4 目覚めて窮地に陥る
目が覚めてたらそこは華やかな場所だった。
『おっ、起きた』
ひょっこり顔を出したのは瞳に優しくない眩しい人だった。神々しいまでに金色輝くさらさらな髪に翡翠の宝石よりも光沢のある緑色の瞳を持ち、中性的で美麗な笑顔で見下ろしていた。性別はどちらか分からないけど、本当に美しい、いや、麗しい人である。
『お腹すいた?』
聞き慣れない言語に困惑しつつも、自分の現状を確認してみる。
両手、問題なく動く。両足、動きは鈍いが、これもまた問題なく動く。起き上がろうと身体に力をいれるが、上手く力が入らない。両足を左右に動かすが、なぜか体全体が動く。なんか、軟体動物にでもなったような気がしてならない。
そういえば、最後にリーヴェマールと会話してどれくらいたったんだろう?
……最後に何か約束したような気がするんだけど………思い出せない……。
寝起きだから…?……それともこれも夢の続き?
『お~い。聞いてる?僕を無視する気ぃ~?』
美麗さんが何か言っているけど、言葉が分からないから無視で、ごめんなさい。
『僕を無視出来るとは……きっと大物になるよ!!!』
美麗さんは、さっきと変わらずニコニコ顔で見つめている。その瞳にはどこか楽しそうで、歓喜の想いが溢れているようにも見えた。あまりにも熱い視線に恥ずかしくなってきたため声を出そうと、口を開け出した言葉は「あぁ~」や「ばぶぅ~」と、あるモノが特定できる言葉に絶句した。
『あはははは。可愛いね、さっすが僕の子供』
「ばぶぅ~(はい~?)」
『ばぶぅ~だって!!!!』
何が楽しいのか分からなが、目の前の美人さんは大ウケしていた。綺麗な顔を崩すほど笑っている美人さんを見つめるしかなった。
『うるさい。ユリハが起きる』
またまた現れたのは、違う意味での低音ヴォイスの麗人で、金髪の人より遥かに高い長身の美人さん。銀色の短い髪に濃い藍色の瞳、凛々しい顔にちょっとだけ筋肉質っぽいけど細い身体。日焼けした肌が健康的であることを物語る。一瞬、男の人?と思ったが、女性特有の柔らかい身体の線があり、僅かに膨らんだ胸がありやっぱり女の人だと思う。女の人っていうよりは、男装の麗人って感じの人だった。
『ロハスの方がうるさいんじゃない?』
どこかニヤけた顔の金髪の美麗さんは、手馴れた様子であたしを抱っこしたまま走り出した。それも全速力。風圧がかかると思ったが、何故かあたしたちの周りは状況は変わらない。まるで何かに守られているような感じだ。ただ、後ろからは、凛々しい麗人さんが殺気だって追いかけてくる。
はっきりいって怖い。
非常に怖い。
『ユリハを置いていけ!!!!』
付かず離れずの微妙な距離を保ちながら、部屋中を走り回っている。
今いる部屋は小さくない。かなり大きな部屋らしく、中央にはテーブルを挟んでソファーが4つのセットが何故か3つあり、脇には小さなテーブルとイスのセット、壁には大きな絵画が飾ってあり、傍には高価な花瓶には彩り豊かな花々が活けてあった。天井まであるガラス張りの窓には重そうなカーテンがかけられてあり、隅の方にはベッドなど必要な物が置いてある。
それらを上手く避けながら二人の距離は一定を保ちながら走り続けていた。しばらく同じことを繰り返しながら目が回り始めた頃、二人は走る周りことを止めた。凄いことに二人の息は全く乱れていなかった。
『ユリハを戻せ!殺す気か!!!』
『僕がそんな事すると思っているのかい、ロハス?』
テーブルを挟んで二人は向かい合いながら、微妙な緊張感が辺に流れていた。美麗さんが一歩あるけば、麗人さんは二歩くことを続けていた。
『お前ならやりかねん』
『普段、僕の事どう見ているか分かるね』
『真実だろう』
『仮りにもキミは僕の護衛で主君にあたるんだよ。主に対しての暴言……』
『何を今更』
『まぁ~そうだけどねぇ……。もしかしてロハス……』
『いいからユリハを戻せ』
『女にしたこと怒っているの?』
その言葉が地雷だったらしく、抑えていた怒りを爆発した麗人は、一足でテーブルを超えると鬼の形相で襲いかかってきた。それを軽く避けると、ジリジリと距離を詰めてきた。
美麗さんに抱っこされたユリハことあたしは、二人の会話は理解出来ないままで、窮地に陥っていた。転生して起きたら命の危機って、どれだけ運が無いのだろう…。確か世界の創造主だっていうのと、リーヴェマールの寵愛と加護を授かったはずなのに、どれも生かされていないみたいだし。
それは置いといて、まず分かったのは、名前ね。
ユリハ…これがあたしの新しい名前(さっきから二人が口にしているのは「ユリハ」だし、間違いないはず)。
ロハス…これは麗人さんの名前だと思う(美麗さんが「ロハス」って呼んでいるみたいだし)。
それにしても、寝て起きたら赤ちゃんって、良くある小説みたい。読むのはいいけど、自分がそうなるって結構ストレスが溜まるかも。
『やっぱり女になるのが嫌だったんだ』
またもや禁句を言ったらしい美麗さんを目掛け突進してきた麗人さん。その目は決して笑ってはいない。むしろ感情を置いてきたような無情な眼差しできた。
麗人は、懐に隠していたと想われる短剣を手にしていた。美麗さんを見上げると、どこか楽しそうにしていた。それからはスローモーションのような出来事だった。
麗人さんは、短剣を持っていない手であたし(ユリハ)を奪うように伸ばすが、その手は空を切るだけで、あたし(ユリハ)は空に漂っていた。抱っこしていたはずの美麗さんの腕の温もりはなく、風が身体を支えているように感じていたら、急に身体が落ちる感覚が襲ってきた。
……落ちてる……と実感した頃には意識を飛ばしていた。
これはきっと危険回避の本能的な行動………のはず!!!
目覚めて分かったことは、転生して赤ちゃんから新しい人生を始めているということ。
名前はユリハということ。
美麗さんと麗人さんは美形さんで親にするには難んな人だということ。
言語は分からないということ。
………それだけだった。
ただ、この眠りが後になって非常に困ることになるとは、露にも思わなかった。