あかいいと。②
次に目を開けると、六花の父母が居て悠人は姿を消していた。
「おはよ、あんた良く寝るわねぇ。夕飯抜きで寝るなんて、先生もびっくりよ?」
母親が言う言葉に笑い、遅めの朝食を取る。
「お母さん、昨日部屋に来た和奈城さん。」
「あぁ今朝は仕事、昼から来るみたいよ?」
朝食食べたら、検査して退院だからと言われ直ぐに出れるものだと六花は感心する。
「うん、私とあの人は知り合い?」
「そうよぉ、退院したら会えないけどね。あんたちょっと、最近働き過ぎらしいわね?会社も有給申請してあるみたいだし、ゆっくりしなさい?」
いつの間にだろうと六花は、不思議に思いながら同僚の誰かがしてくれたのだと思う事にして、早速検査に向かった。
「まだ大丈夫ですか?」
ガラリと重い病室のドアを開けて、悠人が部屋にやってきた。
「ギリギリね、大丈夫?仕事抜けて?」
「大丈夫です、僕が居なくても大した事ないですから」
フワリと、懐かしい香りが悠人から漂う。両親も兄弟も、コロンは付けないのにと思うが、何故だか無償に懐かしい。
「気分は良いですか?痛い所は?目はチカチカしないですか?」
「大丈夫です」
ニコと笑えば、昨日と同じように悲しいような複雑な笑みを悠人が返す。
「暫くウチでゆっくりして、それから色々と決めましょう?」
「そうですね、六花さん――また、いつか。」
屈みこんで視線を合わせて笑む顔を見て、左右の色が違う目を六花はじっと見る。
「和奈城さん…もう会えないの?」
「六花さんは、頭を酷くぶつけているから…ゆっくりした方が良いんですよ?」
「さ、六花行きましょう?」
悠人に背を押され、六花は母親の運転する車で自宅へと向かう。
「ほんと足滑らして転ぶなんて、そそっかしいわね」
「転んだの?」
頭ぶつけて、記憶飛んでいるのよと母親が笑う。
「青い目と、緑の目」
凄く気になる、絶対忘れてはだめだと頭が警告を出している。
「お母さん、病院に戻って!お願い!」
「だってあんた」
「このまま帰ったら、あたし死ぬほど後悔しちゃう!戻って!」
玄関先を走り抜け、気分が悪くなりながらも総合ロビーを見るが、あの金髪は見当たらない。
外来用の駐車場を見渡し、走り回る。母親の声は無視だ。
淡い水色のセダンを見つける、何故だかその車に走り寄り安心する。運転席は空。
「和奈城さん!」
叫べば、車止めの植え込み辺りから、あの髪が見えた。駆け寄ってみると、探していた人。
目が真っ赤で、今まで泣いていたと分かる。
「どうして?」
「分からないけど、家に戻ったら駄目な気がしたの。」
「家に戻って、ゆっくり記憶が戻ればいいと思っていたのに。」
ぎゅっと悠人の胸に抱きついて、ここに戻って良かったのだと六花は本能で納得する。
「和奈城さんの、傍で記憶を戻しちゃ駄目?」
「駄目な訳ないでしょう!」
悲鳴のように囁いて、悠人が六花の体を掻き抱く。
「まぁったく、本当は思い出しているんじゃないかって思うわよ」
声に振り向けば、六花の荷物を持った母親だ。
「んじゃ、和奈城君お願いね?」
「ありがとうございます」
ヒラヒラと手を振る後ろ姿を見送り、車に六花を座らせると自宅へと向かった。




