あまいもの。
「テナント?」
レオンとアーネストと3人顔を合わせ、資料を渡した悠人は頷いて座る。
「そう、ウチの自社ビルだけど、1Fにテナントでも入れたらどうかなって。」
資料には、火を使わないドリンクメインの飲食店が、数件リストアップされている。
その中には、駅ビルやオフィス街に進出している、某有名コーヒー屋の名前も数件挙がっていた。
「そうだな…、火や調理となると大がかりになるけど、簡易的な店なら衛生面の辺りでも許可がでそうだな…。」
面白そうに資料を見て、「いいんじゃないか?」とOKを出す。
「ウチの会社食堂はあるけど、他がないんだよね。自転車で有名な会社は、社内に自社コンビニがあるって話だし。」
この件は悠人が勧める形で、話は終息するが2人は何か言いたそうな顔で悠人を見る。
「…なに?」
「お前…、痩せた?むしろやつれた?」
アーネストが、顔をペタリと触り「この辺が削げたよな?」と、レオンと心配そうな顔で見る。
「そうかな?普段通りに生活しているけど?」
「多分アレだ、精神的に疲労しているんじゃないか?SEの時みたいに、専門職じゃないから神経すり減らしてるんだろうな」
「神経使うよ、解雇なしで会社組織の入れ替えしたんだからね。」
まぁ倒れない様にな…と、背中をポンと叩かれ部屋を出て、秘書室の青山に書類を進めるように渡して隣の会長室に戻り、六花の顔をしみじみと見る。
「ん?」
PCに打ち込みをしている手を止め、視線を感じて顔を上げた六花は不思議そうに笑みを浮かべて、悠人を見上げる。
「僕、やつれた?」
「ちょっとね、頬の周辺が細くなった感じだけど?えぐれている訳じゃないし、ムンクの叫びみたいでもないよ?」
「レオン達に、神経すり減らしているんじゃないかって言われたよ。」
「会長サマだからねー、ヴィは心配性だからストレス溜まりやすいもの」
今日は中国茶でも淹れようか?と、六花が給湯室に向かい顔を撫でながら悠人はソファに座る。
六花が持ってきたお茶は、ガラスの急須に入っていてクルクルと入っている茶葉が踊るのが、目に楽しい仕組みとなっている。
他の部署から貰ったお土産の、中華菓子と一緒に出され甘い胡麻団子を口に入れて、あまりの甘さに眉をしかめる。
「あっま…。」
「そう?普通よ?」
お茶を飲めば、甘さを洗い流してくれて丁度いい。
「脳を使ってるから、甘いの補給したらいいの。ヴィの脳は、洗濯機みたいに勢い良く回ってるからねー」
どこか楽しそうに笑う六花は、胡麻団子を半分に割ってリスの様に食べているので、1つを食べきるのに時間が掛かる。
実に美味しそうに食べる姿を、ソファの背に頬杖突いてニコニコと悠人が見つめる。
「うん?」
口いっぱいに残りの胡麻団子を入れ、ハムスターのように頬を膨らませる顔を見ると、見ている方も頬が緩む。
「可愛いね」
プルプルと顔を横に振り、六花は赤くなって故意に目を逸らして、ひたすら口の中の胡麻団子を食べきるのに必死だ。
ニコニコと見ている悠人から、何やら色気が滲み出ているので六花は何かを察知。
「ヴィ、色気がダダ漏れよ!秘書課のお姉さんが見たら、イチコロになっちゃうから仕舞って!」
「仕舞い方分からないよ、さぁどうしようかなぁ?六花が美味しそうに食べているのを見たら、こうなったんだよ?」
よいしょっと、ローテーブルをまたぎ六花の横に座ると、手にしてるお茶を落とさないよう片手で押え、残りの手で腰を支えて唇を合わせる。
ちゅ…ちゅ…と、水音を響かせ甘い唇を舌でなぞると更に深く合わせて、唇を甘く噛む。
廊下からこちらに来る足音と、話声が聞こえる。どうやら、秘書課の人間のようだ。
腰から髪に手を移動して差し込み、キスをすれば空いた手で六花が慌てたように悠人の腕を叩く。誰か来ると言いたいのだろう。
カチャン
簡単に、会長室のドアのロックを掛ける。手を触れないで出来るのは、悠人の能力であるPKだ。
思う存分キスをし倒して、放心状態の六花を抱きかかえてクスクス笑う。
「もー、駄目よ?お仕事中だもの。」
「ちょっと休憩の、オヤツだよ。オヤツ。」
「休憩するのに、鍵かけないの。」
「はいはい」
『めっ』と、怖い顔で叱ってるつもりなのだろうが、悠人にしてみれば可愛くて仕方がない。
さぁ仕事しようと、軽く伸びをしてデスクに向かう。
明日はどうやって、楽しもうかと考え口角があがる。




