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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 いたずら心に勝るものなし!
16/122

アニスの憂い

 先にススキの家に戻ったカリオスは開けておいた窓から侵入し、アニスを布団に寝かせる。


 お母さんはまだ戻ってきてないようだ。大人たちはまだ話し合っているのだろう。


 すべてを知っている者から見れば、今苦悩している大人たちはひどく滑稽こっけいに見えるだろう。

 しかし何も知らない彼らにとっては、自分たちの子供、妻を失うかもしれない悪夢のような話なのだ。どれだけ話し合っても、満足のいく結論なんて出るわけがない、



 結局、事情を知っている者たちで、どうにかするしかないのだ。



 と、カリオスが寝ているアニスに布団をかけたところで、彼女は目を覚ます。


「ん……」

「あ、ごめん。起こして」

「ううん。大丈夫よ、ありがとう。ッ――――はぁ……」


 目を覚ましたアニスは、胸に詰まっているものを吐き出すように息を吐き出す。

 カリオスは横に座る。


「ごめんなさい、急に寝てしまって」

「いいよ」

「みんなは?」

「ススキに任せてきた。後は多数決だけだったし」

「それが一番大変なんじゃない!」

「え、そうなの? じゃあちょっと行ってくるよ」


 カリオスが立ち上がろうとする。と、その時服を掴まれた。驚いて見ると、アニスが黙って彼を見ていた。その顔は少しご機嫌斜めのように見える。


「何? アニス」


 何か言いたいのだろう、とカリオスは再び腰を下ろす。

 アニスは手を離すと、


「いえ、何となく話したいなーと思っただけよ」


 そっぽを向く。その耳はほんのり赤い。


「寂しいの?」

「……恥ずかしいから誤魔化したのよ? 分かって言ってるわよね?」


 アハハ、とカリオスは笑う。それにアニスはフンッとまたそっぽを向いてしまう。


「最近私をいじることが多くないかしら?」

「ん~そうだね。楽しいからかな」

「でしょうね」

「始まりは『君は朝に弱い』って分かったときだよ?」

「それは初めての旅だから仕方ないじゃない!」

「ってことは疲労が原因だよね。明日はかつてないほど苦労するんじゃないかな?」

「……」


 そこでアニスは黙ってしまう。

 何かまずいことを言ってしまったのか、とカリオスは彼女の顔を見てみるが、どうもそうではないらしい。

 アニスは何か考え事をしているようで、少し落ち込んだような表情を見せると、


「私、あんなの初めて見た」


 ぽつりとそう呟いた。


「え?」


 カリオスが聞き返すと、アニスは彼の方を向く。


「今朝のススキのことよ」


 彼女が言いたいのは、アニスがヴォールの王女だと知ったときのススキだろう。

 アニスの正体を知ったとき、ススキは激しく取り乱し、アニスに襲い掛かった。カリオスが止めに入らなかったらどうなっていたか。


「今回話したのが彼女だったから良かったけど。他の人だったらどうだったかなと思って」

「……うん」


 ススキは強い。

 順応性が高く、あんな状況でも冷静さを取り戻すことができた。心の底ではまだ疑っているのかもしれないが、それでも作戦に参加するということを決断できたのは、カリオスもアニスも正直驚いている。

 

 しかしアニスにした反応は皆同じだろう。

 この村にいる人間は皆ヴォール王国を恨んでいる。正体を明かしたところで彼女に襲い掛かってくる可能性は十分にある。


「それに盗賊も……」

「え?」

「盗賊たちも戦争が原因なのかなぁと思って」


 生活に困って犯罪に走るということはよくあることだ。それに加えてこの御時世。生活を追い込まれた人たちはたくさんいるだろう。


 結局、彼らもまた被害者なのかもしれない。


 アニスはどこか遠くを見つめて、重たいため息を吐くと、


「……いえ。やめましょ。明日に響くといけない」


 そこで話を切り、彼女は布団を頭まで被ってしまう。


「明日に備えましょ。お休み」


 そう言うと彼女はスースーと寝息を立て始めた。

 やれやれ、とカリオスは腰を上げ、窓から静かに外に出る。


「じゃあ多数決を手伝ってこようかな」


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