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呼び出された殺戮者  作者: 井戸正善/ido
序 呼び出された殺戮者
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1.Flip The Switch 【かみさまの贈り物】

初投稿です。よろしくお願いします。

人死が出ますのでR-15にしています。

自分勝手な価値観を、押し通すだけの力を持った奴のタガが外れたら……みたいな内容です。

 遠野一二三ひふみが突き出した刀の切っ先は、目の前の少女の喉元にぴったりとそえられていた。ほっそりとした首筋を震わせて、涙を浮かべながら刀を見つめる少女は一言も発せずにいる。


 日本刀は美しい武器だ。『匂いたつような』と言われる刃紋は、単なる曲面ではない、人の息吹を感じさせる個性を持っていて、鋭利な本性を美に昇華していた。

 そして、

(美しい少女だ)

と、素早く少女に視線を走らせた一二三は思う。

綺麗な長い銀髪を持ち、今は涙に濡れているものの蒼く澄んだ瞳には一切の悪意が見えない。視線が合う。怯えがありありと浮かぶ瞳は、動揺に揺れて、涙が蒼白になった頬を伝う。


 少女は到底悪人には見えない。一二三は疑問を感じる。

(こういう事を進んで行うような少女には見えないが……)

 視線を外さないまま、視野を広げて周囲を伺う。常人には難しい事だが、一二三には容易い。生死の境を行き来するような稽古の中でも、ひときわ無茶だった一対多の訓練の成果である。


 古風だが豪奢な作りの部屋で、20帖ほどの広さがある。石造りの壁に窓はなく、いくつかの松明の灯りだけが瞬く。出入り口は、少女の向こう側に、大きな両開きのドアが見えるだけだ。一二三と少女が立つ場所だけ、30センチほど高くなっていた。

 周りでは、全身鎧をつけ、室内用だろう短槍を構えたいかにも『騎士』といった男たちが、一二三に槍先を向けたまま、怒りと困惑の表情を浮かべている。

「姫から離れろ!」

 騎士の一人からの怒声に、一二三は毛ほども反応を示さない。冷静に周囲を伺い、全員の装備が同じもので、人数が6人であることを確認する。背後は見えないが、気配と音が人数を教えてくれる。


 鎧は実に硬そうな金属鎧で、兜も頬当てまでしっかりついた一見隙の無いものだったが、ひと目見たのみで、一二三は刀を突き込む箇所をいくつか目星をつけることができた。

(さて、これからどうしたもんかね)

 立ち居振る舞いから、自分に敵う技量の者がいないことを感じながら、この状況に陥った経緯を思い出していた……。





 その日、一二三は日課の朝稽古を越えて、道場正面に向かい、座して瞑想をしていた。

 ゆっくりと吸い込んだ、きりっと冷えた朝の空気が、体の中を抜けていくのを感じながら、自分の中にある感情を抑えるため、微動だにせず、ただただ誰もいない道場内の雰囲気に触れていた。


 異常ともいえる厳しい稽古を物心つく頃からやってきた一二三にとって、道場にて気を鎮めることは何よりもリラックスできる時間でもある。18歳という年齢の割に落ち着いて見えるが、年相応というか、アニメやマンガ、小説なども人並みに楽しむことができる。武の才能以外は、ごく普通の青年なのだ。

 隣には、愛用の居合刀がある。余分な装飾がない、シンプルな黒拵えの刀だ。高価なものではないが、師から譲り受け、大事に大事に扱ってきた、無二の愛刀である。


 ふと、突然背後に気配を見つけた。

 二つ。しかし、悪意は感じない。


「……誰だ?」

「ほっほ、わしらの気配を感じられるか」

 一二三の問いに、しわがれた男性の声が答えた。


 振り向いた一二三の前には、ギリシャ神話に出てくるゼウスそのものの老翁と、飾り気の無い、武骨な長刀を腰に提げた戦国時代の武人そのままの偉丈夫が立っていた。

 思わず眉をひそめる。

(なんつぅミスマッチなコンビだよ。それに……)

「……人ではないな?」


 人間がもつ『生活感』とでもいうべきもの、言わば『生きている』という感じがしない。

「我は、元は人だがな」

 今度は偉丈夫が答えた。


 その立居振舞いは、相当の達人であることを伝えてくる。一二三は脇に置いていた刀をすでに手元に引き寄せ、いつでも抜刀できるように構えている。


「そう緊張するな。悪い知らせではあるが、我らがお前に何かするというわけではない」

「悪い知らせ?」

「それを説明する前に、ちょいと自己紹介をしておこうかの」

 老翁がひげをなでながら言う。

「わしは神じゃよ。まあ、いろんな宗教でいろんな神の話がでておるが、おおざっぱに言えば、この世界を管轄している神の代表みたいなもんじゃな。そして、こっちにいる侍が、この世界で武を司る神じゃな」


 武を司る神だと紹介された男が、腕を組んでにっこりと笑った。

「お前のことは時々見ていたぞ。武人が少なくなった今の時代、お前ほどしっかりと稽古を積んだものもいない。天賦の才もあるが、なにより努力で積み重ね、人の限界を超えるに至ったこと、武の神として実に喜ばしい」

「じゃがの、お主がそこまでする理由がわからん。過去を見ても、放任気味ではあるが普通の家庭に育っておるし、とくにこれといって武術に打ち込むことになるエピソードが見当たらん」


 武の神がいう通り、一二三の戦闘力はもはや自力でチートレベルである。冗談で書かれたんじゃないかとも思える、流派の始祖が残した技を全て体得し、まともにやりあえば道場の門下生全員と同時に立ち会っても簡単に勝てる。


 そこまでして戦う力を手に入れたのには、ある欲求によるものだったが、神を自称する目の前の二人には、それは見抜けないらしい。

「神と言っても、人の心を読んだりすることはできないんだな」

「わしらは万能ではないし、それなりに制限も受けておるよ。本来なら、こうして目の前に顕現するのも難しい。わしらの仕事は、この世界という舞台をつくるだけで、直接手をくだしたりはできんのだよ」

 自称神の代表者は、嘆息交じりに首を振る。

「まあいい」武の神が言う。「時間もあまりないことだし、さっさと要件を伝えるべきだろう」

「そうじゃな……その『悪い知らせ』じゃが、もうすぐ、お主は違う世界へ飛ばされるのじゃ。そう、お主の部屋にいくつかあるファンタジー小説にあるような、異世界召喚というやつで、この世界から別の世界へな」


 一二三がふっと眉をひそめると、武の神がたしなめるように言った。

「ああ、我らがそうするわけではないぞ。勘違いするなよ」

「では、なぜそうなる?」

 神だと信じたわけではないが、嘘ではなさそうだと、一二三は感じていた。


「向こうの世界の誰かがな、無理に両世界をつなぐ『歪み』を作ってしまったのじゃ。さらに、召喚のための目印がお主についてしまっておる。お主が向こうへ行かねば、歪みは元に戻らず、世界に様々な影響を及ぼすのじゃ」


 なるほど、と一二三は思った。あらゆるジャンルを読む読書家で、中でもそういう小説は割と好きで何冊か読んだ。ようするに、この二人の自称神様は、一二三が混乱しないように説明をしに来たのだろう。

(お優しいことで。さすがは神様というべきか)


「それでな、問答無用で歪みに放り込んでも良いのだが、自分の世界の人間だからな、多少は何かしらしてやりたいと思ってな」

「あっちはいわゆる剣と魔法の世界というやつだ。危険な世界である分、お前が鍛えた武の力も、存分に活かせるだろう」

「ふむ……」


 一二三は眼を閉じて、しばし考えにふけった。

 以前より一二三の中にくすぶっていたある感情が、じんじんと刺激されるのを感じる。

「まあ、話はわかった」一二三は、とりあえずその話を信じてみることにした。「それで、俺は異世界へ行って何をすればいいんだ?」

「なに、別に向こうで魔王を倒せとか、勇者になれとかは言わんよ」

一二三の質問に、老翁が笑顔で答えた。

「というより、我らとしては、お前に向こうでどう過ごしてもらってもかまわんのだ。言わば、こちらの世界から無理矢理誘拐するようなことだからな。あちらで何か頼まれるだろうが、別に聞いても聞かなくても良い」

 武の神は、口をへの字に曲げて怒っている。自分たちが管理する世界を荒らされて、気分が良いはずがないのだ。

「それにな、あちらはこの世界と違い、凶悪な魔物や魔法があり、エルフやドワーフなどの亜人が存在する。そういう世界にいきなり放り込まれても、お主とて困るじゃろう」

「だから、お前が困惑しないように、我らがあらかじめ説明をして、また、あちらの世界でも戦える力をやろうと思ってな」

「ちから? たとえば、魔法が使えるようになったりするのか?」


 一二三は魔法を使うイメージをしてみたが、どうも思い浮かばない。呪文なぞを詠唱している間に、切りつけた方が早い気がする。仮に詠唱がいらなくても、火や水が飛んでくるくらいなら、簡単によけられるだろう。目隠しをして矢を避けられる一二三には造作もない。

「いやいや、魔法というのはあちらの世界にだけある、人のイメージの力なのじゃ。だから、わしからはこういうふうにな」

 老翁が何気なく手をかざした瞬間、一二三が持つ刀が熱を帯びた気がした。

「神としての力を、その刀に少しだけ分けてやったのじゃよ。切れ味を最大限に高め、折れず曲がらず、錆ぬし欠けぬ。生き物に与えることはできんが、無力な神のせめてもの贈り物じゃ」

「そして我からは、武神の加護をやろう。いずれお前が立派に道場でも立ち上げるときにでもと思ったのだが、まあいい。今のお前の武の能力を飛躍的に伸ばす効果がある。実力がものをいう世界らしいからな。役に立つだろう」

「なるほど……」

 説明を受け、武人の加護とやらを得た一二三はふと、立ち上がって道場の隅にある居合の的になる巻き藁の前に進んだ。


 一閃。


 腰から抜き放った刀は、巻き藁を切るに留まらず、道場の壁を裂く。木板の壁が弾け、鉄骨にも傷が入っているのが見える。

「……これはひどい」

 巻藁のみを断つつもりが、刃に触れてもいない部分までがざっくりと割れてしまった。

「まあ、使っているうちに慣れるじゃろう」

「そろそろ、召喚の影響が出るはずだが……」

武の神がつぶやくと同時に、一二三の足元に幾何学模様が浮かび上がった。

「これが……」

「来よったな……。一二三よ、これから大変だろうが、なんとか頑張ってくれ。お主はお主の生きたいように生きればいい」

「武の神としては、是非お前の武を、あちらの世界で広げて欲しいところだが、まあ、無理にとは言わん」


“感動的なお別れのシーンですね”


不意に、笑いをこらえたような軽い声が聞こえた。

「……死神か。貴様を呼んだ覚えはないぞ」

武の神が渋い顔をする。

“呼ばれて来たわけじゃありませんよ”

 一二三の背後に、燕尾服の痩せた男が現れた。薄ら笑いの顔は、過度に青白く、まるで死体が話しているようだ。

“私はね、この方をずっと見ていたんですよ。これほどの死の匂いを放つ人間はそうはいません”死神と呼ばれた男は、手を打ち合わせて笑った。“人を殺すことを望む者は多くおりますが、それがここまで色濃く魂にからみついた人間は初めてです”

 一二三は死神に目線だけを向けて、無表情で黙っている。肯定でも否定でもなく、ただ死神の言葉を聞いている。

「殺伐を好むか……。それがお主の武への熱意の源だと?」

 武の神の問いかけに、一二三は答えない。

“それがめでたくも、異世界への招待を得たとなれば、これほど喜ばしいことはありません! さあ、剣と魔法の世界で、思う様その力を示すのです。貴方の前に立つもの全て、その刀で切り捨てることができるでしょう、そう、かの世界の神ですら!”

 いちいち芝居がかった仕草で、死神は一二三の前に文字通り躍り出た。

“微力ながら、私からもプレゼントを”

 死神が大げさな身振りで手のひらを向けると、一二三の体に黒い霧が染み込んでいく。

“私が最も得意とする闇の属性を差し上げました。向こうでは貴方のイメージ次第で闇魔法が使えるでしょう。それも、人知を超えたレベルで”

「もらえるものはもらっておこう」

“快く受け取ってもらえたようでなにより。魔素の無いこの世界では発現しませんが、あちらで試してみると良いでしょう”

 一二三の言葉に、にっこりと笑みを浮かべた死神は、残る二人の神にウインクをする。

「俺からも礼をしておこう」

“え?”

死神が視線を戻す前に、一二三の刀は死神を袈裟懸けに切り裂いていた。滑り落ちた上半身が、見た目より重たい音を立てて床に落ちた。

驚愕に目を見開いていた死神がぱくぱくと口を開いて、そのまま砂になって崩れる。

「ほう、本当に神も斬れたか。こいつが神かどうかはわからんけどな。だが、誰であろうと、俺を利用しようとしたことは許せん」

 一二三は無表情のまま、刃こぼれどころか曇りもみられない刀をじっと見ている。

「この刀のことは感謝しよう。俺はこれで存分に殺せる」

 まるでスイッチが切り替わったかのように一瞬前とはまるで別の人間のような、凄絶な笑みで一二三は呟いた。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

2~3日毎に更新予定です。

次回もよろしくお願いいたします。

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