22.Another One Bites The Dust 【新しい仲間と簡単な因果応報】
22話目です!
休日なのでのんびり書いていたら、初めて感想をいただきました!
何度も読み返して、色々と考えることができました。ありがとうございます。
色々と粗の目立つ小説ではありますが、これからもよろしくお願いいたします。
一二三からの誘いに、アリッサは首を縦に降った。
「僕にはもう両親もいないし、国境警備が長くて、特に知り合いもいないんだ。だから、一二三さんに付いてく。復讐もしたいと思うけど、それよりも、恩返しをしたいよ」
アリッサは、一二三の目を見て言った。
「国境では急にみんなが殺されたり、兵長たちには殴られたり無理やり走らされたりして、ついさっきまでは、何がどうなってるのか訳がわからなくて、体中が痛くて、もうどこがどう痛いのかも分からないくらい痛くて、このまま死んじゃうんだと思ってた……」
うまく思考がまとまらないのか、アリッサはところどころつまりながらも語り、それを一二三たちは黙って聞いていた。
「でも、一二三さん達が助けてくれて、痛いのも全部直してくれて……。でも、僕にはお礼になるだけのお金も何もないから、だから、一二三さん達の奴隷にしてもらって、役にたてたらと思って……」
奴隷という言葉が出て、オリガが思わず笑みをこぼした。
「アリッサ。私もカーシャも、一二三様の奴隷なんですよ?」
「えっ? そんないい装備着てるし、貴族の一二三さんと親しそうに話してるし、従者とか、その……愛人とかだと……思ってた」
「まあ確かに、アタシたちが奴隷だって事を忘れそうなくらい、いい待遇してくれるよ。でも従者か、悪くないかもね」
「愛人なんて、そんな……」
カーシャとオリガでは、食いつくポイントが違うらしい。一二三は冷静に反応を見ながら、収納から干し肉とパンを取り出して、齧っていた。
「ご主人、アリッサが自分の人生を決めようとしてるのに……」
「腹が減ったんだよ。気にするな」
水も飲まずにバクバクと食べながら、ふと思いついたように一二三が言った。
「奴隷奴隷って言ってるけどな、オリガ達は王都に戻ったら解放するぞ?」
「え、なんで?」
「ご、ご主人様?! 私たちに何かご不満があられるのですか? 改善しますので、どうか……」
カーシャはきょとんとしているが、オリガは一二三にすがりついてきた。
「何を驚いてるんだ。ベイレヴラを捕まえて、お前らが奴隷になった原因の事件が解決したら、別に奴隷のままでいる必要はないだろう?」
オーソングランデの法律がどうなっているかは知らないが、いわれのない罪で罰を受けているなら、冤罪が証明されたなら罰は無くなって当然だろう。
「でも、ご主人があたし達を買うのに払ったお金が戻ってくるかどうかわからないんじゃない?」
「別にいいさ。金が惜しいわけでもない。この世界の常識とかについて教えてくれる奴が欲しかったのと、旅をするのに一人だと不便だと思ったからだし。二人を選んだのも、まあ見た目が良かったのもあるが、能力的にも俺についてこれそうだったからだな」
言ってしまってから、残りの干し肉を口に放り込む。
「でもな、さっきも言ったが、解放はこの件が終わって王都に戻ってからだ。それまでに、自由になってからどうするか、考えておけばいい」
「あの……僕はどうしたらいいんでしょう?」
すっかり話題に置いていかれたアリッサがおずおずと訪ねると、一二三はしばらく考える。
「そうだな。別に奴隷はいらん」
「そうですか……僕みたいにチビで弱いのは使えないよね……」
うつむいてしまったアリッサを、オリガは不安そうに見ているが、主人の前で勝手はできないと黙っていた。
「俺はまだ、ここではなんちゃって貴族の根無し草だからな。そんなにたくさん奴隷を抱えてもしょうがない。だが、自分の意思でついてくるならそれでもいい」
ばっと顔を上げたアリッサに、さらに一二三は続ける。
「ただし、俺にはある目標がある。というより、この世界の連中の戦い方を見て、決めたことがある」
「決めたこと?」
「内容はまだ言わないが、お前たちが今まで見たよりもたくさんの血が流れる。ついてくるなら沢山殺す必要があるし、殺される可能性ももちろんある」
アリッサは、一二三が戦う姿を見たは国境での一度だけだが、他のオリガとカーシャの二人の表情と、小さく聞こえた「あれ以上?」という言葉から、相当な修羅場だという事は理解できた。
「でも、僕はそんなに強くないから……」
自信なく言うアリッサに、一二三はニヤリと笑った。
「戦う術は教えてやろう。それに、戦うだけが仕事じゃない。必要なのは、覚悟だけだ」
そして、返答はすぐじゃなくて良いと一二三は言った。
それよりも、これからの行動についてだ。
アリッサから、この街の代表の館を聞き出してから、腰へ刀を帯びた。
「アリッサはここにいろ。オリガとカーシャはここで警戒な。敵が来たら、殺せ」
「わかりました」
オリガの返事を聞いて、一二三は馬車を降りた。
背筋を伸ばしながら、月を見上げる。
雲はまだ厚く、月明かりは少ない。
血の流れる夜は、まだ続く。
具体的には語らなかったが、一二三はこの世界について一つの結論を出しており、それに酷く不満だった。
それは、この世界の誰もが“殺されるかもしれない緊張感”に乏しいということだ。
オーソングランデと獣人族との戦いを聞いた時もそうだが、この世界での戦は精々一二三が考える小競り合い程度らしい。もちろん人は死ぬだろうが、戦争というには少ない。
個人間の戦いはもっと酷い。
魔物が強いエリアはそうでもないのかもしれないが、人同士の戦いでも“武器を抜いてよーいドン”のスポーツのような戦い方しか知らない。ちょっと工夫している奴がいる程度で、それも誤魔化しの技術であって戦う技術ではなかった。
(つまらん)
この世界へ来て、人を殺すことができて、しばらくは満足感があった一二三。しかし、どうものんびりとしたこの世界の人々に鬱憤はまた溜まっていた。
強い奴がいない。命を削って必死に自分が生きるための工夫を凝らす奴がいない。せっかく夜なべして開発した闇魔法を使う機会すらない。誰も彼もが必死で頭を捻って、戦える奴は武器を取り、国ごと命を削り取るような戦いが無い。
平和を求めるならそれでもいいのかもしれない。
だが、敵はいるのだ。
どうして誰も懸命になって相手を殺そうとしないのか。
(これじゃ、日本と変わらない)
不満をあらわに歩いてると、アリッサから聞いた街の代表の館へ着いた。
街の代表はオティスという中年の男で、この街ができた時の立役者となった商人の子孫だという。三階建ての石造りの建物は、この世界にしてはお金がある方なのか、ガラスを使った窓がいくつかある。
(居るな)
昼間に見た、アリッサ曰く兵長らしい男の気配は建物の中にある。報告でもしに来たのか、少なくとも今はどうでもいいと思った。この状況に至っては、この街で情報収集は難しい。であれば、やり方はもっとシンプルでいい。
ふと敷地へ入る門の前を見ると、露骨に気の抜けた二人の兵が立っていて、剣を腰に提げたままでいる。
それを見た一二三は、やっぱりとため息をついた。一度気になってしまうと、どうしてもそこに目が行ってしまう。
最初は話しかけようかと思った一二三だが、やめた。門番というのは最初に異常に気づき、全ての対応の起点になる重要な立ち位置だと一二三は考えている。侯爵邸の時は楽でいいと思ったが、今の心理状況では苛立ちの感情しか湧かない。
無言でさっさと近づいてくる一二三の姿を見つけた兵士たちだが、腰の武器が抜かれていない事を見て、緊張を解いた。その事も、一二三は気に入らない。
「はい減点」
一二三が柄に手をかけた瞬間、門番たちは再度緊張を見せたが、立て続けに喉を斬られて、声を上げることもできずに死んだ。
施錠されてもいない門から入り込むと、真正面に館の大きな扉が見える。敷地内には見張りなどはいないようで、室内には10人程度の気配しかない。
念のためじっくりと観察してみたが、罠の類も無いようだ。
右手に刀を掴んだまま、堂々と正面のドアを開けた。
ドアを開けると、使用人らしい線の細い若い男と目があった。
「えっ? あの……」
「侵入者だよ」
声をかけながら、反応されるより速く後ろに回り込んだ一二三は、首を軽く締めながら足を払い、正面にあっる階段の影へ男を引き込んだ。
「俺の質問に答えろ。小さな声でな。妙な動きをしたらすぐ殺して他の奴に聞く」
首に回した腕から、震えながら頷いたのがわかる。
「兵長とオティスはどこにいる?」
「今は二人共、に、二階の執務室に……」
執務室の場所を聞き出してから、ついでにベイレヴラという男を知っているかと聞いてみた。
「そ、それは……」
男の反応がおかしいと感じた一二三は、刀を滑らせて男の胸を薄く切って、脅した。
「つぅ……や、やめて……」
「止めてほしいなら、話すんだ」
「ベイレヴラという男は、以前にこの屋敷に逗留していました」
意外なところでヒントを見つけた一二三は、今までの苛立ちを少しだけ落ち着けて、続きを促した。
この男は、街の予算関係の管理をしている文官らしい。
ベイレブラは何度か訪れたことがあり、最近では今日の朝の事らしい。
(ひょっとすると、アリッサが声を聞いた男がベイレヴラだったのかもな)
さっさと逃げているかと思ったら、こいつものんびりしているらしい。
ベイレヴラは宿泊せず、朝早くに来てオティスと何か話をした後、すぐに出ていったらしい。
これ以上の情報な出てこないようなので、首を絞めて気絶させた。
さっさと殺してしまおうと思ったが、そうもいかないらしい。
歯がゆさを感じながらも、仕事として受けてしまったことを後悔しながら、一二三は階段を登っていった。
執務室の前に立った一二三は、ためらいなくドアを開いて踏み込んだ。
室内にいたのは二人。昼に会った兵長と、この街の代表オティスだろう中年の男だ。
「お前は」
言いながら剣を抜いた兵長は、ノシノシと一二三に近づいてくる。
「お前はいらん……」
身体が当たるほど近づきながら、一二三は兵長の足の甲を踏みつけ、剣を振られる前に兵長を突き倒した。弾みで、踏まれた足の足首が折れる。
ところが、痛みを感じていないのか、もぞもぞとぎこちなく立ち上がろうとするので、胸を踏みつけて刀を首に刺して止めを差した。
「さて、オティスと言ったな。聞きたいことがある」
表情一つ変えずに人を殺した一二三に対し、オティスはデスクから立ち上がる暇さえ与えられず、顔を青ざめて震えていた。
「こ、この街でワシにこんな真似をして、ただで済むと……」
「そういう話はいらない」
刀が振り抜かれ、オティスの両腕に赤い線が引かれる。
「ひぃっ!?」
「時間が惜しい。そろそろ眠いからさっさと終わらせたいんだ。ほんの数人殺す程度だと、もうテンションも上がらない」
面倒な仕事を受けてしまったと、ブツブツ言っている一二三。
「な、何が聞きたいんだ?」
「いくつかある。ベイレヴラは何者で、どこへ行ったのか、何をやっているのか。この街の兵の様子がおかしい理由もだ。さっき殺した奴も感情の起伏が乏しくて痛覚も鈍かった。一体あいつらに何をした?」
「べ、ベイレヴラはヴィシー中央から送られてきた工作員だ。どこでどうしているかは知らない……」
「今朝会っただろう? 何を話した。どんな任務を負っている?」
刀をチラチラと見ながらオティスが話した内容を、一二三は頭の中で整理していた。
ベイレヴラはいわゆる都市国家をまとめる中央から派遣されたエージェントで、主にオーソングランデからの情報を集めているとオティスは聞いていたらしい。オーソングランデ内での活動内容は聞かされていないようだ。
兵たちに関しては、中央から送られた新開発の魔法具の実験らしい。これもベイレヴラが運んできた物で、身体強化の効果があるとされ、兵士たちに配布されたらしい。
「で、感情が抜けるのは、その副作用か何かか?」
「ワシにもわからん。中央に説明を求めたが、“経過を観察しろ”としか連絡が無い。職務に支障はないんだが……」
「アリッサは魔法具をつけていなかったが?」
オティスが受けた説明だと、若すぎると強化に身体が耐えられないという事だ。
「とりあえず、今聞きたいのはこれくらいだな」
「今だと? また来るつもりか!?」
「いや、お前が来るんだよ」
首筋を刀の峰で痛打され、オティスはあっさり意識を手放した。
元より監視の薄い屋敷を出て、夜道を馬車まで戻ってきた一二三は、気絶したオティスをオリガたちに預けて縛らせ、自分は宿の中へ入って行った。
向かう先は、宿の親爺がいる部屋だ。
ドアを開けて一二三が侵入したのに気づかない親爺は、ベッドでのんきに鼾をかいて寝ていた。
刀を抜いた一二三は、眠る親爺の心臓を一突きし、血振りをして納刀。
何も言わずに部屋を出た。
「何かあられましたか?」
「忘れ物だ」
オリガの問いに短く答えると、一二三は街を出てフォカロルへ向かうと告げると、自分の馬に飛び乗った。
「ご主人、戻るのかい?」
「そいつの話だと、ベイレヴラはヴィシー中央からの指示で動いている工作員らしいぞ。今の状態で国同士の話に関わると面倒だから、調査はパジョーたちに任せる。それとアリッサ」
「は、はい!」
「今言った通り、俺たちは一度オーソングランデへ行く。それからの事はその時決めればいいが、本当についてくるつもりか?」
街だけでは無く、国を捨てる事になると一二三が告げるが、アリッサは真剣な顔で頷いた。
「構わない。そうなる事は覚悟の上だから」
「そうか。好きにするといい」
「よろしくお願いしますね、アリッサ」
「あのご主人についていくのは大変だよ? 頑張らないとね」
奴隷達と仲良く話しながら、自分が馭者をすると言って移動するアリッサに背を向けて、道を進む一二三の表情は誰にも見られていないが、笑っていた。
(これでいい。これでアリッサも俺の戦い方を吸収できるようなら、この国で、この世界で、もっと“戦いの空気”を広める事もできるだろう)
オリガとカーシャは元々ある程度の経験もあったせいか、教えられた事を上手くやれていると一二三は評価している。これは単なる実験ではあったが、もう少し馴染めば、対人戦ではこの世界でかなり強い部類に入れるだろう。
そしてさらに、魔法が使えず、力も決して強くないアリッサも、武術や戦術によって人並み以上に戦える事が証明できれば、その驚異が広まっていけば、この世界の戦いも変わっていくだろう。
個人・集団・国や街、互いに手段を選ばない、本当の命の奪い合いが始まるのだ。
その為には、ある程度の地位はあった方がいいかも知れないと、一二三は考えるようになった。多くの人を動かせる地位はすなわち、大きな戦いを起こせる地位なのだから。
(準騎士爵の地位、なんとなく受け取っただけだったが、せっかくだから利用させてもらおう。イメラリア、お前は勇者を召喚したつもりだったな。なら勇者になってやろう。この世界で勇名を轟かせる勇者にな。そしてその結果、どれだけこの世界で血が流れるか、よく見ているといい)
乱戦・混戦の興奮、夜襲の緊張感、必死に対応し、力及ばず殺される人々……。イメージだけでも、一二三の胸を熱くする。
(動かないカカシを斬ってもつまらんのだ。人が活きているから殺したいんだ)
召喚された男は、”人を殺すための世界作り”を、一人密かに決意した。
お読みいただきましてありがとうございます。
一二三さんは銃とかは嫌いじゃないけど殺した気がしないので使いません。
でも、他の武器はこれから色々出していこうと思っています。
また次回も、よろしくお願いいたします。