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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
8/158

あなたのほんとうをしりました。

世の中には、いろんな人間がいるってヤツ。

ゴールデンウィークが来た。



初日前日に、合宿の保護者が食事の材料を運び込むために夜の和奈城家は、賑やかだ。子供と大人の貸し布団を運び込み、初日の段取りの確認を軽くする保護者の後ろで美桜は、指差し確認をしチェックリストに印を入れる。



「美桜先生は、いつまでいらっしゃるんですか?」


毎年顔を合わせる保護者ママ達は、テキパキと布団カバーをつけている。


「うーん、合宿終わって2日位はいるかなぁ?こっちでゴールデンウィークでも、あっちは平日だし?有給がとれる限度まで、取っちゃってるからね」


キリキリ働かなきゃーねぇろ、遠い目で笑う。


「お仕事何なさってるんですか?」


ん?と振り返る顔は、悠人とも良く似ている目の保養になる兄弟が子供の習い事の先生で良かったと思うママさん達。


「蒼太と一緒に、稼業の手伝いですねー。」


ウフフと笑い、これ以上聞くんじゃねーと言う雰囲気を醸し出して立ち去る。

しかしママさん達は、少しでも情報が手に入ればいいので拘らず美形兄弟の妹を見送るのだ。







初日朝---





子供たちが元気に道場前に集まり、準備運動をしている。

その前には社会人組が数人集まり、今日の練習項目を確認しているがその中に悠人の姿は無く。


「ゆーと先生はぁ?」


「わかんない」


子供たちも、準備の受け身練習をしながら疑問に思うが解決はしない。

後ろでその声を聞いた蒼太は、目線で六花を見ると小さな声で答えて来た。


「さっき、帰って来たの。まだ寝てるの。」


「さっき?!」


苦笑する六花、仕事が詰まりに詰まっていて悠人はこの4日程殆ど職場で過ごし、昨日は帰れず朝刊と共に帰宅したのだ。朝稽古の始った今は8時、もう2時間もしたら起こすように言われているが、六花はどうしようか迷っていた。




カタ





六花が部屋に入ると、カーテンを開けたままベットで寝ている悠人。

シャツも着る力が無かったのか、床に落ちている寝巻代わりのロングTシャツを拾い、スウェット下だけで寝ている姿を見つけた。床に膝を突いて、そっと覗きこむと胸が微かに上下して呼吸が確認でき、朝日で光を受けた顔や半裸の上半身が犯罪な程に綺麗だ。



「おにんぎょうさんみたい」



細かな飴細工みたいな髪を少し摘み、顔から避けてあげると微かに声が漏れる…六花は起こしてしまったかと一瞬息を詰めるが杞憂に終わったと感じた。自分の顔はこんなに綺麗な事は無い!ちょっと女性としてへこみそうだと、飽きずに悠人の寝顔を見つめる事どのくらいだろう?




パチと緑と青の瞳が開き、目が合った瞬間に引き寄せられる。





「ちょ…ちょっとヴィンセント?」


言い終わらないうちに、唇を奪われ深く重ねて甘く噛まれる。


「~~もうっ」


「おはよ」


クスクス笑い、六花をぎゅっと抱き込み悠人は起き上がると時間を確認。午前10時。


「ずいぶん寝ちゃったね、んじゃー練習に参加しないと」


「大丈夫?あんまり寝てないけど?」


柔道着を着こみ、悠人は笑う。


「子供たちの、楽しみな合宿だからね。それより六花ごめんね、遊びに連れて行ってあげてない」


「いいの」


笑って悠人の髪の毛を整え、柔道場に到着するまでに軽く10回はあくびをした悠人であった。





「オハヨ、遅くなりました。」


道場に入る時の作法として一礼をし、社会人組に軽く挨拶。


「大丈夫か?六花ちゃんに聞いたぞ」


アーネストの言葉に、ニヤとわらう。


「新聞持って入ったのは、久しぶりだけどね」


組み手の練習の後に、寝技の練習をし乱取の稽古をした後に軽く休憩。

小学生組が休憩中に、中高生が組み手をして休憩。

社会人の組み手は、どうするかの時にしゅばっと挙手。


「兄貴!胸貸して」


「返してね」


子供たちがどっと笑う、苦笑して蒼太が立候補した。


「うりゃあ!」


「はいっと」


どこをどうしたのか、蒼太がコロンと転がる。


「まだまだぁ」


むくっと起きて、突進するがまたもやコロンと転がる。


「蒼、ちゃんと練習してるか?」


「してるよ!あーくそっ帰国するまでに絶対勝つ!」


美桜とレオンも後に続いて、とっかかるが笑って悠人に転がされ畳に沈む。

社会人が全員畳に転がり、起き上がりもしないが悠人はたいして疲労感を出さない。


「力でするんじゃなくて、技でするのが柔道だって覚えてください」


『ばけもの』…負けた人間が、脳裏に浮かんだ言葉だった。





夜離れで皆が風呂に入り、夕飯も食べてオヤツタイムにいかがと六花が作ったプリンを、生徒と保護者を母屋に招いて振るまったのだ。


「でかい」


「でかいわ」


「…わぁ~お」


蒼太と美桜とアーネストである、通常のプリンの100倍はあるかという大きさに、カラメルだけ別に作って蒸してあるのだ。ひとり分ずつ、おたまですくって食べるのは新鮮で見た目を裏切る美味しさで、生徒に大好評。


「おかわりあるわよぅ~♪」


六花が微笑むと、子供たちがお皿を持って並びチャッカリ後ろに保護者も並んでいたりするのは御愛嬌だ。無事にプリンを余す事無く裁き、レオンとアーネストと蒼太にからんでいた子供たちが、思い出したように悠人にくっつく。



「ゆーとせんせー、アレやって?去年してくれたヤツ。」


おや?と悠人が片眉を上げて笑う。


「覚えてた?」


子供が笑って頷く、子供たちは親に凄いんだと言いそれを去年見ていた親は、他の親に凄かったと話す。


「兄貴何したんだぁ?」


「秘密」


人差し指を唇に当て、ニッコリ笑うしぐさに六花を含むママ達数名は赤面したのは、間違いない。





「それでは、この白い紙をしっかり見てください」



代表した子供が、裏返して他の子もしっかり見て悠人に返し、マジックを持った悠人が適当な子にマジックを渡す。



「このマジックで、人形を書いてください。影みたいなの…そうそう、上手ですねぇ5つ書いてくださいねー」


人影のような、簡単な人形を5つ。高さ10センチ位のが、並んでそれを隣にいた親に渡してハサミで切り取ってもらう。


「おとーさん、これからだよ!」


一番前を陣取った子が、振りかえって父親に顔を赤らめて叫ぶ。


「おお、どうなるんだろうなぁ」


テーブルの上に5つ均等に並べ、フフフと笑う悠人。


「レオン、5秒前から」


「あいよ、フンフ」


人形の頭を、順番にトントンと叩き…


「フィア」


小さく丸を、それぞれの上に描く。


「ドライ」


クルリクルリと、2周描いて。


「ツヴァイ」


人差し指の指先を、チョイと動かせば。


「アイン」



ヨロヨロと、紙で出来た人形が立ち上がりチョコチョコと動き始めた。




「うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


阿鼻叫喚である、子供も大人もテーブルに齧りつき目を皿のように見開いて紙の人形を見つめる。


「さぁ、みなさんにご挨拶」


ピコピコと、2つに折れる人形。


悠人の手は、組んだ足の上に載せて一切触っていない。クルクルと円を描くように周って、悠人がパンと手を叩くとただの紙切れ…パタリと倒れてヒラヒラとテーブルに落ちた。


子供も大人も、悠人の手のひらを見て裏返すが一切の仕掛けは見えず。紙切れとなった人形も、普通の紙だ。何より美桜の持っていたレポート紙で、目の前で千切ったのだから間違いない。



子供たちの追及は果てしなかったけど、親達が時間だからと22時に就寝となり離れに引き上げた。


「あーにーきー…」


蒼太の胡乱な眼を受け、悠人は苦笑するのみ。


「たまにはいいかなって」


レオンもアーネストも、妹の美桜も初めて見たらしくさっきから紙切れをひっくり返してばかりいる。


「ヴィンセント?」


青白いような気がしたので、六花が悠人を見上げるが気のせいだったと納得し座りなおした。


「レオンもアーネストも六花ちゃんも、この事内緒にしておいてくれ」


蒼太の勢いに、思わず頷く。


「兄貴のは、手品じゃないんだ。もうー、『また』誘拐されんぞ兄貴」


「その時は、蒼太と下僕達(アーネスト&レオン)が助けてくれる…かな?」


クスクス笑う悠人に、蒼太呆れた顔をしてすぐに笑う。


「俺寝るーじゃーなー」

5人残され、4人の視線が悠人にぐさりと刺さる。




「あんまり大きいのは、疲れるけどね。」



手にしていた細身のマジックを、テーブルに立てるとパタンと倒れてテーブルに沿って回転して廻る。

落ちそうになれば、反転してまた回転。



「ESPってヤツ?」



アーネストの言葉に、マジックは縦になりピタリと止まった。


「いや、こうゆうのは『念力…PK』と言うんだ。昔子供の頃は…3歳位かな?体重より重いものも動かせて、イギリスのばーさまの家にあった僕と同じサイズのテディベアを動かしていたんだ。」



無邪気な子供は、うれしくてうれしくてテディと一緒に動き遊ぶ。蒼太も一緒に遊び来客にも紹介すると、人づてにテディの事も悠人の事も広まって。


毎日毎日来客があり、祖母に呼ばれなくても悠人はテディと挨拶に行った。祖母に紳士たるものと、毎日厳しく言われていたので自分からやろうと頑張ったのだ。



「そしたらね、ある日メイドに呼ばれて家の外にいる人にも見せてあげてくださいって。少し遠いから、車に乗ってくださいねって」



移動は車だったから、違和感なしにテディと乗った。蒼太は付いてこなかったけど、気にせずに乗った車は走るどんどん走って夕方になっても到着しなくて。



雑然とした部屋で、沢山の大人に囲まれて質問されて写真をたくさん撮られたと。



「それ…か?誘拐っての?」


ニヤと笑って、悠人はレオンの言葉は肯定した。


「メイドが買収されて、ゴシップ紙に載ったんだよ。連れ去ったのは、記者達なんだけどねぇ」


「ESP?PKってのは?」


「ああ、イギリスには権威あるそう言う専門の機関があるんだって知ってる?英国に心霊現象研究協会って言うらしいけど、そこで調べたらお墨付きを貰った。蒼太は僕がこう言う事をして、また何か起きるんじゃないかって懸念してるって言うこと。念力がPK、その他の予知・透視・テレパシー・千里眼はESPだね。」


「初めて知った…、ママもおばーちゃまも言わないんだもの」


苦笑する悠人、最近はもっと凄いマジシャンもいる事だし蒼太の心配するような事はないだろうと締めくくる。


「ってか、俺達半分気付いてたぞ!」


口を尖らすレオンに、思わず美桜が噴き出す。


「ここでメシ食っててTVのリモコン取ってって、ヴィに言ったらリモコンだけ飛んできたからなー。アーネストなんか、目ぇ向いてたっつーの」


「…そうだっけ?いかんな、無意識になってる。いつ?」


いつだったかと、アーネストがレオンに聞くが10年は確実に前だと言う。


「気をつけるようにする…じゃ、寝ようか」


アーネストとレオンを玄関先で見送り、扉を閉めようとすると六花が2人が何か言ってると促す。


「「かんけーないかんなー」」


「ヴィンセント、私も2人に先越されたけど関係ないよ。ちょっと器用な、イケメンだね」


フフフと笑う六花の額に、キスを落としアリガトウと。





悠人は風呂から上がり、柔道で傷が出来たと擦り傷に薬を塗りストレッチをしている今現在、六花は夜のお肌のお手入れ中。



立ち上がって床にペタリと手を突いたと思うと、そのまま片足ずつ足が上がって倒立。最後はそのまま体を動かして、綺麗に立ったのだ。



「凄いぃ、体柔らかいねー」


「まぁねー」


明日も早いからと、ベットに入るがさっき聞いた悠人の技?が頭でグルグルする。




「ヴィンセント寝た?」


「うん?」


起き上がって見下ろすと大きな手が、ゆっくりと六花の髪を梳いて六花は気持ちよくて目を細めてしまう。


「あのね?さっき見せてくれたの、またこっそりやってね?蒼太君に、見つからないように」


ふっと、笑う気配を感じる。身を起こした為に、ベットのスプリングがきしむ。


「六花は、これが気持ち悪くない?無理しなくていいよ?逃げ出すなら、今だから。」


枕元のカーテンを、少し開けて月明かりに悠人を見つめてゆっくりと首を振り微笑む。


「気持ち悪くなんてないよ?才能だと思う、他の人が何を言ったってヴィンセントはヴィンセントだから」


「六花…。」


「まだね、半年しかヴィンセントを知らないけど…、私は貴方が大好き。どんな事になっても、絶対にこの気持ちは変わらない。―― 骨になるまで、一緒にいるから。」


ぎゅっと、背骨が軋みそうな位に悠人に抱きしめられる。息が出来るように、顔を上げて深呼吸をすると唇を奪われ、窒息するのではないかと感じるまで深く合わせる。


「ありがとう、六花―――殺し文句だね。」


ちゅ…と、唇を甘く噛んで体を離した悠人の目が潤んでいて、六花を見つめて笑うと同時にポロリと涙となって頬を伝う。


「ヴィンセント、泣かしちゃった」


クスリと笑って、六花の親指ですくって舐める。


「僕多分、今一生で一番感動したかもしれない。ずっとずっと、僕は六花だけ愛するから。」


抱き合う2人の姿だけ、月の光で照らされ暗い部屋に浮き上がってた。


フンフ フィア ドライ ツヴァイ アインとは、ドイツ語で5・4・3・2・1と、そーゆー意味でござんす。

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