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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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あかいいと。③



「ここで、生活していたの?」


2人の部屋を見て、六花は正直懐かしさを感じる。


「そう」


六花の指定席だった籐の椅子に、迷いなくストンと座る。


「和奈城さんが泣いてる顔見た時、私どこかでその顔を見ているの。--多分夢でかな?さっきも、会えなくなるって分かると、凄く胸が苦しかった」


「うん」


胸の前で両手を組み、何か思い出すように伏し目がちに思いを話す。


「僕は、記憶が戻らなくても貴方が好きです。」


「和奈城さん…、私も何故だかその笑顔見たら凄く胸がぎゅってなるの。コロンも、凄く懐かしい。」


少し両腕を広げれば、迷いなく六花がその腕に飛び込み顔を埋める。


「前の事は思い出せないけど、私も…貴方が好き。」


六花の両頬を持ちあげて、ちゅっとキスを落とす。


「これから、思い出を増やせばいいよ」


もう一度、舐めとるように。


「うん」


六花は、恥ずかしそうな顔だが、構わず続ける。


「何も変わらないよ、愛してるから」


リップ音をたてて、何度も角度を変えて深くキスをして。

大分六花の舌を味わった頃、ぐったりとした六花が一際嬉しそうな顔で、小さく囁いた。



「ヴィ…」



一言も教えてない悠人の呼び名に、記憶が戻ったのだと確信し嬉しそうに悠人が深く笑みを浮かべ、ゆっくりと六花を押し倒した。










「いつ?」


イタした後のまどろみの中、端的に問う悠人に小首を傾げる。


「えっと、キスの最中に思い出したかな」


六花の首元に顔を埋め、ちゅゅっと吸いついて赤く印を付ける。


「凄く、驚いたから…」


眠たそうに最後の一言を言い放ち、やがて悠人は深い深い眠りへと落ちて行った。




後で聞くによると、六花の入院中は一睡もできず、記憶を無理に掘り起こすより、自発的に思い出すまで実家でゆっくりさせようと提案したのだとか。分かっていても、他人を見るような六花でも、いなくなるのがとてつもなく辛かったと。


後日、役員フロアには絨毯が敷かれるようになった。


鉄板の記憶モノ、定番ですが…。

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