村にて -4
翌朝。
カリオスは木の上で凭れて、食事をとっていた。
(アニスは大丈夫かなぁ……)
ああするしかなかったのだ。自分は魔族であり、村は人間の村。
こちらから接触するのはマズい。
あの方法しか思いつかなかったのだ。
干し肉を噛み千切る力はどこか弱々しい。心ここにあらずというのは自分でも理解している。
しかし朝食をとりながらも辺りはしっかり警戒する。
明るく視界は良かったが、それはこちらが発見される確率も上がる。
村が近い分、警戒は常に解けない。
(一応音が鳴る罠も仕掛けて置いたし、引っかかれば分かる)
と、カランカランカランッ、と早速罠の鳴る音。そして、
「キャッ! なにこれッ!」
と短い悲鳴が聞こえる。女の子の声だ。
カリオスは腰の投げナイフに手をかける。しばらくして、
「カ、カリオスく~ん! どこ~!」
声が近づいてくる。
そしてその声は自分の名前を呼んでいる。
人間でカリオスの名前を知る者はアニスだけだ。しかし声は女の子のものではあるが、アニスのものではない。
カリオスはしばらく木の上で様子を見ることにする。と、アニスを預けた村の方から、一人の少女が歩いてくるのが見えた。
見ると、歳は自分と同じくらいで髪は短い栗色。
少女は「お~い」とカリオスを呼びながら森を歩いている。
「私はススキ。アニスが君のことを探していたよ~! 彼女に連れてくるように言われたの~!」
見たところ特に武装はしていない。
(どうしよう……)
彼女がここに来た理由はカリオスを探すため。アニスは自分のことを話したのだろうか。
カリオスは木の陰に隠れ、
「ねえ!」
そこから声を掛ける。それに反応し、ススキは声のした方に歩いていく。
「カリオス君なの? 出てきてよ」
「ごめん。ちょっと今は無理なんだ」
「ん、上なの?」
ススキは声を辿って上を見上げる。視線を向けられたことにカリオスは少しドキッとする。
「姿を見せてよ」
どうやら姿は見えていないようだ。カリオスはホッと安堵の息を吐く。
「ごめん。このままで話させて」
「でも連れてきてって頼まれたんだけど……」
「ん~。治ったら村を出てって言っておいて」
「それじゃあすぐに治ったとか言い出しちゃうと思うけど」
「そこは……任せてもいい?」
「ん~……」
ススキはしばらく腕を組んで悩んでいたが、
「まあいいよ。こっちも治ってほしいしね」
「本当に! ありがとう!」
「いいよいいよ。どうせ言えないことなんでしょ。なら無理には聞かないわ」
「ありがとう」
そういうと彼女はきびすを返し、「骨折り損、かな」と村に帰っていった。
それを見送り、見えなくなると、カリオスは木から降り、安堵の息を漏らす。
これで良かった。カリオスよりも、村の方が良い手当を受けられるに決まっている。今自分にできることはない。
「今日の食料を探すか……」
森を歩き、今日の分の食べ物を探す。
野草は魔郷のものとあまり変わらない。分からないものは口に含んでみればわかる。
「これは……うえッ! ペペペッ!」
と、食べられそうな野草を探していると、
「ん、ここは……」
獣道の近く来ていた。
そこでカリオスは思い付く。
(アニスがいない間、ここで見張りをしていよう)
またいつ兵士たちがやって来るか分からない。
その時、真っ先に伝えられるようにここで見張りをしよう。
カリオスは仕掛けてあった音の鳴る罠を解き、待機場所を獣道がギリギリ見えるところに変える。