おしごとしましょう。 (前)
資格取得の補助に関しての問い合わせは予想より多く、問い合わせのメールは六花のPC受信にしており、申請者のメールを悠人のPCへ転送し確認して軽く目を見張る。
「流行?女子の資格取得が?」
「そーよ、結構女子は向上心あるわよ」
他の重役からの書類を届けに来たジャスミンが、さも当たり前のような顔をして悠人を見る。
ふぅんと、気のない返事をして悠人は書類を受け取り、「ありがとう」と笑って書類を受け取る。
「なんかすっごく緊張しない?」
「するわよ、資格のヤツでしょ?申請用紙だけ出したら、OKだと思っていたのに~ぃ」
「ま・世の中キビシイってやつよ。サクサク行きましょ?」
申請をしたのは初日で女子が3人、男子が5人だ。
午前中の30分だけ業務から離れて、面接に男女2組に分かれて来てくださいと連絡があり、申請した女子がひっつきあって最上階にやってきた。
受付で簡単に名前を言うと、会長室付きの秘書がゆっくりと近寄って来て微笑む。
「資格の面接の方ですか?お忙しいのにごめんなさいね。こちらにどうぞ?」
艶々のロングヘアはコテでカールしており、動く度に左右に揺れる。
大きなクリクリとした目と、長いまつげが印象的で白い肌が際立っていた。
コンコンとドアを叩き、上半身を入れて何事か言うと大きくドアを開けて、どうぞと勧められる。
中に居たのは、金髪王子だった。
「忙しい中、時間裂いて貰ってありがとう。」
「「「は…はい!」」」
ポカンとした女子3人を見て、悠人は苦笑を禁じ得ない。
簡単に申請用紙の中身をもう一度確認して、志望動機とだいたいの目星を付けているのか?どの辺りにあって、通う時間など質問している最中に青山がスッと入って来て、お茶を並べて行く。
「それと、これは関係ない話なんだけどね。会社に勤めていて、不便…こういうのは他の会社であってウチにも欲しいとかあるかな?」
「友達の会社は、有給が簡単に取得できるんですよ。ウチはちょっと取りにくくて…。」
「私もです、基本残業はないように仕事しているんですけど、なかなか帰りずらくて…。」
「不便は基本ないんです、でも目上の男性…役職のある人が強くて私達の意見が、いつも却下になるのでそれが困っているんです。」
む…と唸って、悠人が顔を上げる。
「青山、さっき面接した男性陣は同じだった?」
「そ、同じ。結局上司に恵まれてない訳だな、ちゃんと整備しろよ会長。」
「はいはい…、まぁ後日の発表になるけどね、残業は廃止する方向でいるよ。日本人は、残業してナンボってあるけど、仕事は勤務時間内にするのが決まりだからね。」
ぱぁ…と、顔が明るくなる3人にニッコリ笑う。
「あまり他の人には言われると、こちらの立場が無くなるから後10日程は、秘密にしておいて欲しいけど?」
コクコクと頷く3人に、ありがとうと言って部屋を送りだした。
「上司かー…、ちょっとやっかいだな」
「まぁどこの会社にでもある事だ、そこまで整備するとなると管理の人間を無くすかロボットにするかだな。---昼から会議だからな、第2会議室13時。」
はいはい…と、手を振れば手帳に何事か確認し青山は秘書室へと戻って行く。
使った茶器をお盆に集めて、給湯室で洗って水気を拭きつつ悠人今後をどうしようかと思案する。
どこまでも社員の言う事を聞けば、いいなりの人間になるしかと言って、役職の意見を汲めばその下の人間が被害を受ける。
「…!……!! ヴィ!!」
ふっと我に返ると、呆れたようにデスク越しに六花が覗きこんでいた。
「あ…ごめん、何?」
「何もないけど、ちょっと考え込んでいたから心配だったの。大丈夫?お昼行こう?」
もうそんな時間かと時計を見れば、午前終了まであと5分。13時からは会議なので、六花は早めに仕事を切り上げたのだろう。
悠人が立ち上がるのを見守って待っている、後ろから六花を抱きしめて小さな手をきゅっと握る。
「六花、いつもありがとう」
首筋に顔を埋めて、キスを落とせばくすぐったそうに首をすくめて悠人を見上げて微笑む。
それを待ちかねたように、唇にキスを落として顔を上げれば真っ赤になって見上げているのを見て、ニンマリとするのだ。
「んもー」
「はいはい、六花の〝んもー〝は可愛いねぇ。隣の2人誘って、食堂行こうね。」
きゅっと手を握り、少し先を行く悠人に追いつくよう少し早く歩く六花であった。




