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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 いたずら心に勝るものなし!
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村にて -3

「『ススキ』! ちょっとこれ洗濯してきて」

「はーい」


 ススキと呼ばれる少女は籠いっぱいの洗濯物を受け取り、外に洗いに行く。外には桶と洗濯板があり、水は井戸から汲み上げてくる。


「よいしょっと」


 水を桶に開け、腕をまくる。

 目の前には柵があり、その奥には森が広がっている。


 さて、と洗濯物を一つ取る。


 と、そこで、コンッと何かが柵に当たる音がした。見るとそこには石が落ちていた。これが当たったのだろう。

 しかし誰が、そう思って森を見ると、少し遠くに人影が見えた。木陰でくらいせいなのか、顔ははっきりと見えない。大きさから子供のようだ。


「ねえ君」


 その人影はススキに話しかけてくる。声からして男の子のようだ。

 少し驚き、固まっていると、人影は木の根元を指さし、


「この子を助けてあげて」


 それだけいうと、走って森に消えてしまった。

 何が何だか分からず、しばらく硬直するススキ。そして我に返ったところで人影の言っていたことを思い出す。


 助けてあげて、という言葉が耳に残り、村を出て、その場所に行く。


 近くまで来ると、恐る恐る忍び歩きでその指さした場所に向かい、慎重にその裏を覗き込む。


 そこには一人の少女が眠っていた。


「あ……え……ええ!」


 驚きで顔を引っ込めしまい、気持ちを整えてからもう一度覗く。


 ガラスのように透き通った長い髪。整った顔立ち。


 思わず目を奪われ、見とれてしまう。と、その子が苦しそうに息をしていることが分かった。額に手を当てると、


(あ、熱がある……)


 ススキは急いでその子に肩を貸すと、村に運んだ。

 村の人はそれを見るなり、「何だ?」と問い、彼女が容態を説明すると、薬草や何だと慌ただしくなる。


 ススキは自分の家に少女を運ぶと、みんなが薬や水などを揃えてくれた。



 そして、外が暗くなった頃……、



「……ん……ここ、は……」

「目を覚ました!」


 ホッとみんなが胸を撫で下ろす。少女は虚ろな目で辺りを見回し、自分の真横にいたススキを見る。


「ここは、どこ?」


 その目はまだ少し虚ろだ。


「ここは私の家よ」

「あなたは?」

「私はススキ。あなた私の家の裏に倒れてたの」

「家の……裏……」


 次の瞬間、彼女の目に光が宿る。

 そして何かを思い出したようで、布団から跳ね起き、


「カリオス!」


 辺りを見回して、ススキの肩を掴む。


「カリオスはどこ!」

「お、落ち着いて!」

「私と同じくらいの年の男の子がいたはず!」

「だから落ち着いてって!」


 かなり取り乱している。

 ススキは何度も彼女に落ち着くように促し、人影のことを説明する。


「……なるほど。そういうことね」

「ただの風邪だったけど、大分こじらせてたみたい。しばらく安静にしておいた方が良いよ」


 ひとしきり話を聞き、しばらくの間の後、少女はススキの方に向き直り、


「ありがとう」


 丁寧に頭を下げる。


「あなたがいなかったら、私の容態はより重くなっていたかもしれない。本当にありがとう」

「いや、そんなことないよ!」

「そして村の皆さんも、本当にありがとうございました」

「いやいやいや」

「こんなきれいなお嬢さんを助けることができて光栄だよ!」

「まったくだ。家の嫁に来てほしいくらいだ」

「ちょっとあんた。聞こえてるよ」

「おっとしまった!」


 男が奥さんらしい人に耳を引っ張られ、ドッと笑いが溢れる。人々はみんな気さくで、とても暖かい村だ。

 それから他の村人が帰ったところで、


「さて……」


 と少女は起き上がろうとする。

 それを見て、ススキは止めようと抑える。


「まだ動いちゃダメ!」

「けど私、行かなくちゃ……」


 しかし彼女は起き上がろうとする。何か焦っているようにススキには感じられる。


「どうして?」


 はじめは心配と疑問の目で見ていたススキだったが、ふと、人影のことを思い出す。


「あの子のこと?」

「……」


 その瞬間、彼女はピタリと動きを止める。そして表情を曇らせて、俯いてしまう。


「大丈夫?」

「うん。ありがとう……」


 そういう彼女の顔は大丈夫そうには見えなかった。


(これは何か話しかけた方がいいのかな……)


 ススキは一つ、呆れたようにため息を吐き、


「まったく、こんなか弱い女の子を一人森に残してくって、ひどいことするわよね?」

「……仕方ないわ。熱があることを黙っていた私が悪いの」

「ふ~ん」

「この辺りじゃ治療する場所もないだろうし、彼は正しい判断をしたと思うわ」


 そうなんだ、とススキは彼女の様子を見ながら話を聞く。少しは落ち着いたようだ。


「そういえばその彼なんだけど、まだ明るかったのに顔が見えなかったんだ。……なんでだろ?」


 それを少女は黙って聞いていて、


「そう……なの……」


 と一言言って少女は黙ってしまう。

 地雷を踏んでしまったか、と一瞬ドキリとするが、見ると何かを考えているようだ。

 動く気はないように見える。とはいっても、まだ出ていくかもしれないので、ススキは部屋に残ることにする。


 一時の沈黙が訪れる。


(き、気まずい……)


 何か話すべきだろうか。

 それともそっとしておいた方がいいのだろうか。

 とにかく気まずい。


 初対面の人と密室に二人きりというのは中々辛いものがある。

 この何となく重たい空気をどう変えるか、とススキが考えていると、


「……ねえ」


 少女が先に切り出した。


「何?」


 ススキが反応すると、少女は迷ったような表情をして、


「あなたの名前は?」

「私はススキ。あなたは?」

「……私は……アニスよ」

「アニスね。きれいな名前」

「ありがとう」


 アニスは自分の名前に対する反応に安堵し、胸を撫で下ろす。


「ねえねえ、アニスは旅をしてるの?」

「ええ」

「ふーん。何のために?」

「それは……」


 そこでアニスは言葉を詰まらせる。


「ああ無理に話さなくてもいいから!」

「ごめんなさい。少し事情があって……」

「いいわよ別に!」


 アニスは申し訳なさそうに目を伏せる。それにススキは笑って返す。

 それから少しの間をおいて、


「……ススキ。少しいいかしら」

「何? お腹へったの?」


 その瞬間、ぐ~と腹の虫が鳴く。彼女はお腹を押さえ、少し赤面しながら、


「そ、それもそうだけれど……」


 布団から起き上がり、ススキの方に向き直る。その表情は真剣である。


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