表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呼び出された殺戮者  作者: 井戸正善/ido
第十一章 荒野へ行ってもふもふと遊ぼう
89/184

89.Trust?

89話目です。

よろしくお願いいたします。

 レニとヘレンがすっぽりとかぶっているのは、オリガとカーシャがいつかの時に番兵の目を避けるために使っていたフード付きのマントだ。闇魔法収納に放り込んでいたので、周りが騒ぐのも面倒だと二人に渡して被らせた。

「では、次」

 今、一二三たちが来ているのはソードランテへ入るための門、そこへ並ぶ人々の中に紛れている。

 荒野に面した独立国である以上、ガチガチに防壁の中へ囲い込んだ、出入りの少ない街かと一二三は想像していたが、街の外に農地や狩猟場があり、一般人は普段から少なくない人数が出入りしているようだ。

 とはいえ、人口が爆発的に増加しているフォカロルと比べるとかなり少ない。日常的に出入りしている者がほとんどで、検問をしている兵士と顔見知りである確率が非常に高いらしく、身分証のようなものを見せている者の方が少ない。

「次……お前か。通っていい」

「はい。いつもどうも」

 といったように、どんどんと列は消化されていく。

「次は……見かけない顔だな。連れの二人も、被り物を取って顔を見せろ」

 兵士に言われ、躊躇するレニたちのフードを一二三がさっさと引き下ろした。

「じ、獣人!?」

「狼狽えるな。俺の奴隷で危険は無い。驚くより他にやることがあるだろう」

「ああ、わ、わかった」

 高圧的に言われ、兵士は思わず事務的に名前を確認し、記録していく。そこで、兵士は自分が何をしているのかに気づいたらしく、顔を赤くして一二三に質問を続けた。

「この街を出た記録はないようだが、どこから来た? 何が目的だ?」

「荒野の向こう、オーソングランデからだ。目的は、単なる物見遊山だよ」

「荒野を抜けてきたって? そこで獣人も捕まえたのか! 恐ろしく腕が立つか、運が良かったんだな」

 ジロジロと自分たちを見てくる兵士に、レニは目を伏せてヘレンは拳を握りしめていたが、一言も発さずに耐えていた。

 その様子を見て、一二三は少し二人を見直すことにした。

「俺の財産だ。あまりジロジロ見るな。それで、もう通ってもいいのか?」

「ああ、悪かった。この許可証を持っていけ。入場税は銀貨5枚だが……持っているか?」

 疑わしげな視線を向けてきた兵士が肘をおいているデスクに、一二三は無造作に金貨を10枚ほど積み上げて見せた。

 ソードランテとは違うデザインの金貨だが、大きさは一回り大きく、彫り込まれた肖像も細かく美しい。

 息を呑んで金貨に釘付けになっている兵士に、やれやれ、と一二三は溜息を吐いた。

「こっちの国の金だが、金は金だ。釣りはいらんから、さっさと通せよ」


☺☻☺


 熊獣人のサルグは、虎の少年たちを伴って林の中にある自分たちの塒へと戻った。

 少年たちは初めて知ったのだが、熊の獣人は群れは作らず、一人かせいぜい家族単位での生活が基本となるらしい。

 同族同士の交流はあるものの、共に生活する事はほとんど無いという。

「その分、熊獣人は家族のつながりは大切にするんだ。何かあって早くに親が無くなった子供がいれば、他の大人が引き取って育てたりもするんだよ」

 高い位置に生っていた木ノ実を引きちぎり、サルグは自分の娘であるオルラと、少年とその妹に平等に分けてあげた。

「あ、ありがとう……」

「名前を聞いておこう。折角の娘の命の恩人だからね」

「恩人なんて……俺はマルファス、妹はリーデル、です」

 兄が名を名乗ると、妹はピョコンと頭を下げた。

 サルグは優しく微笑むと、マルファスの頭に手を置いた。

「マルファス。無理して丁寧に話そうとする必要はないよ」

「でも、種族も違うのに助けてもらったし……」

「そうだな。マルファスもそうした。種族が違うのに、俺の娘を助けるために、命をかけて声を上げてくれただろう」

 お互い様なんだ、とサルグは大きな手でマルファスの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。

「遠慮せずに食べてくれ。最近は人間を警戒してこのあたりに住んでいる獣人は少ないから、魚も果物もたくさん採れるんだ」

 ニカッと笑って魚を差し出し、サルグ自身も大きな口を上げて50センチ以上はある魚をペロリと平らげた。

「人間がそんなに来てるの?」

 リーデルが果物を齧りながら尋ねると、サルグは首を振った。

「残念ながら、な。つい昨日も、近くで過ごしていた豹の獣人が捕まったみたいだよ」

 今朝から姿を見なかったので、サルグは知り合いの豹獣人の塒を訪ねたところ、近くで血の跡が見つかったという。

「結構強い奴だったんだが、大人数で武器を持って囲んでくる人間相手には、やはり厳しいものがある……」

「でも、サルグさんは人間相手に勝ったじゃないか!」

 マルファスが叫ぶと、サルグは笑う。

「そうだな。俺は自分でもなかなか強いと思うぞ。でもな、やっぱり人数が多いというのは驚異なんだ。どんな大きな獣人でも、毒のある虫に大量にたかられたら負けるもんだ」

 蜂や蟻に襲われた奴を見たことがあるならわかるだろう、と言われ、マルファスとリーデルは青い顔をしてうつむいた。

「お父さん、ごはんの時にそんな話しないでよ。ほら、二人共食欲なくなっちゃったじゃない」

「ああ、こりゃすまん」

 娘に叱られる大きな熊男の様子に、マルファスはつい笑ってしまった。

「ご、ごめんなさい」

「いや、そうやって笑ってる方がずっといい。特に男はな、余裕が無いとき程笑って見せるもんだぞ」

「何を偉そうに言ってるのよ」

 和やかな雰囲気の中で食事は進み、リーデルがオルラに連れられて眠りに就いた。

 火を起こし、パチパチと爆ぜる火を見つめながら、男と少年は静かに話し合っていた。

「実は、君にお願いしたいことがある」

 少し離れた寝床にいるオルラたちの話し声が聞こえなくなった所を見計らって、サルグは静かに言った。

「お願い?」

「ああ、君たちにはオルラと共にもっと荒野の中央部に行ってもらいたい。人間や危険な獣人がいる地域を抜けて、兎獣人なんかの無害な連中の所へ」

「サルグさんは、どうするんですか?」

「人間の国へ行く」

 即答したサルグに、マルファスは息を飲んだ。

「この辺りに長く住んでいるとわかるんだ。連れて行かれる獣人が減らない異常さに。あいつら人間は獣人を奴隷にしているらしい。繋がれている獣人を何度も見たから、それは間違いないだろう」

 だが、それにしてもさらわれる獣人が多過ぎるのではないか、といつからかサルグは疑問を抱いていたという。

「意を決して、人間のいる辺りを隠れて見に行ったよ」

 真剣な目で語るサルグの言葉が止まり、ひと呼吸の間。

 マルファスは息を飲んだ。

「人間が作っている畑の近くに、獣人の死体が重ねて打ち捨てられていたよ。大量に、それこそ小さな山がいくつも。あれは墓場なんてものじゃない。文字通り捨てられていただけだ」

 サルグの目の奥に、怒りの炎が灯る。

「どれもこれも新しい死体だった。兎や羊、虎や熊の死体もあったよ。……皮が剥がれたものも多かった」

「そんな……」

「他の獣人だからと言っても、あんな目にあっているのを見たら我慢できなかった。近いうちに、人間の国に入り込んで、できるだけの獣人を開放してやりたいと思っている。だから……」

「無茶だよ! 人間がたくさんいる所になんて行ったら、殺されちゃうよ!」

「落ち着くんだ、娘達が起きてしまう」

 ハッとして声を押さえたマルファスが、それでも小さな声でサルグを止めようとするが、笑って受け流されてしまう。

「子供だと思っていたけれど、娘ももう自分が食べる物くらいは採れるようになったのを見たんだ。今日のことは偶然危ない目にあったけれど、荒野の中心部ならそこまで危ない目には合わないだろう」

 娘は、ああ見えて結構力が強いんだ、とサルグは笑った。

「マルファス。君は優しい虎の男だから、良かったら彼女と共に行ってくれないか。妹さんとも気が合うようだ。……他の獣人たちも、あんなふうに種族を気にせず語り合えるようになればいいんだが」

 サルグは、もしかしたら自分が開放した獣人たちなら仲良くしてくれるかもしれないな、と呟いた。

 夢みたいな信じられない話だけれど、良かったら、協力して欲しい、とサルグは頭を下げた。

「俺も一緒に行きます」

「それは駄目だ。マルファスは若いからまだまだやるべき事がある。メスを見つけて子供を作れ。父親になって子供を守れ……俺のようには、なっちゃいけない」

 それは、マルファスが初めて見る大人の涙だった。

 こんなに強い人でも泣く時があるのか、としばらく呆然としていたが、マルファスはサルグの申し出を受けることにした。

「……わかりました。でも、二つお願いがあります」

「わかった。聞こう」

 焚き火が小さく音を立てた。灰が空を舞い、マルファスの足元へ落ちる。

「オルラには、サルグさんから理由を説明してください。嘘や誤魔化しではなく、本当の事を」

「それは……」

「俺は、気づかないうちに人間に親を殺されました。何も知らないうちに、俺たちは親を失いました。多分、俺たちがその場に居ても親は殺されたでしょう。他にもたくさんの大人がいましたけれど、誰も生きていませんでしたから」

 真っ直ぐにサルグを見る。

「知らないうちに親が死んでいるのは辛いです。せめて彼女には心の準備をさせてください。そして、その心配を杞憂にするために、必ず戻ってきてください。それまで、少し離れた場所には行きますが、そこで待っています」

 お互いの目を見て、お互いの意思を感じ取る。

 サルグはフッと笑うと、焚き火に小枝を放り込んだ。

「参った。どうやらマルファスの方がずっと大人のようだ。わかった。娘には明日、俺から話をしよう。そして、必ず生きて帰ってくると約束しよう」

 だから、とサルグは再び頭を下げた。

「娘を、頼む」


☺☻☺


 門を抜けたレニとヘレンが見たのは、多くの人々が行き交う街のメイン通りだった。

 街の出入り口からまっすぐ城へと続く通りは幅が広く道の左右には様々な店が軒を連ねている。

「うわぁ……」

「……うわぁ」

 二人共同じような声を上げたが、レニは立派な建物や商品が並ぶ街の様子に感動しており、ヘレンはたくさんの人間がいることに違和感を覚えてつい口を出た言葉だった。

「立ち止まるな。さっさと行くぞ」

 一二三が歩き出したのを慌てて追いかける二人は、彼の両脇に並んだ。

「どこへ行くの?」

「この国の金が無い。俺の持ち物を売って金を作る」

「お金ですか。人間はお金で物と交換するんですよね」

「変な話よね。食べられないし服にもならない物と交換なんて。損するじゃない」

 口々に話しかける獣人娘たちを放って一二三はずんずんと歩いていく。

 一二三の格好は相変わらず濃紺の道着と黒袴だったので、街の人々は奇異の目で見ているが、それ以上に彼が連れている獣人にも視線が集まる。

 獣人奴隷は珍しくないが、鎖にもつながず連れ歩き、しかも血色の良さから金をかけて養っているのだと思われているようだ。

「……獣人が、結構たくさんいるんだね」

「みんな鎖でつながれてるし、怪我してる人も多いけどね……」

 ヘレンは、次第に周りを見たく無くなってきた。

 中年の男に怒鳴られ、殴りつけられる犬獣人の少年。貴族の護衛の道具として引き回される熊獣人の男。檻に入れられ、見世物のようにさらされた、値札がついた兎獣人の女。

 それらを見ていくうちに、ヘレンはいたたまれない気持ちになった。何か一つ間違えば、自分もああなるのだ。

「レニ、やっぱり帰ろう」

「ダメだよ」

 レニはしっかりと周りを見ながら言った。

「ヘレン。やっぱり人間はすごいと思う。力とか足の速さとか、獣人は確かに人間より上かもしれないけれど……こんなにたくさんの家を作って、いろんな物を取って、作って、食べてる」

 レニはヘレンを見た。

 ヘレンには、どこか別人のように見えた彼女の顔は、緊張と驚きでガチガチになっていた。

「嫌なものも見えるけど、ちゃんと見て、できることをしようよ。人間がどんどん増えたら、ウチたちはいつかどこにもいられなくなっちゃうよ」

「レニ……」

 ヘレンがレニから逃げるように視線を離すと、檻にいる自分と同じ兎獣人と目が合った。

 虚ろに見開かれた瞳からは、何の感情も見いだせない。

 まだ、助けて、と声を上げてくれた方が良かったかもしれないと思うほど、ヘレンは胸が痛んだ。

「何か、できること……それで、あの人たちが助けられるのかな」

「わからない」

 レニは言う。

「でも、増やさないことはできると思いたいよね」

そんな会話を聞きながら、一二三は自分の計画を頭の中で練り直していた。整理し直した計画を確認し、気づかれないように視線を二人の獣人に向け、ひっそりと笑った。

 15分ほど歩くと、一二三は番兵に聞いた道具屋へと入った。

「これを買い取ってくれ」

 店に入るなり一直線にカウンターに座る店主らしき親爺の所へ向かい、取り出した魔法具を置く。

 一瞬面食らった店主だが、そこは慣れたもので、どこかの金に困った貴族の坊主かと道具を手にする。

「こりゃなんだ? 魔法具のようだが……」

「照明だ。ほら」

 一二三が魔法具の一部に手をかざすと、ほのかに光り始めた。

「こ、こりゃ驚いた! 灯りの魔法具なんて早々手に入らないぞ! お前さん、こんなものどこで」

「グダグダ抜かさず買い取れ。他に持っていくぞ?」

「わ、わかった」

 店主は店の奥から袋を持ってきて、カウンターに金貨を積み上げた。

「金貨10枚でどうだ?」

「これで、街の宿にどれくらい泊まれるんだ?」

 一二三の質問に、なんでそんなことを、と思った店主だったが、へそを曲げられて他に持ち込まれても困る。他国との交流がほとんど無いソードランテでは、たとえ中古でも魔法具は高級品だ。

「銀貨5枚で一泊素泊まりがこの変の相場だ。城に近い高級宿は銀貨20枚はする」

「高い方で」

「単純に50泊できるな」

「いいだろう」

 一二三はカウンターの上の金貨を掴むと、懐に入れる振りをして闇魔法に収納する。

「で、その高い宿ってのはどこにある?」

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ