中
ザンクの指示により、カルラに仮の住まいが与えられた。
「いいの? 俺、働く気ないから家賃払えないけど」
「うむ。少しずつ考えよう。まずは、わしの話相手になってもらおうかな」
カルラは無邪気に喜んだ。
その後、カルラのやることに大きな変化はなかった。
しかし、ザンクと話す時間の分、また、自宅に帰る分、悪行に精を出す時間が減ったようではあった。
町人たちも、ザンクがお目付け役をしているということで、カルラという存在に対し、一応納得せざるを得なくなった。
そうしてまたひと月経った。
ザンクが病を得た。
起き上がることもままならず病床に伏したため、カルラのお目付け役も当然のことながらできなくなった。
カルラがはじけた。
カルラは与えられた住まいに帰ることがなくなった。
羽が生えたように、あちらの男、こちらの女と渡り歩いた。
カルラのエスカレートした様子は目立ちに目立って、町人たちを怒りに落とし込んだ。
「ああもうイライラする! 何なのあいつ!」
「最低な人間だ!」
「忌々しい! あのお気楽な顔を見ていると、叩き潰してやりたくなる!」
「町の秩序を乱す悪魔だ!」
「害虫だ!」
「町に巣くう癌だ!」
町中の怒りがカルラに向かったかのようだった。
ある時カルラは町人たちに囲まれた。
人数が多すぎて、たらしこむこともできなかった。
「出て行け、カルラ!」
「おまえはこの町に必要ない!」
「カルラのせいで何もかもおかしなことになった!」
「二度と顔を見せるな!」
カルラは肩をすくめてみせた。
反論はしなかった。
「じゃあね」
カルラは現れた時と同じように、スルリとさりげなく町を出て行った。
長老ザンクが快癒した。
ザンクの元に、町長ベリテが訪れた。
ベリテはザンクに一通りの挨拶を述べた後、このところの町の様子を話しだした。
「大変なのです。争いが巷にあふれ返って、保安部が悲鳴を上げています」
ベリテはハンカチで汗を拭いながら話した。
ザンクは黙って聞いた。
カルラを追い出し、つかの間、平穏な町になったかのように思われた。
それは短かった。
ある時から、夫婦、恋人、友達、近隣住民同士のトラブルが多発するようになったのだ。
保安部は出動要請の増加に、目が回るほど忙しくなってしまった。
ベリテは出された茶を口に含み、話を続けた。
「追いだしたカルラの呪いだ、なんて言う者たちもいるくらいでして」
ザンクは目を丸くした。
「追いだした?」
「あれ? 長老様はご存じなかったんですか?」
ベリテは、カルラが町人に追い出された経緯を話した。
聞くほどに、ザンクの表情は険しくなって言った。
すべて聞き終えたザンクは、ベリテに命じ、町人たちの代表と話をする場を設けた。




