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呼び出された殺戮者  作者: 井戸正善/ido
第十一章 荒野へ行ってもふもふと遊ぼう
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84.Road Trippin’

第二章、獣人族と騎士の国編の1話目です。

少し間が空きましたが、引き続きよろしくお願いいたします。

 一二三の特徴である黒目黒髪は、オーソングランデ国内では誰もが知る事となっているようで、巷では髪を黒く染めることが流行っているという。

 同時に、貴族の間では決して敵対してはいけない相手として虚実入り混じった噂話が万延している。

 おかげで、全ての街で誰にも止められる事も無く、行く先々で最上級の宿を用意され、街を出る際には領主や責任者などが、どんなに朝が早くても見送りに出てきた。

 その姿を見て、民衆たちは「やはりトオノ伯爵は誰もが認める英雄なのだ」と評判が加速していく。

 ともあれ、大量に闇魔法収納に放り込んでおいた食料などにほとんど手をつける事なく、街道の終点まで来ることができた。

 荒野へと向かう街道の終わりには砦があり、獣人が攻めてこないかと兵士たちが警戒をしており、一二三を止める言葉を一応はかけたものの、それ以上無理に止めようとはしなかった。

「面倒がなくていい」

 あまり地位には興味が無かったが、こういう形で楽になるのは大歓迎だ。

 意気揚々と馬に乗って荒野を駆ける。

 荒野にはヒリつくような太陽の光が降り注ぎ、街にいるよりもずっと暑いが空気が乾燥しているのか、それほど汗もかかない。

 しばらくは小石がゴロゴロしているだけの開けた土地が続いたが、一度の野宿を挟んだ二日目から、大きな岩やちょっとした林のようなものも見かけるようになった。

 そこまで行くと、小さな生き物や魔物をチラホラと見かけるようになる。

 飛びかかってくる魔物を片手間に斬り殺しつつ進み、監視されているような視線を感じるようになったのは昼を過ぎたあたりだ。

「さて、最初に見るのはどんな奴かな?」

 右手はすぐに剣を抜けるように空けたまま、左手でオリガ特製のサンドイッチを頬張る。

 出発直前に大量に渡されたので、まだまだたくさん残っているので、気にせず次々と口に放り込むと、水筒から水を飲む。

 たてがみに落ちたパンくずが気になるのか、馬が首を振るのを、「悪い悪い」と笑って払い落としてやる。

 そんなふうにのんびり進んでいるうちに、左右両方にある気配のうち右手の方から、近くの木々の間を縫うようにゆっくり距離を詰めてきた。

 太い木々が並ぶ林からの距離は10mほど。

 満腹になった一二三は、ワクワクしながら馬を降りた。

 腰の刀の位置を調整し、ブラブラと気配のする方へ向かってゆっくり歩く。

「わざわざこんなところまで来たんだ。楽しませてくれよ」

 口の中でそっとつぶやくと、一二三はひっそりと笑った。


☺☻☺


 荒野と呼ばれているが、全域が荒れ果てた乾いた大地というわけではない。いくつもの種族がそれぞれに集落を作って暮らしていける程度には恵みを与えてくれる森もあり、いくつかの大きな河とそこからの支流もある。

 虎族や獅子族など、個々の戦闘力が高く好戦的な種族同士は度々小競り合いをくり返し、犬族や鳥族などのそこそこに戦える者たちは、彼らの戦闘に巻き込まれないように自衛をしつつ暮らしている。

 そして、荒野にいながら特段の戦闘力を持っていない種族もいる。

 その代表が兎族と羊族だ。

 彼らは異種族ながら同じ集団で暮らし、攻撃的な敵種族から隠れるように移動しながら森の恵みを得て生活していた。

「ねぇねぇ、ヘレン。人間がいるよ。大丈夫かな……」

 ふわふわとした白い髪の毛に、くるりと巻いた黒い角を持つ少女が不安げに話しかけたのは、隣で同じように隠れて様子を見ている兎耳の少女だった。

 彼女の視線の先には、自分たちと反対側の林に向かって歩いていく一二三が見えていた。

「アンタなんで人間を心配してるのよ。見つかったらわたしたちも殺されちゃうのよ?」

 つり目気味の鳶色の瞳を向けて非難するが、タレ目な羊少女はでもでも、と煮え切らない表情で一二三から目を離せない様子だった。

「はぁ……とにかく様子を見ましょう。死体が残るなら、得られる物もあるでしょうし」

「怖いこと言わないで……」

 話しているうちに、遠くに見える人間が迷うことなく林へと進む。

「馬鹿ね。無防備に林に近づくなんて。魔物か虎族辺りに襲われて終わりよ」

「ウチ、なんだか怖くなってきちゃった……」

「レニは本当に臆病なんだから。……来た!」

 ヘレンの耳に、一二三の足音と別に、何度も聞いたことがある小さな足音が聞こえてきた。

 これが聞こえてきたら一目散に逃げ出していたから今まで生き残れたのだ。

「あいつ、もうダメね。虎族の足音がする」

「そんな……」

「いいから静かにしてなさい。わたしたちまで虎族に見つかったら、殺されるだけじゃ済まないんだから」

 ヘレンに叱責され、グッと口をつぐんだレニは、怯えながらも一二三を目で追っている。

「荷物と馬を残して行ってくれたら、儲けものね」

 小さく呟いたヘレンも、じっと一二三の動きを見ていた。


☺☻☺


 一二三の視線が一瞬、足元を通った小さな爬虫類に向いた瞬間だった。

 茂みから飛び上がった影が一二三に向かって覆いかぶさるように突っ込んで来る。

 一瞬で刀を抜く程でも無いと判断し、首に向かって伸ばされた爪をかわした一二三は、そのまま手首を掴んで背中から地面へと落とす。

 敵は地面に叩きつけられる寸前に手首をひねって拘束から逃れ、くるりと身を翻しながら距離を取って止まった。

「……虎の獣人か」

 独特の模様がある毛を全身に生やし、他の動物の皮で作ったらしい簡素な衣服を身にまとった虎獣人の男は、悔しげに一二三を睨みつけた。

「どうした、終わりか?」

「クソッ! チョロい獲物かと思ったが、面倒かけやがって!」

 左右から鋭い爪を持つ腕を振り回し、執拗に一二三の顔や喉を狙うが、どの攻撃もカスリすらしない。

「後ろの連中は手伝わないのか?」

「なんだと!?」

 腕が止まった瞬間、腹をひと蹴りして虎獣人を転がすと、彼が出てきた林に感じる気配に向かって出てこい、と声をかけた。

 気配を交互に見ていると、男と同じ虎の獣人らしい男女が出てきた。

「……まさか、人間に感づかれるとは思わなかったわ」

 女の方はスラリとした身体で音もなく歩き、腕を組んで一二三を見た。距離を十分に保ち、背後には木が来ないようにして、すぐに逃げられるようにとしている。

 対して、男の方は明らかに苛立っていた。牙を剥き、倒れた男に向かって叫ぶ。

「おい、ガーファン! 何を人間ごときに転がされてんだ! さっさと立ち上がって殺せ!」

「わ、わかってる!」

「ふぅん」

 一二三はスラリと刀を抜き、だらりと下げた。

「手伝わないのか?」

「馬鹿にするな! 人間一人に助けなんかいらねぇ!」

 立ち上がり、再び爪を振り回す。気持ち速度が上がっているものの、一二三の見切りを超えるには足りない。

 ひょいひょいと避けられ、ジレてきたガーファンと呼ばれた男は、雄叫びを上げて掴みかかってきた。

「なんでだよ」

 文句を言いつつ、左脇の下をくぐり抜けながら胴を一閃。

 上下に分かたれたガーファンは、信じられないという目をしたまま息絶えた。

「なんで二つ目の攻撃手段が掴みなんだよ。そんな牙があるんだから噛み付きとあるだろ。フットワークを活かして翻弄するとかしろよ」

「が、ガーファンが……」

「ちぃっ!」

 ガーファンの死を目の当たりにした二人の虎獣人は、動揺しながらも鋭い爪を出して構えた。

「お、やる気になったか」

「ああ、殺してやるぜ!」

 先に走ってきたのは男の方だ。

 一二三の目の前に来るやいなや、上半身全体を振って右手を叩きつけてくる。

 当たれば肉を削り取られそうな勢いだったが、一二三は更に加速して踏み込み、くるりと回転しながらやり過ごす。

「え……? この!」

 そのまま目の前に迫ってきた一二三に、女獣人は慌てて両手の爪を振り下ろした。

 タイミングは完璧で、顔面にいくつも縦筋の傷をつけたと確信した時、その両腕が滑り落ちた。

「ああああああっ!」

 痛みに転がって血を振りまく女獣人は、首を斬られて絶命した。

「必ずしも同じ速度で突っ込んでくるとは限らない」

 一二三は突然減速し、振り下ろされた腕を斬っただけだが、誰にも見抜けなかった。

「野郎……!」

 無視された男の獣人は怒りに震え、握り締めた拳からは血が溢れる。

「お前らにも街や村があるのか? それとも、少人数で独立して暮らしているのか?」

 のんきに質問を投げかけた一二三に、馬鹿にされたと思った獣人は答えることもなく踊りかかった。

 先ほどと同じように右腕を振り回してくるのを、一二三は飽きた、とつぶやいて右腕を斬り飛ばした。

「があああ!」

 倒れはしないものの、切断された右腕を押さえた獣人は、息を荒げて膝をついた。

 それを見下ろす一二三の目には、興味が失せたという色が浮かぶ。

「ま、待ってくれ! あんたの実力ならうちのボスといい勝負ができるはずだ! 俺が手伝うから……」

 言葉は最後まで続かず、口をパクパクと動かす首が地面に落ちると、遅れて身体の方が土煙を上げて倒れた。

「ボス、か」

 そっちはそのうち会いに行こうと決めて、一二三の視線は反対側の茂みから自分を見ていると思われる気配の方を向いた。


☺☻☺


「す、すごい……」

 羊獣人のレニは素直に一二三の力を賞賛したが、隣にいるヘレンは、兎耳を震わせながら汗をびっしょりとかいていた。

「ヤバイかも。レニ、早く逃げるよ!」

「えっ?」

「早く!」

 レニの手を引いて立ち上がると、いつの間にか人間はこちらへ向かって進み始めている。

 鼓動が早まるのを抑えつつ、冷静にと自分に言い聞かせながら、レニの手を強く握った。

 なるべく足音を立てないように。

 直線的にならないように。

 自分たちの姿が木立の影に隠れるように。

「はぁ……はぁ……」

 今までに覚えてきたやり方を懸命に思い出しながら走る。

 レニの息が荒くなってくるのがわかるが、引っ張ってでも逃げなくては。虎獣人があんなにあっさりと殺された。自分たちが敵うわけがない。

 邪魔な枝を潜り、草を踏みしめて小川を飛び越える。

「へ、ヘレン……」

「なに?」

「あ、あれ……」

 肩で息をしながらレニが指差した方向から、猛然と追いかけてくる人影が見えた。

「そんな! わたしたちに人間が追いつくなんて!」

 戦うのは無理でも、逃げ足には自信があったのだが、それも崩れ去った。

「……あれ?」

 木々の間をぐるぐると回っているうちに、一二三の姿が見えなくなった。

「に、逃げ切ったの……?」

「そういう時には、もっと距離を稼ぐもんだ」

 木の上から目の前に降りてきた一二三の声を聞いて、緊張がピークに達したヘレンは、糸が切れたように倒れた。

「気絶した、か。うん?」

 別に怖がられるような事は無いと思うんだが、と思っている一二三の目の前に、レニが立ちはだかった。

「へ、ヘレンに手を出さないでください!」

 涙を浮かべ、身体は震えているが、レニの目はしっかりと一二三を見据えている。

 やれやれ、と溜息をついた一二三は、レニの柔らかな髪を撫でた。

「別に戦うつもりで追いかけたんじゃないぞ。俺に敵対しないなら、別に殺しはしない」

「でも、虎の人たちを殺してました……」

「ああ、あれはあいつらが手を出してきたからだ」

 俺の技術は力弱い人間が、自分の身を守るために編み出した技術だぞ、と一二三は自慢げに語る。

 その雰囲気が先ほどまでの鋭い刃物のような冷たい雰囲気ではなく、楽しい話をする自分の兄たちと重なって見えた。

「本当……ですか?」

「別に信じなくてもいい。ただ、ちょっと話を聞きたいだけだ。それよりも、まずそいつをどうにかした方がいいんじゃないか?」

 一二三が指差した方を見ると、ヘレンの下半身が湿って、アンモニアの匂いが漂ってきた。

「へ、ヘレン!」

 気絶した身体を抱えようとするが、非力なレニではどうにもならない。

 かと言って、放置していけば魔物や他の獣人に殺されてしまうかもしれない。

「大変そうだな。なんなら、手伝ってもいいぞ?」

 その提案に嬉しそうな顔をしたレニは、一二三の顔を見て思い直した。

「でも、人間を連れて行くわけには……」

「なら、途中まででいい。近くに行けば、誰か呼べるだろう。代わりに、この荒野について色々教えてもらう」

 一二三とヘレンを交互に見ていたレニだったが、他に良い選択肢が思いつかなかったらしい。涙を浮かべて一二三に頭を下げた。

「そんなに怖がるなよ。別に取って食ったりするわけじゃないんだ。それどころか、ほれ」

 一二三は収納から取り出した焼き菓子をレニに投げ渡すと、馬を引っ張ってくるから待ってろと言い、あっという間に見えなくなった。

 焼き菓子を見つめていたレニは、甘い匂いに我慢できずに一口だけかじった。サクっと音を立て、口の中でほろりとほどけて広がった甘さに、思わず微笑みがこぼれる。

「良かった。人間だけど、いい人みたい」

 レニは幸運に感謝して、残りはヘレンにあげよう、と焼き菓子を布に包んでポケットに押し込んだ。

お読みいただきましてありがとうございます。

新章もよろしくお願いいたします。

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