あいば。余談
「よぉ、今日はお連れさん1人だけ?」
隣にオーナーが座り、六花が顔を見てニッコリ笑った。
「僕の車では、彼女だけですけど?」
パン―――と、両手を合わせてオーナーが頭を下げる。
「悪い!ウチのスタッフの手違いで、送迎車出しちまったんだよな。戻りは1時間後だし、あちらの御客さんを最寄駅まで送ってくれないか?」
「あ―――」
キラキラと綺麗にメイクしている2人は、先ほど馬場で可愛らしい練習着でキャイキャイレッスンを受けていたので見知っている。チラリと目線を六花に送れば、ニコと笑って小さく頷いている。
「いいですよ?うちの馬たちを、宜しくお願いしますね?」
調教をガッチリして、調教崩れがないように念押しをすれば、オーナーも豪快に笑う。
「まーかせとけって」
サービスでカフェのアイスティを六花が貰い、助手席にセットして持ってきた荷物をトランクに置く。
「和奈城さんですか~?今日はどうもすいませぇ~ん」
甘ったるい喋り方だと、六花はチラリと相乗りを依頼された2人を見る。
「ホンと、フロントに言ってたのにぃ。オーナーぁ、今度は乗せてくださいね?」
「はいはい、ちゃんと乗せますよ。和奈城君、悪いな?」
さっさと後部座席に乗り込む女性2人を見て、苦笑して悠人達も乗り込む。
「シートベルトしてくださいね」
バックミラーを見て言えば、言われた2人は慌ててベルトを探り装着する。最寄駅までは15分、もっと手前にあったのじゃないだろうか?と思案するが、まぁいいだろうとアクセルを踏み込んだ。
「和奈城さんはぁ、どの位乗ってらっしゃるんですか?」
「うーん、年数なら20年…かな?鞍数は、もう数えてないし」
経験年数より、乗った鞍数(回数)重視の乗馬の世界である。
「すごーい!私は今年始めたばっかりで、まだ20鞍しか乗ってないんですよぉ」
「へぇ?頑張ってるんだね。あんまり無理すると、長く続かないから程ほどがいいよ?」
「そうなんですか!仕事が土曜あっちゃうと、通えないんですよね。和奈城さんは、何のお仕事してらっしゃるんです?」
一瞬口を開きかけて、やや迷う仕草を助手席からチラリと見た六花は小さく笑い、それを見た悠人が腕を伸ばしクシャリと髪を乱す。
「…会社員、事務職なんですよ。」
「経理とか総務かな?」
クスクス笑う六花。
「そう、書類ばっかり見ている仕事でね。」
「あー分かります!眠くなりますよねー、そんなの適当に仕事しちゃった方がいいですよー」
「上司に怒られないよう、やってみます。」
「頑張ってくださーい、あ・この辺りで!」
素早く車から降りた2人が、運転席の窓ガラスの隙間から「メアド交換しませんか?」と携帯を見せる。
「あぁ残念、僕携帯持ってないんですよ」
「「え?」」
運よく電車が近づく音が聞こえ、駅を指差し「電車、来ますよ?」と流した。電車に気を取られた2人は、挨拶も礼もそこそこに走り去って行ったがその瞬間六花は、大笑いだ。
「ヴィ、携帯ドリンクホルダーに刺さってるし!オンナノコは、それ見ていたよ?罪ねぇ」
「教えたくもないよ、適当に仕事する社員…ウチにはいらないなー」
「ヴィは事務職なんだもんね?」
「そう、上司に叱られないようにしなきゃだし。」
帰宅して、後で戻ってきたアーネストとレオンにこの話をして、大爆笑だったのは言うまでもない。
六花は、女子からスルーされております…。




