―――カリオスは、空いている左手でナイフを左から横に振るう。

 片手が塞がっている兄貴は、


「なめるな!」


 一歩踏み出し、頭突きを繰り出す。

 それはカリオスの額に命中し、怯んで地面に崩れる。それを兄貴は思いっきり蹴り飛ばす。


「ぐえッ」


 蹴りは腹に刺さり、ガマガエルのような苦悶の声を漏らしてカリオスは一メートル弱ほど飛ばされる。

 ペッと唾を吐き捨て、兄貴は短剣を肩にかける。その額には青筋が浮かんでいる。


「てめぇら、生きて帰れると思うなよ?」

「さ、三人で村人全員を相手にするのか? 無理だろ」


 カリオスは膝をついて息を整える。

 ハッと兄貴は笑い捨てる。


「カスが何人束になっても、カスはカスなんだよ。コツらを助ければ問題ない」

「「兄貴かっこいいいいいぃぃぃ‼」」


 二人は涙を流して喜んでいる。

 兄貴は短剣をおろし、


「だがまずはてめぇからだ。よくもここまでコケにしてくれたな。覚悟はできてんだろうな?」


 構える。

 それにカリオスも立ち上がり、深呼吸をし、


「ぜんっっっぜん‼ みんな逃げろッ‼」


 と言って森の中に走る。

 それを合図に、森の中が一斉に騒がしくなる。


「逃げろおおおおおぉぉぉぉ‼」

「やばいやばい! やばいって‼」

「アハハハッ!」


 笑い声と悲鳴が入り交り拡散していく。クソッと吐き捨て、兄貴はカリオスを追う。自分で止めを刺さないと気が済まない。

 獣道から一歩外れると、足場は悪く走りづらい。そしてカリオスの姿はどこにもなかった。


「くそ、あいつどこに行った」


 時間からしてまだこの辺りにいる。どこかに隠れているに違いない。

 と、背後の上の方から物音がする。


(木の上か!)


 小石を拾って振り返りざまに投げる。しかし石は何にもあたることなくそこを通り抜ける。そして葉っぱの間から不自然に折れた木の枝が落ちてくる。否、それは木の矢だった。


「ということは……」


 と、振り返った勢いを使って短剣を振るう。そこにはカリオスがいて、兄貴に向かって突っ込んできていた。

 兄貴の顔に狂気の笑みが浮かぶ。


「また後ろか! バレバレなんだよ!」


 短剣がカリオスの顔に向かって横なぎに振るわれる。速度的にはカリオスの方が遅い。先に短剣の方がカリオスに届いてしまうだろう。

 そこにパシュッと乾いた音が聞こえ、兄貴の短剣を持っている手に衝撃が走る。


 木の矢だった。

 その先端には石が付いている。


 それによって兄貴は短剣を落としてしまう。


 見るとカリオスの後方にある木の陰からススキが顔を出していた。

 そこに透かさずカリオスが突っ込み、


「さっきのお返しだ!」


 跳躍し、頭突きを繰り出す。それは見事に兄貴の鼻っ面を捉え、


「ぐ、あ、」


 彼はふらふら後退する。そして、


「うおッ!」


 足が地面に吸い込まれる。仕掛けてあった落とし穴だ。

 彼はその中にすっぽりとおさまってしまい、


「これで終わりね」


 とアニスは『植物の魔法(グロウ)』を唱え、彼の体を拘束する。


「クソ! クソがッ‼」


 というわけで、






「「「やっっっったあああああッッッ‼‼‼」」」







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