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顔をあげる言葉

作者: silver


私の小さいころからの癖。それは歩くとき、下を向きながら歩くこと。

何でそんな風な癖がついたかはよく分からない。

ただ、ずっと下を向いたまま。誰といても、ずっと顔を上げない。



私は、生まれてすぐにお父さん側の家族と一緒に住んでいた。

だけど嫁であるお母さんと姑問題が勃発。毎日ケンカしてばかり。

理由は献立のことから、お金のことだったり色々。

お父さんはお母さんを助けることもせずに毎日飽きずに車の手入れ。

挙句の果てには借金まで作る始末。

勿論、そのことも嫁・姑のケンカ理由にもなっていた。

いつからか、私は姑である祖母から暴力を振るわれるようになった。

たくさんの火傷のあと、あざ、切り傷・・。

3年が経った頃、私は泣かなくなった。泣いたって、助けてくれる訳がない。

お父さんは車の手入れ、お母さんは借金返済の為に働いていて家に居ない。

身体の傷が残るようになってから、保育園にも行かせてもらえなくなった。

このまま死んでしまえば楽なんだと小さいながらに思った。


そして1年経った頃。私はお母さん側の家族に引き取られた。

お母さんが見るに耐え兼ねなかったらしい。私からすれば、一年経ってやっと気付いたのかと思った。

まず、病院に行った。そこで整形手術をした方がいいと勧められたけど費用が高いからと断った。

私ではなく、お母さん側の祖母が。

そのあと、お母さんはお父さんと離婚した。それで、お父さんとの関係が絶たれてしまった。裁判所で、一年振りに再会すると、お父さんとお父さん側の祖母が泣きながら「帰ってきて」と懇願していた。

それを、お母さんは無視していた。その日私は、苗字が変わった。


丁度その頃、幼稚園に行くことになった。

多分、家にずっと居て欲しくなかったんだと思う。そんな話を夜中にしていたから。

陰気臭いらしい。だから私は大人しく従った。お母さんはまた働きに出た。

幼稚園に行ったからって、何が変わるわけでも救われる訳でもない。

ただ、白い目で見られるか、可哀想な子としか見られなかった。

多分その頃から、顔を上げない癖は付いていた。



多分・・大人の汚い世界を見すぎたんだと思う。何を見るにも、いちいち大人の醜い部分が見えるようで。

だって、空を見上げるのも嫌だった。

どうせ、大人の世界みたいなどす黒い色しか見えないんだから。ヒカリなんて、見えない。

ずっと下を向いて歩いていれば、そんな世界を見なくて済む。



そんなある日。小学校一年生になった私は新しく出来た友達と一緒に下校していた。

やっぱり、顔を上げないまま。

すると、後ろから声がかけられた。私の、まだ慣れない苗字が呼ばれる。

立ち止まって振り返ると、最近仲良くなった男の子が居た。

友達に先に帰ってもらうことにして、その男の子の元に走っていく。

どうしたの?と聞くと、男の子は真っ直ぐ私の目を見て言った。


「何でお前、下向いて歩いてるの?」


って。

何で?って・・顔を上げられないからだよって言うと、男の子はふーんと言った。

男の子の真意が分からない私はただ首を傾げた。何でそんなことを聞くのだろう。

私は初めて聞かれたことに戸惑った。

すると男の子は私の横を通り過ぎた。慌てて振り返ると、男の子がこっちを見ていた。

変わらずに真っ直ぐ見つめられる男の子の目に、何故か逸らしたいのに逸らせない強さを感じた。多分、この時の私は怖かったんだと思う。私の過去を見透かされるのが。

でも男の子は私の気持ちなんか知らずに、真上を指差して口角を上げた笑顔で言った。


「この綺麗な空を見れないなんて、格好悪いな」


って。

格好悪いってなんだ。空を見ないことに、格好いいも格好悪いもあるの?

というか、空が、綺麗?

何言ってんの。空は黒い色なんだよ。大人たちと、同じ。自分のことしか考えてない、他人なんて低く見てる・・私利私欲にまみれてる、どす黒い心と同じ色なんだ。

だって、心と空は繋がってるって何かの本で言っていた。


私は、先を歩く男の子から1mくらい離れて歩いていた。やっぱり、下を向いて。

でも男の子の言葉が頭から離れない。綺麗な、空を見れる・・?

ふと・・顔を少しずつ上げていった。顔を上げ切った私の目に写ったのは・・キャンパスに描いたような流れる白い雲に青白い空が一面。雲に所々隠れて隙間から覗く太陽。

思わず、「わあ・・!」と声を上げた。

そこには、私がずっと考えていたどす黒さなんて、無かった。

前を見ると、だいぶ先に歩いていたはずの男の子が笑顔で、私の方を見てた。



あれから幾年が経った。私は、最後の学生生活を送っている。

まだ癖は治ってない。でも、前よりは幾分下を見ないで歩いている。ちゃんと、前を見て歩いている。多分もう少ししたら、流れる周りの景色も楽しめるんだろう。

癖が出てしまったことに気付いたときは、あの言葉を思い出す。

「何でお前、下向いて歩いてるの?」「この綺麗な空を見れないなんて、格好悪いな」


私に、顔をあげて歩く勇気をくれた魔法の言葉。


勇気をくれたあの男の子は今どこにいるんだろう?

もしまた会えたら、ちゃんと言いたい。


「もう下見て歩いてないよ」って。「綺麗な空、見れてるから格好いいでしょ?」って。



大好きだったあの男の子は、今どこにいるんだろう?



初めまして。作者のsilverと申します。

このサイトとは別に、PiPi's投稿小説サイトも利用させてもらっています。

これからも、投稿していくので宜しくお願いします。


この小説は三分の二程、作者の実話です。

こんな人物なんだと知って頂けたらと思って作ってみました。

感想等ありましたらお気軽に声をかけてください。


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