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溺愛されし彼の人  作者: 椿ノ華
第二章
8/10

8  山での生活①

 外見が外見なわけの二人が両親で大丈夫かと心配したが、それは杞憂で終わった。外見には似合わないほど山の生活には手慣れていた。必要な物は森やふもとの村で手に入れ、足りない物は自作して補っていた。

 今では、家の中にあるテーブルやイス、食器類が足りなくなったら母が作っていた。顔に似合わず工作類(何かを作るの)が好きらしく、なんでも作ってくれた。あまりにも簡単になんでも作ってしまうから「お母さまの料理を食べてみたいな」と料理を進めた結果、悲惨な結末が待っていた。


 あの時のお父さまの顔を一生忘れたりしない。


 あの厳つくて野獣的な顔が恐怖に歪んでいたんだもん。なんであんな恐怖な料理が作れるのか不思議でたまらない。茹で卵を作ったらカッチカチの卵が出来上がって、サラダを作ったら鮮度なんてどこにあるの?的な萎びれた野菜がそのまま皿に載せてあったり、主食のパンは瑞々しいほど水分が多くベチョっとしていた。これらを食べたらお腹壊すんじゃないかって思えるほどのものだった。それからというもの、お母さまだけには料理させないとお父さまと手を取り合って涙し決意しだんだよね。

 マジ、あの料理は食べれない。食材にはものすごく申し訳ないけど、ゴメンナサイだ。

 そうだ、あたしたちの家もお母さまが手直ししたものだったんだよ。

 2階建ての山小屋。

 1階は台所とダイニングとリビングと作業場と趣味の部屋。台所っていっても鍋や野菜などが棚へ置いてあるだけだけど。ダイニングというよりも食卓って感じの小さな3人掛けのテーブルとイス。暖炉があるリビングには、ふかふかの絨毯がひいてあって手触りの良いクッションが6個ある。寝心地の良い絨毯でうたたねするとすごく気持ちがいいんだ。作業場はお母さま専用の部屋。趣味の部屋はお父さま専用の部屋。両方の部屋には扉が付いていないから、リビングから見える。まだ入ったことはないけど、なんとなく部屋の感じが想像つくんだよね。もう少ししたらあたし専用の部屋を作ってくれるってお母さまが言ってたし。増築するのかな?

 2階は寝室。寝室っていっても部屋が区切ってあるわけじゃなく、寝台が3つ並んで置いてあるだけ。壁側には各自の衣装タンスが3つずつある。木の匂いが充満する部屋であたしたちは寝起きしてるんだ。すごくリラックス出来てるから毎日充実した一日を過ごしている。


 あたしたち一家の朝は早い。

 一番最初に起きるのは、お父さま。

 起きたらすぐ、暖炉に火を入れて朝食の準備をしてくれる。

 次に起きるのは、あたし。

 お父さまに朝の挨拶を済ますと、外の水場へ顔を洗いに行く。この水場は山の雪解け水が流れて来てる地下水が湧き出た所から引いてたもので、すごく冷たくておいしい。

 そして朝日を見る。山々の山頂に朝日が照らされ、だんだんと明るくなり始めると一斉に鳥の鳴き声が響き渡る。森の木々の間から飛び立つ鳥たちを見るのがあたしの毎日の日課になっている。だって、綺麗なんだよ。色鮮やかな鳥が朝日に照らされてキラキラ光ってるんだから。言葉も出ないくらい美しい光景が目に焼き付いて飽きてこない。

 鳥たちが飛び立ったのを見終わると家へ帰って朝食の準備をするお父さまを手伝う。この時お母さまはまだ寝ているんだよね。いくら起こしてもお母さまは絶対に起きない。ものすごく眠りが深いらしくてチョットのことでは絶対に起きないんだって。

 暖炉でスープの味を調節しながらチーズを炙っていると、お母さまはやっと起きてくる。食べ物の匂いがお母さまの目覚まし時計の代わりになっているらしい。だからお父さまはいつも最後に美味しい匂いがする物を作る。お父さまはお母さまに甘いからね…。甲斐甲斐しく世話してるし。あたしも世話してもらってる身だけど…自分が出来ることは自分でするよ。朝だって自分で起きてるし。

「美味しそうな匂いがする」

 まだ眠たそうなお母さまの第一声はいつも同じ。本当に美味しそうな匂いに敏感でお母さまに内緒で食べようとしたら、背後にお母さまが居たことは何度もある。まったく気配が感じない。懇願する美少女なお母さまを前にすると、思わず「どうぞ」と譲ってしまうくらいある。あたしもお母さまに似てそれなりに美形(初めて鏡見た時は驚いた。この世界はどれだけ美形率が高いんだって思ったし)だけど、洗練された美貌には力があると思う。だって寝起きの美少女の姿は色気があり過ぎていつもドキドキしてる。元女だったあたしとしては、その色気があれば……といつも思う。

「おはよ、ユリハ、レジェス」

「おはよう、お母さま」

「おはよ、レニス。チーズはどれくらいだ?」

「めいっぱい」

 お母さまの返事を聞くと、お父さまは新たにチーズを炙り始めた。

「今日は何をするの?ユリハ」

 朝の会話は今日の予定を立てることから始まる。予定が立つとなぜかお母さまは遠く離れた王都の最新情報を聞かせてくれたり、美食の都として有名なトゥークリックのオークリーというスイーツの話をしてくれたり、毎日違う話を聞かせてくれる。

 疑問に思うのは、何故遠く離れた王都の最新情報をお母さまが知っているかってこと。携帯電話みたいなものがあるのかも知れない。お母さまに効いても答えてくれないし。あのキラキラと輝くような笑顔で「内緒」って言われたら「はい」って答えるしかできないし。


 あたしの意気地なし!!

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