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呼び出された殺戮者  作者: 井戸正善/ido
第四章 戦争に必要なものは、お金です
33/184

33.Overjoyed 【騎士たちの狙い】

33話目です。

久しぶりに殺人シーンを書いた気がします。

よろしくお願いします。

 王都に戻り、イメラリアへの献策を終えたあとも、パジョーには休む暇もなく仕事が山積みだった。多くの報告書を王城の管理部門へ提出せねばならなかったし、第三騎士隊の他の騎士たちとのすり合わせも必要だったためだ。

 王城傍にある第三騎士隊詰所。以前パジョーがティータイムを楽しんでいるところに一二三が乗り込んできた、死んだゴデスラスが一二三に絡んできた場所だ。

 今はパジョーの他にサブナクやミダスなど、一二三を多少なり知る隊員が集まっていた。

「危険な賭けだと俺は思う。少なくともヴィシーが一万や二万の兵を集められなければ成立しないし、よしんば数は揃ったとして、あの男を抑え込めるかどうかは未知数だ」

 パジョーが提案し、イメラリアが採用した策を聞いたミダスは、腕を組んでしばらく考え込んでから、はっきりと危険だと言った。

「ミダス先輩の不安もわかりますが、ぼくは良い策だと思いますよ。フォカロルの兵力なんて、住民から募兵しても二百いきません。いくら個人が強くても数の差はどうしようもないでしょう。それに、ヴィシーと戦う事自体は最初の既定路線から外れていませんから、一二三さんと敵対したことにはならないという部分が良いですね」

 ミダスの意見に反論するのはサブナクだった。

 一二三に言われた通り、一二三が侵略した通称“新領地”の担当となることが内定しているが、それは今回の戦争が落ち着いてからという事になり、丸一日の休暇を夢の住人として過ごした為、今はすっかり元気になっていた。

 二人の意見に賛否両論、意見は百出したものの、これといって全員が納得できる意見は出ず、結局はイメラリアが採用したのだから、それに従うのが我々の役目だという事で状況を見守る事になった。

「というか、既に動き出した事に関してここで色々言っても仕方がないだろう」

「そうでもありませんよ。それに、ここに集まっていただいたのはこれからの事を相談したかったからです」

「これから?」

 一通り状況が理解されたと見て、パジョーはこの集まりの目的を語り始めた。

「これはまだ未定であり予測ではありますが、イメラリア様とヴィシー代表による講和の舞台は、おそらくフォカロルもしくはアロセールになると思われます」

 パジョーの予測は、騎士隊員たちに概ね理解された。

 まさかどちらかの王都近くまで行くわけにも行かず、多少優位の状況での講話である以上は、国境近くの勝者側が会談場所となるのが慣習だからだ。今回の場合は、新しい国境か旧国境かの違いであり、戦後の状況によってどちらかになるだろうことは、誰でも納得できた。

「今回の講和に護衛としてついて行くのは第一騎士隊ではなくわたしたち第三騎士隊になる見込みです」

「第一でも第二でもなく、ぼくたちが?」

「そう。第一騎士隊は一二三さんに忌避感があるし、余計な刺激を与えかねない。それに王子殿下を含めて王城の警備から離れられない……という言い訳をしてくるだろうということね。第二騎士隊は王都警備があるし、こういう会談の警備は民衆に紛れてやる部分もあるから、苦手な分野でしょうしね」

 なるほど、と全員に納得の雰囲気と、大舞台が用意された興奮が湧き上がってくる。陰ながら王都王城を守護してきた自負があるが、大仕事をおおっぴらにやれる機会は少なく、実力を見せるチャンスだと意気込む気持ちがあるのも仕方がない。

 だが、その跡に続くパジョーの言葉で、全員が一気に興奮から冷めた。

「国境での王族による会談だから、念のためということで数千の戦力は連れて行くことになるわ。そして、状況によっては……一二三さんを討つことになる」

「なっ……どういう事だ?」

「もちろんこの場にいる者以外には他言無用よ。これはイメラリア様のお考えだからね。もし、うまくヴィシーの攻撃で彼が怪我などで危機的状況にでも陥った状況にあれば、国内側からわたしたちが率いる兵力が援軍と称して彼を背後から攻撃する」

 黙り込んでしまった室内で、パジョーは湿らせる程度、紅茶に口をつけた。

「彼のところに乗り込むのはここにいる隊員だけで、全てが終わったあとは、彼は追い詰められて自害したという形を取ることになるでしょうね」

「む、無茶を言うな。数人程度で彼を殺せるわけがないだろう」

 ミダスは一二三が十人の刺客を簡単に返り討ちにした姿を見ているだけに、その目の前に立つ事は想像すらできなかった。

「もちろん、彼がそれほどの状態で無ければ、表向きの理由通りに和平の為の会談をしてから、一二三さんは国境近くの領地を安堵されて終わりだけれど。もし機会があれば、彼をどうにかしたいとイメラリア様はお考えだし、わたしもそれに賛成だわ」

 助けられた事もあるし、何日も行動を共にした、同じ国の貴族ではあるものの、イメラリアもパジョーも、仲間意識以上に一二三を危険視していた。

「そんな……」

「……それがイメラリア様のお考えなら従おう。私としては、彼には子爵領で落ち着いてくれる結果になることを祈るしかないな」

 少なからず一二三に魅力を感じていたサブナクは絶句し、ミダスは淡々と受け入れることを選択した。

「だが、彼がどのような状況にあるかをどうやって知るんだ? 見える距離に近づく前に察知されてしまうのがオチだろう」

「それには、一人協力してもらおうと思っている人物がいるの。彼女なら、一二三さんの傍に居ても問題ないはず」

「それって……」

 思い当たる人物がいるのか、サブナクは信じられないという目でパジョーを見た。

「人道にもとる行為だという事は重々承知しているから、そんな目で見ないで。でも、これ以上の策はわたしも思いつかなかった」

 誰も、パジョーに賛同することも反論することもできないまま、第三騎士隊のミーティングは終わった。


 一二三と彼の軍勢が新国境となったローヌへ到着してから、10日程が経った。

 この間に、ローヌは新設された国境の砦と兵たちの宿舎を残して街中は大改造がされていった。住民は全滅しており、建物はほぼ無傷なので何かを作るには資材は山ほどあるし、数名連れてきたドワーフと、工兵隊他人手は充分ある。

 これを活かさない手は無いと、一二三は王都から派遣された国境警備兵の訝しむ視線を無視して、あちこちの造り変えを指示していった。

 いくつもの家が解体され、ドワーフたちも兵たちも、不明瞭な説明で良くわからないものをアレコレと作り続ける日々だった。

 その日常が十一日目で終わる。

 ボロボロに汚れたデボルドが馬にしがみつくようにしてローヌへ逃げ込んできたのだ。

 国境警備兵に保護され、街にいる最上位の者である一二三へ即時報告が舞い込んできた。

「おう、帰ってこられたか」

 見送った時の予測は外れたか、と笑いながら、報告に来た兵の肩を叩いた。

「確か、デボルドは和平の講和準備に派遣されたはずでは?」

「和平か。ヴィシー中央委員会が、自分たちの国にかけらも愛着が無ければ、和平の講和が進められたかもな」

 デボルドが持っていた親書を透かして見たとき、内容の一部を盗み読む事ができた一二三は、その中身がヴィシーへの挑発と言ってもまだ表現が柔らかいと判断できるような内容だった事を知っている。

「あの書面を受け取っても仲良くしようと思うなら、そいつは破滅願望でもあるんだろう」

 疑問顔のオリガを従え、アリッサには兵への準戦時配備令を出すように伝えた一二三は、

報告に来た兵について足早に部屋を出た。


 砦そばの民家を接収して詰所として利用している建物で、デボルドは治療を受けていた。と言っても、疲労はあるものの目立った傷は無く、ちょっとした傷程度にわめき散らすので、治療のフリをして簡単に布を巻く程度だが。

 ベッドの上で腕に包帯を巻かれていたデボルドは、入ってきた一二三の顔を見るなり食って掛かってきた。

「き、貴様のせいだ! 貴様のせいで俺はこんな目にあったのだ!」

 掴みかかってくるデボルドの腹を蹴飛ばしてベッドに戻した一二三は、冷静な声で言った。

「報告は順を追って簡潔に。対応するにも状況がわからんではな。ヴィシーで何があった。ぞろぞろついていった護衛はどうした」

「ぐ……」

 渋々とデボルドが語るには、護衛はどうやら全滅したらしい。

 使者として堂々とヴィシー中央委員会が集まる都市エピナルへと入ったデボルド一行は、その日のうちに委員会と会う約束を取り付け、翌日には委員会の面々と会談を行うことができた。

 委員会の一人に親書を渡し、委員が読んでいる間、如何にオーソングランデのイメラリア王女が慈悲深い人物であるか、そのあり方に心酔している自分が忠臣として赴いたのは必然であると語っていると、無礼にも親書を投げ返され、会場にいた兵達に襲われたという。

「ヴィシーの委員たちは、貴様がこの街で行った虐殺を非難し、貴様を討つかオーソングランデで処刑されない限りは戦いを続けると言っていた! 王女殿下のお気持ちを踏みにじり……がっ?!」

 一二三は、鼻息荒くしゃべり続けるデボルドの頭を掴んで壁に押し付けた。

「別にこの街が滅んだのを俺のせいにするのは勝手だけどな。護衛は全部死んだんだろう。侍従たちはどうした?」

「わ、わからん……。宿に待たせて、そのまま委員会に会いに行ったから……。それより、は、離せ!」

 ジタバタと暴れようとするが、一二三の親指と小指がギリギリとこめかみに食い込み、痛みで力が入らない。

 その間に、デボルドの懐からはみ出していた書類を抜き取る。それは投げ返されたというクシャクシャになった親書だった。片手でさっと開いて確認すると、間違いなくイメラリアの署名が入っており、内容は透かし見た時の文面もあった。

「これは今から利用価値があるかもな。俺がもらっておこう」

「貴様、それは王女殿下からお預かりした、ああぁぁぁ……」

「お前の役目は終わったんだよ。俺は今からお前がおびき寄せたヴィシーの連中と遊ぶから、出番が終わった役者はさっさと舞台を降りないとな」

 言いながら、一二三が手に込める力はどんどんあがり、既に指先はこめかみを割ってめり込んでいる。

「まさか……や、やめろ、いやだっ、やめてくださ……ぐぎっ」

 ぐしゅっと湿った音がして、デボルドは永遠に黙り込んだ。

「オリガ。間もなく敵は来る。アリッサのところに言って作戦開始を伝えて持ち場につけ」

「わかりました」

 デボルドの死に様を冷静に見届けたオリガは、素早く部屋を出ていった。

 一二三が後から部屋を出たときには、既に国境警備の兵も一二三の兵に指示されて、砦から退避していた。

「さあ、イメラリア。どうやらヴィシーにいる間だけ、あの馬鹿には幸運の女神がついていたらしいぞ。計算が狂ったのか、ここまで見越していたのか。少なくとも、親書がここにあるのは予定外だろう」

 親書を懐に納めながら、一二三は笑った。


 デボルドを追ってきたヴィシー兵は300人に達する。

 これは工作員からの情報で一二三の私兵が100人程度である事を知っていたからの数字であり、直ぐに動かせる兵力としては最大だったためだ。

 委員たちが私兵を集めて組織した軍であり、統率は今ひとつではあったが、一人の敵を追うには充分すぎる数だった。

「間もなく、ローヌの街です」

 副官の言葉に、隊長として軍を率いる男は無言で頷いた。

 馬を進めながら、男はこの機会にローヌの街を取り戻す事を狙っていた。命令としてはオーソングランデの逃げた使者の追跡と捕縛だったが、獲物がローヌへ逃げ込んだとしたら、致し方ないという言い訳もできる。

 その言い訳のために、多少追跡速度が遅くなったのも、デボルドがローヌまでは生還できた理由だった。

「街が見えてきましたが……見張りがいないようですね」

「国境と言い張っている場所だ。あの門を抜けた向こうにいるんだろう。全員、剣を抜いて戦闘準備! 門を一気に抜けて敵を屠る!」

 掛け声に兵たちが呼応するのを聞きながら、ここでローヌ奪還に成功すれば、自分もどこかの都市国家の代表になれるかもしれないという期待が膨らむ。

 期待は、男の背中を押した。

 先頭部隊を先頭に、300名は列をなしてローヌへ突入していく。

 半分ほどが駆け出したところで、隊長も馬を進めようとしたが、先頭集団から悲鳴があがり始めた。

「どうした!」

 前方から伝令が駆け寄り、通路にロープが張られ、足を取られた数名が後続に踏まれて犠牲が出ていると言ってきた。

「馬鹿どもが! 足元もろくに見えんのか! 速度を落として侵入しろと伝えろ!」

 怒声を張り上げながら、隊長は自分が先陣を切らずに良かったと思っていた。馬の足を取られて落馬したら、恥どころか大怪我、下手すると死にかねない。

 出鼻をくじかれ、もたもたと大人数を街へ入れたところで、ヴィシー兵達は街の様子をみて呆気にとられた。

 遅れて入場した隊長も、目の前の異様な光景に呆然としている。

 街は入口から真っ直ぐに大通りが続いており、街に人がいた頃は多くの店が並んで賑わっていただろう。そこに人がおらず、閑散としているところまでは理解できた。しかし、建物全ての出入り口が板を打ち付けられており、建物のあいだの通路にも、腰の高さまで木材で封鎖されていた。

 まるで、道は目の前の一本のみだというように。

 そしてその道の向こう、先頭部隊から500mほど先に一人立つ異装の男。

 男は剣にしては細い武器を右手に持ち、適度にリラックスした自然体で佇む男は、ゆっくりと手招きをした。

「よく来たな追跡者諸君。名乗りは無用だ。さっさとかかって来い。殺してやるから」

 たった一人で無謀にも300の兵を挑発する男を、隊長は鼻で笑って号令をかけた。

「大馬鹿者が一人いるだけだ! さっさと殺して我が国の反撃の契機とする! かかれ!」

 先頭集団が剣を構えて駆け出した。

 これが、ローヌで行われた第二の虐殺の始まりだった。

お読みいただきましてありがとうございます。

いよいよ次回は虐殺シーンが書けそうです。

次回もよろしくお願いします。

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