子供の本気のいたずら
翌朝。
時刻は午前八時ごろ。
実戦班に選ばれたススキは集合場所に足を進めていた。そしてその後ろには彼女と同様に選ばれた五人がいる。
彼女らの動きはどことなく硬く、表情からも緊張が見て取れる。
盗賊が来るのは九時。誰もいるはずもないのに、獣道の方を警戒しながら彼女らはそっと進んでいく。
そして集合場所に着くと、
「あ、きた」
出迎えたのは、カリオスだった。彼は日が昇るのと同じくらい早くから変化がないか罠の確認をしていた。動物がかかっておじゃんになっていたらたまったものではない。
ススキは病み上がりということでまだ家で寝ている。
「早く作戦の確認をしましょうか」
「そうだね」
というわけで、本日の作戦の段取りが始まる。
「まず私が弓を先頭の足元に射る」
チームの弓使いはススキに選ばれた。
彼女が初めに敵の先頭を歩く者の足元に威嚇攻撃を行う。
そして注意をススキに向けさせたところで、その背後から三人に丸太をロープで吊るしたトラップをぶつける。
その攻撃で盗賊三人が伸びたところをアニスの魔法で拘束。
「さて、と。僕はここで時間まで監視してるから、実行時間になったらまたここに来て。出てくるときはちゃんとススキの家からね。固まった方が良いから」
それに全員黙って頷く。
あ、それと、とカリオスは立ち上がり、
「みんなに一言言っておきたいんだ」
と、全員の顔を見回して、
「これは狩りだ思って、まあ気楽にいこう」
穏やかに笑う。
「相手は油断しきっている。だからこれは勝負じゃない。負けは存在しないから、まあそんなに肩に力を入れないで、ね?」
そういわれ、自分たちの極度の緊張に気が付いた彼女ら。しかしそうは言っても緊張はする。
「そんなこと言ったって……あなたたちには分からないだろうけど、私たちには村がかかってるのよ?」
ススキは目を伏せて、言いたくなさそうにする。
その様子を見て、カリオスは付け加える。
「ほら、思い出してみなよ昨日のことを。昨日の準備をしているとき、どんな気持ちだった?」
その言葉で、全員昨日の準備の時を思い出す。
そして、カリオスはパンと手を叩き、注目を集める。そして今度はにやりといたずら気に笑う。
「今日はいたずらをしても親に怒られないんだよ? むしろヒーローと言われるかもしれない。だから思いっきり暴れてやろうじゃないか!」
パーッと行こうよ、とカリオスが言うと、しばらくの沈黙の後、
「アハハ、いいこと言うじゃない」
ススキが反応した。それに始まり、雰囲気は伝染する。
「みんなで大人たちをびっくりさせてやろうぜ!」
「だな」
「なんか楽しみになってきた!」
「目にもの見せてやろうぜ!」
「やってやろう!」
場の空気が変わる。さっきまで石のように硬かったものが緩む。
「よしよし。楽しくなってきた」
カリオスはぼそりと呟く。
「カリオス君が一番楽しそうね」
「うわ! 聞こえてたの?」
ススキに小言を盗み聞かれ、驚き飛び退く。
「そんなに驚かなくてもいいじゃん」
それを見て彼女はアハハと笑う。それにカリオスも苦笑いを返す。それから切り替えて気を引き締める。
「さあ、あとは各自頭の中で練習しておいて。子供の本気のいたずらを見せてやろう!」