村にて -5
アニスは考えていた。その横にはススキがいる。
彼女は森でカリオスに出会い、話した内容を全てアニスに話した。
「……そう。ありがとう。ごめんなさい。せっかく聞いてもらったのに」
彼女は小さくため息を吐く。
「いいよいいよ。それよりも早く良くなってよね。森の彼が言ってた通り、しっかり治した方が良いよ」
「そう……ね。焦って失敗したら元も子もないし」
「そうそう!」
お言葉に甘えて、とアニスは再び横になる。
それを見てススキは安心したようで頬を綻ばせる。
そこにドアが空き、ススキのお母さんが入って来る。手にはお盆があり、茶碗が一つのっている。
「はいこれ」
「これは?」
「母さん特製、薬草粥よ! とってもおいしいんだから!」
お母さんは茶碗に入った御粥をアニスの横に置き、
「栄養のあるもの取らないとね、治るものも治らないよ」
「すみません。何から何までありがとうございます」
「いいよいいよ。熱いから冷めるまで少し待った方が良いよ」
と部屋を出ていく。
ススキは意地悪気に笑い、
「食べさせてあげよっか?」
「自分でできるわよ」
「ふ~ふ~は?」
「からかわないで! もう!」
アハハハ、と部屋に笑いが咲く。アニスは起き上がり、茶碗を持って股に置く。
茶碗からは御粥の香りが立ち昇り、アニスの鼻に吸い込まれる。
香りは薬草の独特の青臭さが少し強い。
彼女はスプーンでそれをすくい、口に運ぶ。
「おいしい」
「でしょ!」
自然と手が進む。お腹が空いていたのもあるだろうが、それを省いてもおいしいと感じられる。
あっという間に完食してしまった。
「ごちそうさま。おいしかったわ」
その満足気な顔に、ススキは自分の作った料理ではないのに嬉しくなる。
「良かった! 茶碗は私が持って行くから」
「いいわよ。自分で持って行くわ」
「ダ~メ。私が持って行く。アニスはゆっくりしてて」
ススキは茶碗を取って部屋を出て、隣の部屋にある台所に向かう。
そこではお母さんが料理に使ったものを洗っていた。
「お母さんこれもお願い」
「はいよ。ススキ。外の洗濯物を取り込んできて」
「はーい」
と、彼女が外に出ようとしたとき、
「?」
隣のアニスのいる部屋で物音がした。
ススキはそれが少し気になったが、気のせいだろうと外に出て洗濯物を取り入れ始める。
しかしさほど間を開けず、
「ススキちゃんッ!!」
「おじさん?」
声を掛けられ見ると、見知った顔のおじさんが走ってきた。その様子は慌てていて、ただ事ではないとすぐに察することができた。
「どうしたの!」
「と、とにかく家に入って! あいつらが来たんだ!」
あいつら。その単語を聞いた途端、ススキは頭にハンマーで殴られたような衝撃を感じる。
「また 食料は出したじゃない!」
おじさんはススキの背中を押して家の中に入れると、息を整え、
「ススキちゃんは知らなくていいから! とにかく! 絶対家から出ちゃだめだよ!」
いいね! とおじさんは念を押し、ドアを閉めて去っていく。窓から村の入口を見ると、村人たちが集まっていて、反対側にはヴォールの服を着た男が三人立っていた。
ここからでは声を聴くことはできないが、雰囲気は伝わって来る。何やら言い争っているみたいだ。
(何を言い争っているんだろう……)
「こらススキ! そんなところにいたら見つかっちまうよ! 早くこっちにきなさい!」
ススキが窓から様子を見ていると、お母さんは怒り、隣のアニスのいる部屋に行くように指示する。
外を見たいと思いながらも彼女はそれに従い、隣の部屋に移動する。
バタンとドアが閉じられる。お母さんは入ってきたとき対応のために隣の部屋に残った。
(また……)
ススキの心は沈む。つい昨日食べ物を渡したばかりだというのに、今度は何を奪いに来たのか。
ため息も出なかった。とにかく彼女の安全は確保しなくてはと顔を上げると、
「「……あ」」
窓に少年がいた。