しんぼくかい。 (前)
新年度を迎え、3月に和慎では新入社員を迎え総務・秘書・経理・会長室と、合同で親睦会を行う事になって新入社員が幹事を割り振られた。
「今年の新入社員の、総務課 市田さとこです。」
ショートボブの女の子が、アワアワと見て分かる位にテンパリ会長室にやってきた。
「さとこちゃん?よろしくねー?」
レオンとアーネストが、手を差し伸べると一瞬固まってややあって握手をする。
「よよよ…よろしくおねがいしマス」
ブフッと、後ろで吹き出すのは青山だろう。
「面白いな…、総務に入るコでこんなに緊張するコは珍しい。--会長秘書の青山だ、よろしくな?」
「はイ!よろしくおねがいします」
「斎藤です、青山氏の雑用係なの。今度お昼しましょーね?」
六花がニコニコ笑って握手すると、ほっとしたような顔で市田もニコリと笑う。
「んで?ヴィどこ行った?」
アーネストが青山を見ると、呆れた顔。
「テナントのコーヒー屋が入っただろ?あそこの『紅茶』が好きみたいで、買いに行ってる。」
「コーヒー屋に紅茶かよ、アイツそれが欲しくてテナントにスカウトしたんじゃねーの?」
「そうかも知れんぞ?悠人の割に、ゴリ押ししていたからな…戻ってきたな?」
カチャリとドアが開いて、ヒョイと顔を出したのは悠人で手にはやはり紅茶のカップ、しかも特大だ。
「ん?」
「ん?じゃないよ、今回の親睦会の幹事さんの市田さんだよ」
視線が下りてきて、市田と悠人の視線がバチンと合う。
「は…はじめマして!市田デす。」
「はい、はじめまして。和奈城です、幹事御苦労さま」
偉いね?と、持っていたコーヒー屋の袋から大きなビスケットを、お駄賃だと渡す。
「え?いいんですか?」
「いいんだよ、ヴィ…あぁ和奈城の事ね?が、くれるもんは、金でも食いもんでも貰っとけ~」
カラカラと笑うアーネストに、釣られて市田も笑う。
早速買ってきたアイスティを飲んでいる悠人を見て、親睦会のチラシを渡す。
「あ、BBQにするんですか、いいですねー。社の中庭ですか――アーネスト、肉食い過ぎんなよ?」
「アーネストは、別で持ってきたらどうだ?」
レオンの言葉に、皆が妙案だと頷く。
「あ…あの、材料の件は計算してから多くお肉買うようにするので、心配しなくても大丈夫だと思います。」
一瞬視線が全部市田に集まり、「そうだな」と皆が頷く。
「んじゃ幹事さん、がんばってね」
「はい」
出席リストにチェックを入れて、そそくさと退室する。
「市田さん親睦会の幹事なんでしょ?どうだった、最上階の方々は?」
総務の指導をする先輩 森田順子が、戻ってきた市田を見て面白そうに見る。
「もー凄くて、緊張しまくりました。」
「和奈城会長、美形だったでしょ~?」
「はい!超美形じゃないですか、レオンさんもアーネストさんも…秘書の青山さんもぉ!!」
給湯室でお茶の準備をしつつ、キャッキャッと騒ぐ。
「そーよぉ、青山氏はクールなのでそれがイイってファンクラブあるわよぉ。会長のオッドアイもいいわよね!吸い込まれそう♪」
「そーですよね、でもでもレオンさんも落ち着いた雰囲気だし、アーネストさんは一緒にいて楽しそうです!」
親睦会の参加女子は、殆どがこの男性陣目当てと言っても良い位である。
兎角威張らない…、親しみやすい雰囲気が女子社員のハートをがっちり握っていた。
「斎藤さん綺麗だったでしょ?」
「はい!お食事に誘われました、社交辞令かもしれないですけど嬉しいですね。」
「レオンさんか、アーネストさんか…会長のどれかと付き合ってるって噂なのよね。この3人は、いつも一緒だから分からないのよぉ」
「んじゃ親睦会で、確かめなきゃですね♪」
森田と市田、手をつないでウンと頷いた。




