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呼び出された殺戮者  作者: 井戸正善/ido
幕は下り、人は生きている
183/184

183.Epilogue

※本話の30分程前に182話を投稿しております。ご注意ください。


これにて『呼び出された殺戮者』は一旦終了です。

残された者の中で、果たして誰が一番一二三を良く理解していたのでしょうか?

「なんだか、すっかり気が抜けちゃったわ」

 広場での騒動の後、城内の談話室で紅茶が入ったカップを傾け、ウェパルは疲れた顔でつぶやいた。

 死屍累々の状況であった広場は、今は綺麗に片付いており、中央に残った石像と、それを守る騎士が三名、そしてまだしばらくは立ち入りを制限するために入口に警備のためにた兵士が五名立っているだけである。

 オリガが最後に放った風魔法を使った音波攻撃により気絶した騎士たちは、城内の医務室へと収容され、同じく倒れていた魔人族たちは、死体になった者も含めて、ウェパルが呼び出した直属の部隊により、送還された。

 今は、改めて和平のための調印を行うための打ち合わせ、と称した休憩時間となっている。

 ウェパルと同様に疲れ果てた顔をしたプーセと、いつの間にか城へと呼び戻されたレニやザンガーも同じ部屋で寛いでいる。


「みなさん、お待たせいたしました」

 サブナクを伴い、談話室へ現れたイメラリアは、一礼してカウチへと腰を下ろした。

 手際良く侍女が用意した紅茶に口を付けたイメラリアは、態度だけ見れば落ち着いている。

 だが、化粧では隠しきれない涙の跡と、憔悴しきった瞳の虚ろさに、その場にいた全員が気遣うような視線を向けていた。

「私が心配するような事じゃないかも知れないけど、休んでなくて大丈夫なの?」

「ええ。今はまだやらねばならぬ事がありますので。周りの者が良くやってくれていますから、この場のお話が終われば休めますから、大丈夫ですわ」

「そうかい。なら、さっさと終わらせてしまおうかね」

 ウェパルの気遣いに、無理の見える笑みで答えたイメラリアに、ザンガーが打ち合わせの開始を促した。


 二時間ほどの調整にて、オーソングランデ及び魔人族。そしてエルフや獣人族の中でレニと行動を共にする者たちによる、条約の草案が纏まった。

 数日かけてそれぞれ持ち帰り精査し、再度の調整を行い、調印となる。

 人間側では、ホーラントにはすでにある程度の状況を通達する使者を送っており、同じような内容の条約をホーラントも改めて締結する事になるだろう。

獣人族は、あくまでレニと共にフォカロル領内で作られる予定の自治区に所属する者だけが対象となる。自治区が完成すれば、荒野からいくつかの種族が移住するだろう。その中には、レニやヘレンの両親も含まれるはずだ。

 エルフはザンガーと共に、獣人族の自治区を含むトオノ伯爵領に籍を置くことになるが、プーセのみ、イメラリアに請われる形で王城へ残ることになっている。

 魔人族は他種族からヴィシー及びソードランテ領域の支配権を認められ、これからは国家としての体制を改めて構築する事に専念せねばならない。


「やれやれ。これでようやくあたしらものんびりとした生活に戻れるかねぇ。あっちこっち歩き回って、騒動に巻き込まれて、あたしはすっかり草臥れちまったよ」

 ザンガーとレニは、連れだって王城を後にし、アリッサが一二三から譲り受けた王都の館へと向かっていた。当分は、そこを拠点として条約調印まで過ごすことになっている。

 周囲を騎士たちに護衛され、騎士ヴァイヤーを先頭に歩く一団は、民衆からの視線を集めている。その視線は一様に好意的な物だった。

 レニの狙い通り、王城前での戦闘は、周囲に住む民衆を怯えさせるに充分であり、まさか王都中心地で騒乱が起きるとは思っていなかった人々は、混乱の坩堝にあった。そこへ現れたのが、レニやザンガーを含む、獣人族とエルフの集団である。

 彼らは的確な指示と先導によって避難を手伝い、魔人族への対応で混乱している兵士たちをよそに、しっかりと人々を守った。

 結果として、少なくとも王都の人々からは、獣人族やエルフに対して悪感情を持つ者は激減したようだ。

 じっと見られて恥ずかしい、とレニは小さく肩を竦めながらも、隣のザンガーに小さな声で呟いた。

「ううん。今からが大変だと思うよ」

「おや、そうかい……そうだねぇ、今から町を作っていかないといけないものねぇ」

 やることをしっかりと把握している、立派なお嬢ちゃんだ、とザンガーは感心していたが、レニが言う“大変”は少し方向性が違った。

「町を作るのも大変だけど……ウチたち獣人族やエルフも、しっかり武力を育てていかないと」

 ザンガーだけでなく、その言葉が耳に入ったヴァイヤーも、思わず振り向いた。

「それは、どういう……」

「一二三さんが教えてくれた事です」

 ヴァイヤーの目を見て、レニはハッキリと言った。

「種族の壁が取り払われて、お互いの姿が良く見えるようになると、最初は遠慮して仲良くなる。それからしばらくすると、嫌な部分がどんどん見えてくる。そして何か切っ掛けがあると、嫌悪感はあっさりと敵対心に変わる」

 人間も獣人族も、エルフも魔人族も、数十年、数百年越しにお互いをしっかりと真正面から見ることになった。一二三と言う人物がいて、引っ掻き回したせいで一部は道を同じくすることになった。

「今はお互いを観察する期間。でも、それがこの先数年や数十年続いて、より深く知った時……また何かが起きるかも知れない」

 自分たちがスラムで町を作った時の、一時的に平和を得た時と同じ、とレニは言う。

「平和だから、戦う準備が必要ないわけじゃない。平和だから、それが壊れた時の準備をしておく。それが、今からウチたちがやらなくちゃいけないことです」

 騒動の終焉に大きなピリオドが打たれた事に当事者の誰もが安堵している時、この少女だけは、今からの大仕事に緊張を覚えていた。

ここまでお読みいただきましてありがとうございました。


前書きの通り、本作はこれにてお終いとなります。

新作を同時スタートさせておりますので、よろしければご一読ください。

また、『呼び出された殺戮者』の続編も予定しております。

これは1~2ヶ月後くらいからの掲載を予定しております。

さらに、書籍『呼び出された殺戮者2』が10月22日に発売されます。

既に予約が開始されておりますで、ぜひチェックをお願いいたします。

lack先生による躍動感あふれる一二三と可愛いアリッサ、

オリガのイラストを一度ご覧いただければと思います。

書籍情報は都度活動報告にて発表させていただきます。


最後に、長い物語を応援いただきましてありがとうございました。

感想やレビューなど、返信がまだまだ追いついておりませんが、

大変励みになりました。心から、お礼申し上げます。


(10/8追記)10/14より、続編の公開をスタートいたします。よろしければ、また拙作をよろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
うん。封印エンドかオリガに刺されエンドかのどっちかだと思ってたけど、どっちもだったか。 と言うか結局最終戦でも一二三実質負けてなくて草。次復活したらどんなことになるのかねえ。続編へGOだ!!!
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