チームと言う存在
「諸君、シュテルネリーベ女学園への入学おめでとう――――」
格納庫のような部屋の一室。
そこに私達シュテルネリーベの新入生は集められていた。
入学者数は私も含め、全員で32名。
その32名が綺麗に整列した前には、一つの演説台。
そして、その上に赤い髪の女性が立っていた。
「ワタシはこのシュテルネリーベの教導役をしているチューリップ・フランデレン。本日はシュテルネリーベ入学に置いて重要な事を新入生である諸君らへ伝える為にこの場に立っている」
その声は、入学試験の時に候補生だった私達に指示を出していた女性の声と同じだった。
「我々が属するこの国――マルクト共和国は小さい国だ――そしてその国民の多くが、兵力として他国に出向き、作戦をこなし、その見返りとして報酬を貰う事で生計を立てている言わば傭兵大国。君達はこれから傭兵として戦場に赴くこととなる――その時にとって重要となる事を君達に教えたいと思う」
フランデレン教官は私達一人一人の顔を見るように、隅々までその目を渡らせながら言葉を紡ぐ。
「新入生諸君――君達は、我々マルクト共和国が傭兵大国として成り立っている理由は何だと思う?」
「機甲装騎の優秀さ、じゃないですか?」
フランデレン教官の問い掛けに誰とも知れぬ新入生が一人、そんな事を口にした。
「確かにマルクト共和国が生み出した機甲装騎――――特に、PS-34は数ある装騎の中でもその性能は高く、他国への影響も強かった――――しかし、今現在、同じくらい優秀な装騎は幾らでも現れている」
「それなら――騎使の優秀さ、とか……」
「確かに、騎使の育成には特に力を入れている我が国だ、そこら辺の騎使とは一線を画する者も多いのかもしれない――しかし、そもそもの国民数が少なすぎるという難点もあるし、大国の方が騎使を育成する余裕はあるだろうな」
しばらくの静寂。
口を開く者がいなくなった事を確認すると、フランデレンは言った。
「諸君、我々マルクト共和国が、規模的には小国でありながら周囲の大国、強国を相手にしながら生き残っているのは我々マルクト共和国は『情報』を重要とするからだ。我々の武器は、強力な装騎でも、優秀な騎使でも無い――――情報だ」
「情報……」
「そうだ。我々マルクト共和国は他国よりもいち早く情報の重要性に気付き、遠隔通話を可能とする機器を作り上げた。そして、互い互いの状況把握を密とする事で、連携することにより敵の弱点を突き、作戦を成功へと導くことが可能なのだ」
今の時代、各装騎間の意思伝達は、ハンドシグナルや旗信号等と言った方向で行われる事が多い。
そんな中で、このマルクト共和国では無線通信による、ラグの少ない交信手段を得ていた。
何気なく使っていた無線機――――しかし、それはマルクトの熱意によって生み出されたこの時代の最先端を行くテクノロジーだったのだ。
「上質な装騎ではなく、上質な騎使でもなく――我々の最大の武器は、上質な情報――――そのことを各々の胸に留めておけ。では、最後に諸君らの情報を活かす為の存在――チームの紹介をする」
フランデレン教官の声で、私達の他に、数十人の女子生徒がこの格納庫へと入ってきた。
その人数は32人――私達新入生と同じ数だ。
32人は私達の前――――フランデレン教官が立っている演説台の両隣に立つと、鋭く敬礼をした。
「諸君らはこの32のチーム、その何れかに属する事となる。このチームは、諸君らの心強い味方であると同時に、最大の敵でもある」
「最大の、敵――ですか?」
「そうだ。諸君らはこのチーム単位でミッションを受諾し、その内容と結果によって報酬を得る。その報酬は個人個人の働きによって増減する。より多くの資金を稼ぎたいのであれば、時にはチームメンバーを出し抜くと言う事も必要になる。詳しくは諸君らの持つ学生手帳に概要が書いてある」
スパローは、その懐から学生手帳を取り出しさらっと目を通してみる。
どうやら、行動に応じてポイントが加減され、ポイントの結果から報酬にボーナスが付くというシステムらしい。
しかし、独断専行に対する重いポイント減算、援護による細かな加算規定などただ単純に戦果を上げれば良い、というものでもないようだ。
「それに、このマルクト共和国では情報を重要とする。それはさっきも言ったな? 故に、我々は裏切り者には容赦をしない。チームメイトとは裏切りを防止するための相互監視の役目もある。そういう意味で、チームメイトとは最大の敵、だ」
フランデレン教官は一通り、私達新入生を見渡すと最後に口を開いた。
「では、これから諸君らはそれぞれ自らが属するチームのリーダーの元に行き、それぞれの使用する宿舎へと案内をしてもらうと良い。所属チームは学生手帳の裏――学生証に表記がある。これでシュテルネリーベ女学園の入学式を終了する」
そう言うとフランデレン教官は演説台から降りると、その場から立ち去って行った。
私はフランデレン教官に言われた通り、学生証を確認する。
「チーム・ブローウィング……」
私の所属するチームはブローウィングと言うチームらしい。
「チームリーダーは……」
「アタシだ」
不意に掛けられた声に、私はその声の主へと目を向ける。
「キミはコードネーム・スパローだろ?」
「は、はい……」
「アタシがキミの所属するチーム・ブローウィングのリーダー……スーパーセルだ。よろしくな」




