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呼び出された殺戮者  作者: 井戸正善/ido
第七章 釣り餌は元気な方がいい
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56.Wanted Dead Or Alive 【防衛は侵攻の始まり】

56話目です。

よろしくお願いいたします。

 オリガが一二三に合流したとき、既に第一騎士隊は壊滅状態にあった。

 契り木の鎖を振り回し、分銅で騎士たちを打ち据える。顔面と喉を集中的に狙い、動きが鈍ったところで首を叩き折る。

 あちこちに折れた歯と血が散らばり、一面に転がる第一騎士隊の隊員たちは、誰ひとり息をしていない。

 第三騎士隊の面々は、サブナクの言葉で一二三の到着に気づき、全員が慌てて戦場から退いていた。

 第一騎士最後の一人が槍を突き入れるも、穂先を鎖に絡め取られて体勢を崩し、足払いで転ばされた。

「終わりだ」

 首を踏み折られた騎士は、口の端から血を流して死んだ。

「よし、片付いたか」

 契り木を仕舞い、気崩れた道着を整えているところへオリガが近づく。

「一二三様。このあたりに敵はもう、いないようです」

 オリガの報告を聞いた一二三は、第三騎士隊が固まっている方をチラリと見遣ってから、そうかと呟いた。

「それと……先ほど、ベイレヴラを発見いたしました」

「そうか。それで、そいつはどうした?」

「私の手で、殺しました」

 腕に固定し直した短剣をさすりながら、喜びとも悲しみともつかない顔をするオリガの肩に、一二三の手が置かれる。

「お疲れさん。ようやく終わったな」

 一二三には、以前小説で読んだ“仇討ちの助太刀”を思い出していた。それとはちょっと違うが、なんとなく、こういうものなのかと軽い気持ちでそんな台詞を言ったのだが、オリガはその労いの言葉で、ようやく救われた気がした。

「ひ、一二三様……」

 感極まったオリガは、溢れ出す涙をぬぐいもせず、一二三の胸に飛び込んだ。

「お?」

「申し訳ありません。少しだけ、このまま……」

 突然泣き出したオリガに一瞬疑問を浮かべた顔をした一二三は、オリガの肩を掴んで引き離し、真正面から彼女の瞳を見つめた。

「笑えよ、オリガ」

「復讐を果たして敵を殺したんだろう。嬉しいだろう? そういう時は笑うもんだ」

 しばらく一二三の顔を見ていたオリガは、ぐっと喉を鳴らして息の飲んでから、涙を流したままで朗らかに微笑んだ。

「そうだ。それでいい」

 傍から見れば、何か試練を乗り越えたカップルのように見えたかも知れないが、周囲に転がるのは騎士たちの死体だ。

 そこに、サブナクとビロン伯爵が、おっかなびっくり近づいていく。

「あの……」

「ああ、サブナクか。この先の街でも、まだ戦っているんだろう? 俺は行くから」

「いやその、あの人なんですけど……」

 サブナクが指差す先には、抜け殻のような様子で立ち尽くしたままのアイペロス王子の姿があった。

「あのガキがどうかしたのか?」

「ガキって……あれでもこの国の王子なんですよ」

 見たことあるはずですよ、とサブナクは言うが、一二三は首をかしげるばかりだ。

 邪魔をされたと思ったのか、オリガは呪い殺さんばかりの目でサブナクを見ている。

「まあいいんですけど。あの方も操られているようなのですが、ぼくたち第三騎士隊で引き取りたいのですが……」

「俺と戦う気もないガキに用は無い。好きにすればいい」

「ありがとうございます」

 一二三の返答を聞いて、サブナクは数人を集めてアイペロスの元へと向かった。

 代わりに、ビロン伯爵が一二三の前に出る。

「救援ありがとうございます。ビロン伯カムラットと申します。トオノ伯爵ですね」

「ビロン? ああ、あの手紙を寄越した伯爵か」

「ええ、この度は……」

 謝意を伝えようとした瞬間、一二三の右手が逆手に刀を抜いて、ビロンの首筋に冷たい刃があたる。

「敵がいるからと呼ぶのはいい。だが、それを自分の利益として利用されるのは気に入らん」

「り、利用するつもりは……」

「自分の街を守るために俺を呼ぶことは利用することにならないのか? 俺は敵を殺しにきたが、その敵にお前が含まれないと思い込むのは都合が良すぎると思うぞ」

 先ほどまで余裕ある微笑みを浮かべていた顔に汗を滴らせ、ビロンは刃に映る自分を見た。

「私は、自分と民衆は自ら守るつもりで……第三騎士隊もいましたから……第一騎士隊の件は計算外で……」

 荒い息を吐いて、ビロンが途切れ途切れに言ったところで、一二三は刀を離した。

「お、同じ国の貴族として、英雄のトオノ伯に助力を乞う事は……」

「戦いがあるからそこへ行く。国や所属がどうとうかは関係ない。俺の敵になるかどうかだけが基準だ。……遅れてフォカロル領兵がここへ来る。敵対するも歓迎するもお前の自由だが、互恵関係だと思うなら、与えられた利益に見合う物を用意すべきだろう、と俺は思うが?」

 ニヤッと笑った一二三に、ビロンは自分が呼び込んだモノの正体を始めて知った。敵がいれば喜ぶ戦闘狂だと思ったが、大きな間違いだったのだと。

(この男はただただ殺し合いがしたいのであって、戦いの結果に興味が無いのか)

 先ほど一二三が到着した時に、サブナクが慌てて第三騎士隊を退去させた理由が分かった。あのままでは、同じ騎士隊としてまとめて鏖殺されていたかもしれないのだ。

 王子の方へと向かう一二三の背中を見て、ビロンは自分の失策にため息を付いた。


☺☻☺


「取り敢えず、この魔法具を外すか?」

「何か副作用があってもまずい。暴れられてもまずいし、このまま王都へ連れて帰った方がいいのでは?」

「王子派の連中から、何か言われそうな気もするが……」

 棒立ちのアイペロス王子を中心に、騎士たちが意見を戦わせていたが、まだ結論は出ていない。

 そこへ一二三が歩いてきたのに気づき、全員が道を開ける。

「サブナク。こいつが王子だと言ったな」

「ええ、殺すのはやめてくださいよ……」

「イメラリアとの約束があったのを思い出したんだよ。俺はすぐには殺さん」

 言いながら、一二三は乱暴に服を引き裂き、王子の胸に食いついている魔法具を掴んだ。

「こいつの運命を選ぶのは、こいつ自身だ」

 リベザルの時と同様に、相手の身体を一切気遣わない乱暴な手段で魔法具を引き剥がした。

 周りで見ていた騎士は、それを制止することもできず、ただ状況を見守っている。

 地面へと崩れ落ちた王子に、誰も手を触れようとしない。

「う……うぅ?」

 目を瞬かせ、王子が意識を取り戻した。

「なん、だ? 一体何が……胸が痛い……? うわっ」

 穴だらけで血まみれの自分の身体を見て、一気に錯乱する王子に、バシャバシャと魔法薬がかけられた。

「起きたな。立て」

 空になった瓶を放り捨て、一二三が命じる。

「これは……」

 すっかり塞がった傷に気を取られていたが、はっとして起き上がる王子。

「貴様はあの時の……」

 憎悪に彩られた目でにらみつけるが、一二三は毛ほども動じない。

「さて、ここでお前の運命を決める選択だ」

「なんだと? 貴様、王子である僕に向かって……」

 平手打ちが一発、アイペロスの頬を打つ。

「黙れ」

 視界がチラつくほどの痛みに、アイペロスの目に涙がたまる。

「この国の王座にはイメラリアがつく」

「な……」

「お前はこれから好きにするといい。姉と敵対するもよし。恭順して何らかの地位をもらうのも手だな。……ああ、お前の母親はもうこの世に居ないから、頼ろうとしても無駄だぞ」

 最後の言葉に、アイペロスは目を見開いた。

 周りを見回して、見知った顔は近くに来ていたビロン伯爵のみだったので、彼の顔を見る。

 ビロン伯爵は、ゆっくりと首を左右に振った。

「そんな、ま、まさか……」

「ああ、俺が殺した」

 アイペロスの視線が自分に戻ってきた事に気づいた一二三は、サラリと真実を告げる。

「う、うわぁあああああ! 貴様が! 貴様はあああ!」

 錯乱して掴みかかって来るのを、右足で蹴り飛ばして転がした一二三は、無様に地面へと転げたアイペロスを睨みつけた。

「あいつらは自分で俺に敵対する道を選んだ。そして失敗して死んだ。俺を恨むのは勝手だが、その行動の責任はお前自身が取ることになると覚悟しろ」

「うぐ……」

 一二三の威圧感に、アイペロスは気圧されるが、恐怖以上に怒りの感情が強い。

「き、貴様はこの国に潜り込んだ寄生虫だ! 姉に取り入って分不相応な地位に就いただけでなく、姉を誑かし、王となるべき僕を足蹴にするなど、許されないぞ!」

 一度吐き出し始めると止まらないのか、一二三への批判は続く。

「お、王子、一先ずは王都へ戻られては……」

 サブナクが声をかけるも、王子は止まらない。

「貴様ら第三騎士隊がいかんのだ! このような者を国に引き入れ、地位を与えた結果がこれだ! 血統のなんたるかを理解しない野蛮人に、この僕を害す、る……?」

 アイペロスの視界が歪む。

「にゃ、なにゃにゃ……」

 いつの間にかアイペロスの頭は左右に別れ、血を流しながらずれていく。

 びしゃっと音を立てて倒れた時、アイペロスは頭の中身をこぼして死んでいた。

「それ以上、一二三様を侮辱することは許しません」

 殺ったのは、オリガだ。

 右手を前に突き出し、考えられる最大限の斬れ味を持った風の刃が、アイペロスの頭部を両断した。

「あちゃ~……」

 驚愕する騎士隊の中で一人だけ、サブナクだけが声を出した。


☺☻☺


「お前はここで留守番。アリッサたちが到着するのを待ってろ」

「そ、そんな……あいたっ」

 一二三にゲンコツをもらって、オリガは頭をさすってしゃがみ込んだ。

「俺の獲物を横取りしやがって。あのアホガキはあのまま泳がせたら、まだまだ国内で混乱を生み出すはずだったのに……」

「し、しかし……」

「本人より先にキレる奴がいるか。とにかく、残った奴らは俺の獲物だからな」

 憤慨しながらミュンスターの街へと単身で入って行く一二三を涙目で見送ったオリガは、がっくりと打ちひしがれている。

「ちょっと、いいかな?」

 話しかけてきたビロンに、オリガは立ち上がって一礼する。

「何か御用でしょうか?」

「ああ、あまりかしこまらなくていいよ。私は助けてもらった立場だからね。それで、トオノ伯の軍勢がこちらへ向かっているという話だけれど、ミュンスターで歓迎したいから、良かったら人数を教えて欲しいのだけれど」

 そういうことであれば、とオリガは人数と編成を伝えた。

「それで、おそらくこの街での騒動はこれで一度収束すると思うのだけれど、連れてきた軍はそのまま帰還する形になるのかな?」

 ビロンの質問に、オリガは怪しむ視線を向けた。

「いや、これだけの戦闘力があるトオノ伯が、態々軍を連れてきた理由がわからなくてね」

「……まあ、いいでしょう」

 すっと、無表情に戻したオリガは、わざとらしい咳払いをする。

「今回の行軍は、遠征訓練を兼ねたものです。本来ならどのような戦いにおいても一二三様に助力というものが不要なのは当然のことです」

 ですが、とオリガは続ける。

「フォカロル出発後に、一二三様が一度だけお考えを話されたことがあります。……魔法具で操られた者と戦っても面白くないから、ホーラントはいらない(・・・・)と」

「そ、それはつまり……」

「私たちフォカロル領軍は、準備が整い次第、ホーラントへ侵攻いたします」

 青ざめた顔をしているビロンに、オリガは更に続けた。

 邪魔をするのであれば、その勢力もまとめて潰して押し進みます、と。

お読みいただきましてありがとうございます。

今回はちょっと短めになっちゃいました。すみません。

次回もよろしくお願いいたします。

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気崩れた道着 着崩れ
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