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呼び出された殺戮者  作者: 井戸正善/ido
第四章 戦争に必要なものは、お金です
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36.Take Me Home 【スラム清掃活動(下見)】

36話目です。スラム行きの回です。

日間ランキング入りしてからすごい勢いでPVが伸びてビビっています。

沢山の人に読んでいただけるのは嬉しいです。

よろしくお願いします。

 街を進む間に刀をしっかりと腰に差し、懐から取り出した寸鉄を手の上でくるくると回しながら住宅街を抜けていく。

 館から商店エリア、住宅街と順に抜けると、職人たちが集まる工場こうばエリアがある。一二三が呼び寄せたドワーフも、このエリアに用意された作業場で一二三が依頼した物品を作成するか、街のあちこちで防御のための設備作りに勤しんでいる。

 スラムへ向かうついでに作業場を覗いてみると、プルフラスを中心に、投槍器とトロッコ、それにトロッコ用のレールを作っていた。

 工場の隅には完成済みのそれらがずらりと並ぶ。

 軽く手を上げて挨拶しながら工場に入った一二三は、投槍器の数を数えてから、プルフラスに消耗部品以外の生産を止めて良いと言った。

「武器の方の作成を止めるのか? こういう誰にでも使える強力な武器は、数を沢山揃えれば沢山の敵を倒せるんじゃないか?」

「誰にでも使えるなら、別に兵士が使う必要もないだろう。これは街を守るのに俺たちがいなくても大丈夫なように用意させたんだよ。狭間の数だけあれば充分だ」

「領主様はつかわんのか?」

「馬鹿言え。自分の手で殺さないなら、戦う意味がないだろう。ただ勝てば良いなら、とっくにヴィシーは無くなってるぞ」

 ごくごく真剣な表情で一二三が語る内容に、プルフラスは黙ってしまった。領土を広げるために戦争をしたがる王や貴族は過去に何人も居たというが、人を殺すために戦争をする狂人は初めてだ。

「次の戦場は、ローヌ、アロセール、フォカロルと移動する予定だからな。レールをどんどん作って、ローヌを目指してどんどん敷設してくれ」

「わかった。人員の配置を変更する。できれば、人手も増やしてほしいが……」

「そんならオリガに文官奴隷の誰かに言ってくれ。職員から何人か回すだろう。じゃあ、俺は掃除に行ってくる」

「掃除?」

「領主として、暮らしやすい街を作る努力をするんだよ」

「はぁ」

 よく判らないまま一二三を見送ったプルフラスは、先ほど言われたことを頭の中で整理して人員の配置を考えているうちに、ある事に気がついた。

「ローヌからアロセール、フォカロルだと? どんどん押される予定というのはどういう事だ? 領主様は今度の戦争は負けると思っておるのか?」

 最終的にフォカロルの防御と投槍器で敵を足止めして援軍を待つのだろうか。

 考えても判らないので、どうせ自分には物を作る能しかないのだからと、依頼されたレールの作成に取り掛かることにした。


 工場エリアを過ぎると、多くのゴミが打ち捨てられた廃棄場がある。木材や布の残骸がほとんどで、金属は価値があるらしく、ほとんど見当たらない。中には動物の骨や、一部人骨と思しきものも見える。

 悪臭を放つその場所は、時々職人やどこかの使用人がゴミを捨てにくる以外には誰も近づかない。

 ゴミの山の間に、細い通路が通されており、そこを抜けるとスラムとなる。

「道着に臭いがついたな、こりゃ。帰ったら念入りに洗わんとな」

 道着はぬるま湯手洗い陰干しが必須だと熱く信じている一二三は、領主になっても衣類は自分で洗っていた。オリガが侍女に任せるようにやんわりと言った事もあるが、譲らなかった。

 トルンに作ってもらった篭手も、手入れはしているが大分くたびれてきたと思いながら、のんびり歩く一二三の感覚に、道の先に二人隠れているのがわかった。さらに、その先に二人が立っている。

(挟み撃ちにしたいんだろうが、ゴミの中に隠れるか……)

 ため息混じりに刀を抜いた一二三は、ゴミの中にある二つの気配に向かって、順に突き刺した。

 手応えはあった。声も出なかったのは二人共即死だったのだろう。

 引き抜いた刀の先に赤い液体が流れている。

「な、なんてことしやがる!」

 一二三の突然の行動に、道の先に立っていた二人が走り寄ってきた。二人して必死にゴミの山をかき分け、ぐったりとした死体を見つけて驚いていた。

「何もしてねぇのにいきなり刺すなんて……」

 走ってきたのも死んでいるのも、十代後半くらいだろうか。死んでいる方の一人は女性だったようだ。

 責めるような視線を浴びても、一二三はどこ吹く風だ。

「何かしようとしたんだろうが。反撃された程度で被害者ぶるなよ」

「なんだと! 脅すだけにしてやろうと思ったが、殺すぞ!?」

「馬鹿が」

 激昂して一二三に食ってかかってきた青年は、心臓を一突きされて倒れた。

「殺すという言葉で脅すなら、それだけの力か状況を作れよ。もうすぐ死ぬ奴が言っても滑稽なだけだぞ」

 死体に向かって説教をした一二三が、生き残った一人に視線を向けると、腰を抜かして震えていた。

「こ、こんなに簡単に……」

「簡単に殺せるように必死で稽古してきたんだよ。それより聞きたい。この先のスラムには何人住んでいる?」

「し、知らねぇ! 死ぬ奴もいつの間にか入ってきてる奴もいるから……」

 声が上ずっており、失禁もしているらしい。

「じゃあ、スラムをまとめてる顔役みたいな奴はいるか?」

「と、トルケマダさんの事か? アイツなら教会跡を根城にしている! た、頼むからいの……」

 最後まで聞くことなく、一二三は青年の首を刎ねた。


「教会跡……か」

 ゴミの山を抜けると、ボロボロに朽ちた家々が並ぶ街が見えた。

 屋根も落ちて無くなってしまったようなあばら家がほとんどだが、気配からするとそれなりの人数が住んでいるらしい。外に出て歩いている者はほとんどいないが。

 警戒の視線を感じながら、涼しい顔で歩いていると、道の先に少し他とは造りの違う建物が見えてきた。三角の内側に丸く切り抜きがあるオブジェが屋根の上で腐っている。

「ひょっとして、あれが教会か? そう言えば、この世界の宗教とかは聞いたことが無いな。こんどオリガに聞いてみるか」

 相変わらず、この世界についての知識はオリガ頼りな一二三だが、質問するとオリガはむしろ喜ぶので、まあいいかと思っていた。

 教会らしい建物に近づくと、十数人の男たちがゾロゾロと一二三を取り囲んだ。誰も彼もがサビの浮いた武器を持ち、荒んだ目をして睨みつけてくる。

「出迎えご苦労。トルケマダとか言うのはどいつだ?」

 刀に手もかけずに問う。

「トルケマダさんに何の用だ? 妙な服を着やがって、てめぇは誰だ?」

「それが教会跡だな?」

 つばを飛ばして質問してくる男を無視して、一二三は目の前の建物を指差す。

「それがどうした!」

「それが知りたかっただけだ」

 指差した右手をクルッとひねると、寸鉄の丸く尖った先が男の方を向いた。

「は?」

 反応するより早く、顎に打ち込まれた鉄の楔は、顎関節を外したのみならず、下顎を二つに叩き割った。

 顔を押さえて悶絶する暇もなく、今度は頭蓋を叩き割って、殺す。

「こ、こいつ!」

「殺せ! こいつはあぶねぇ!」

「危ないとか……失礼な」

 口を尖らせて文句を言いつつ懐に寸鉄を放り込み、抜き打ちで二人分まとめて喉を斬る。

 血しぶきを上げる二人の間を抜け、また一人、背後から首を貫く。

「や、やめ……」

 武器を捨てて逃げ出そうとする男の足を蹴り、転んだところを踵で目の部分を踏みつけて顔面ごと頭蓋骨を砕く。

 後ろから近づいてきた男の剣をかわすと、相手は後ろへ向けた切っ先に勝手に突っ込んできて死ぬ。

 引き抜いた勢いでもう一人も斬り殺した。

 一方的に殺されていく仲間を見て、残った者たちは無意識に足が後ろへ下がっていく。

「そら、まだ9人もいるじゃないか」

 爽やかな笑顔で踏み込み、また一人の首を刎ねた。

 剣を振りかぶる男の手首を掴み、ひねり上げて自分の首を斬らせる。

 その死体を蹴り飛ばしてよろけた者は、顔を上げたところで眼球ごと脳を刺された。

「もういい、やめてくれ!」

「ダメだ。死ね」

「そん……」

 命乞いは一言で拒否。哀れな男は頭蓋を鼻まで断ち割られて死んだ。

 斬撃の勢いに両方の目玉をこぼした男が倒れた時、教会から誰かが出てきた。

「そこまでだ!」

 上背のある鍛え上げた身体をした40歳前後に見える男だ。手入れがされた大きな剣を担いで、死体が転がる教会前に駆けてくる。

 一二三は、それを気配で感じつつもう一人の大腿部を切断して転がした。

 男が制止の声を上げたとき、油断して動きが止まったために狙われたのだが、今更どうしようもない。血の海に沈んで失血死を待つばかりとなっている。

「この! なんて奴だ!」

 制止も聞かずにさらに殺していく一二三に、割り込んだ男は剣を抜いて一二三の前に回り込み、振り下ろされた刀を受け止めた。

「ほう……」

 ほかの連中のボロボロの剣であれば、無視して断ち切ったであろう斬撃は、分厚い刀身の剣に半ばまで食い込みつつも止められた。

「細いくせになんて力してやがる!」

 尋常ではない圧力に必死で耐え、歯を食いしばっている男の腹を蹴り飛ばして転がす。

 素早く立ち上がって剣を構え直した男に、一二三は少し興味がわいた。

「他のゴミと違って、少しできる奴が混じってたか」

「スラムの人間じゃないな? 一体ここに何の用だ?」

「ここのまとめ役に会いに来た。そこでこいつらが喧嘩腰で取り囲んで来たから殺した」

 シンプルだろう、と笑いながらも、刀を押さえ込む力は毛ほども緩まない。

 生き残った男たちも、遠巻きに見ているしかない。

「あのビフロンさんが……」

 つぶやきから目の前の男の名前が知れる。

「ま、待て! 要件があるなら聞こう。手下たちが迷惑をかけた事は謝る!」

 ビフロンの言葉に、一二三はすっと刀を引いた。肩で息をしているビフロンに対し、一二三は汗一つかいていない。

 実力的にも、精神的にも化物だとビフロンは思った。周りに倒れる仲間たちの死体は、余計な傷は無く、殺すための攻撃ばかりを受けている。迷いが見えない。

「ここのまとめ役に会わせろ」

「……わかった。付いてこい」

 目の前の男をトルケマダの元へ連れていくかどうか、ビフロンは迷ったが選択肢は無かった。ここで全員が殺されてからトルケマダの所に行かれるよりは良いと判断したのだ。

 死体を片付けるように生き残った連中に言って、ビフロンは一二三を連れて教会跡へと踏み込んでいった。


 イメラリアの命により、王城では第三騎士隊を中心とした軍の編成計画が進められていた。名目としては、攻勢に出ると思われるヴィシーに対して、新領地及び一二三の領を支える為の援軍である。

 数は5000程が用意できる見込みで、パジョーやミダスにそれぞれ部隊を任せて進軍する。

 イメラリアは政務を熟しながらも軍への口出しも積極的に行った。本来なら一般の兵達の統率を行う第二騎士隊はそれが面白くない。王女とは言え、女に軍務について口出しされるのが、第二騎士隊上層部の気に食わなかった。

「本来なら我々第二騎士隊こそが、戦いの主導者となるべきはずなのだ」

 王城内にある自らの執務室で静かに語る初老の男性は、伯爵家当主であり第二騎士隊隊長を務めるスティフェルスだ。彼の話を直立不動で聞いているのは、二人いる副隊長たちである。

「隊長のおっしゃる通りです。本来ならば王の号令の元、我々が率いる兵たちが戦いに赴くのが筋でありましょう!」

「王が亡くなり、王子がまだ正式な戴冠を終えていないとは言え、これは越権行為ではありませんか?」

 二人の副隊長もスティフェルスと同様らしく、聞えよがしに王女の批判をする。

 越権行為とはいうものの、実は騎士隊の役割分担にも王族の指揮系統にも明文化された決まりはない。王妃が憔悴しており、王子も年若いという理由もあり、イメラリアが中心となって政務を行っていても特に問題なく王城が機能しているのはそのためだ。

 文官たちなどはそれをわかっているため、素直に王女の指示で動いている。

 だが、武官となると慣例に対して頑なになりやすいらしく、元々王女派閥と言ってよかった第三騎士隊が柔軟に対応しているのに対し、第一、第二騎士隊は自分たちの扱いが日毎に悪くなっているような鬱憤があった。

「なに、小娘が粋がって惚れた男のために兵を集めておるだけだろう。第三騎士隊の腰抜け共と仲良く遠征ごっこでもしておれば良いのだ」

「しかし、このままではまた第三騎士隊が手柄を上げるのでは……」

 第二騎士隊の焦りは、侯爵の密貿易事件などで手柄を上げ、王女とのつながりと評価を磐石にしつつある第三騎士隊に比べて、特に手柄が無いことにあった。

 第一騎士隊は王を守れなかった事で大きく評価を落としていたが、第二騎士隊に関してはゴデスラスという問題児が処分された事もあるが、そもそも活躍の場そのものが与えられていないという不満がある。

「領軍と援軍をあわせて5000程度。ヴィシーは総力を上げて奪還に来るだろう。負けはせんかもしれんが、圧倒的な勝利など不可能だ。案ずることはない。それよりも、我々は勝利を上げることができる舞台に立つべきだ」

「勝利の為の舞台……ですか?」

 手元の命令書にサインをし、スティフェルスは立ち上がって二人の副隊長に渡した。

「丁度、ホーラントとの国境では睨み合いになっている。我々の手でも国土を広げてみせようじゃないか。何もあの若造だけにできる事ではないと、証明してみせるのだ」

「なるほど!」

「さすがですな閣下! 我々とは視点が違う!」

 二人の副隊長が口々に誉めそやすのに、頷いて応えると、スティフェルスは堂々とした態度で言った。

「兵を集めたまえ! 我々第二騎士隊の実力を、オーソングランデ中、いや、世界に響かせるのだ!」

 高揚した表情で部隊編成に走る部下の姿を見て、スティフェルスは満足げに頷いた。

お読みいただきましてありがとうございます。

感想や誤字脱字のご指摘も、本当にありがとうございます。

誤字多すぎて泣きそうですが、頑張って修正します。

また次回もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] よくこんなんで今まで国が存続できたなと思わされた
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