あかいいと。①
「お見送り行くよ?」
視察がある悠人は、青山と出かけるので会長室を出る2人の後ろからテクテクと歩く。
割と昼からは役員フロアは執務に励んでいるので、その時間帯―――今、清掃員が床から窓から磨き上げるのだ。
黄色い清掃中のポールを確認し、その辺りを避けてカツカツとヒールで歩く。
「帰りは16時だから、適当にやってて」
「適当って、ちゃんとお仕事するよ?」
口角を上げて笑う悠人が、ポンポンと頭を撫でてエレベーターに乗り込みヒラヒラと手を振って、すぐに部屋に戻ろうとした…。
「キャーーーー!!」
ツルリと滑り、そのまま横向きに転倒したのだ。
六花は目を覚まして、すぐに父母の顔があるのに驚いた。
「お父さん、お母さん…どうして?」
「和奈城君が、連絡くれたのよ。ほんとーにアンタ、どんくさいわねぇ」
「六花!お茶飲むか?ジュースか?」
「お父さん、ちょっと…。」
流石に気分が悪いからと伝えると、父母は元気そうなら家に帰ると言い部屋を出た廊下で、何事か会話するが聞こえないまま暫く時間が経つ。
「六花?」
顔半分、病室に入って悠人が覗きこむ。
その顔が、本当に心配そうな顔。
「…だぁれ?」
とたん、悠人の顔が青くなったような感じがする。
ゆっくりと部屋に入って来て、ベット脇に座るとじっと六花を見つめる。
「覚えてない?」
悲しそうな顔で、手を伸ばすが六花に届く前に引き戻した。
「僕は怪しい者じゃないよ?君のご両親も知っている、和奈城って言う。」
六花がコクリと頷くと、悠人は部屋の反対側に椅子を持っていく。
「君のご両親は、今食事に行っている。戻ってくるまで、僕はこの部屋に居ても良いかな?」
六花が頷くのを見て、「ありがとう」と小さく言って部屋の隅に座る。
六花は首を悠人へと動かし、椅子に座る悠人をじっと見る。
「私は、あなたを知っていますか?」
くしゃりと、なんとも言えない顔をして悠人は沈黙する。
聞こえないのかと、六花はもう一度繰り返す。
「……はい。」
「私外人さんと、お知り合いになるんですね」
「はい」
薬が効いているのか、やがて六花は目を閉じた。
知らない人がいる部屋で寝るのは危険だと思うけど、なぜだかこの人は大丈夫だと思って。




