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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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さぁ、はじめよう。(後)

悠人が壇上に立つと、さざ波のようなざわめきが広いホールを埋める。


「和奈城・ウォーレス・ヴィンセント・悠人です……」


低く耳に残りやすい声が、淡々と挨拶を始める。重役らしき人物が、内示を見たのだろう視線で殺せそうな目でみている者。面白そうに見ている者、チャンスがあったのか頬を昂揚させた表情で見る者、六花が見る限りさまざまな表情がうかがい知れる。



「重役や重要ポストに就く者が、接待と称して遊興に励んでいるのも、隠し口座にせっせと貯蓄しているのも把握している。その者には追って沙汰を出す、本日内示を出し明日付けで移動を発表した。この件に関して意見のあるものは、遠慮なく会長室まで来て欲しい―――言っておきますが、内示は相談ではなく僕の決定事項です。変更する気はありません、変更させたいのであれば自分でその位置に行けるよう努力してください。」



専門職の資格取得の際の補助金や、現在の職でのスキル向上に関しては相談により、社からも補助金を出すと言う。


六花はこのホールの中にいる人間全員に配られた資料に、目を通して悠人らしいと小さく笑む。


いつまでもポストにしがみつき、若手の育成を妨げるのを嫌う悠人らしい。


壇上ではレオンやアーネストの紹介を、司会の人間がしておりプログラムを見ればもう会も終わりだろう。


つつがなく社員集会が終わり、会長室に戻ると白い彼が居た。


「渡辺」


アルビノの渡辺は、ロングヘアをバッサリと切りショートカットになっていた。


「新会長就任おめでとー」


緊張感のない語調は相変わらずで、日中の日差しで出てきていいのかと六花が聞けば、冬は紫外線が弱いので日焼け止めでOKらしい。


「渡辺、窓側は日焼けするぞ?」


慌てて1歩内側に入り、悠人はとたんに笑う。


「まぁ丁寧な言葉で喧嘩売っていたけど、これからだな…。」


「これからだよ、忙しいぞぉ」


どこか楽しそうに、既に書類が小山になっている机で中身をパラパラと確認しながら言う。

新しく追加した社則に、古狸は苦情を言うだろう。


まさにホールから戻り道、そうやんわりと言ってきた人間もいた。薄く笑い、どう料理してやろうかと悠人は思案するのだ。



まず最初悠人が気付いたのは、会長室にはPCが無い。

最後の使用者は悠人の父である、実際父は自宅で仕事する事が多いのでかなりアナログ仕様だと思っていたが…。軽く舌打ちし、室内の壁を見て周れば穴が無い。


「そう来たか…、じゃあ電話の線を通す穴はある…な。」


レオンとアーネストは、隣の部屋が専用に振り分けて六花は、秘書室に用事で行っている。

思案して秘書室に行けば、他の重役に付いているのだろう秘書は少なく、六花とジャスミンが何事か話している。


「ジャスミン、このフロアでPC回線来ているのは、秘書室だけ?」


「秘書室と、受付だけ。」


長身の悠人には劣るが、ジャスミンもなかなかの長身である。


「そう言う事を纏めてやってる部署は?」


「電算室、5Fにあるよ。」


クルリと身を翻し、部屋を出て行く姿に熱いため息を突く秘書が数名。

だが、その様子に六花は気付かずジャスミンは、複雑そうな表情だ。



5Fは電算室課、ビル全体のデータを管理する管理室課があり、そのうちの電算室課にいけば洗濯機サイズの大きなプリンターや、処理に使うであろうPCやモニタが人間の数より多くあるような気がする。


「えっと、課長さんいらっしゃいますか?」


「はい?あっちに居ますけど?」


ありがとうと言って、奥の窓を背にしたデスクに向かえばスポーツ刈りの、青年が座っていて悠人の顔を見て驚いていた。


「どうされたんですか?こちらから、会長室に向かいますのに!」


「いやいや、こっちの手が空いてるし。ちょっとお願いがあるんだけどね、会長室に配線をしたいんだけどどこまで来てるのかな?って。」


電算室課のソファを勧められ、熱い緑茶を出されてお礼を言うと最初に会話した女性社員で、赤い顔をしてお盆で顔を半分隠して「いいえ」と笑う。


「この会社の女子社員は、照れるとお盆で顔隠すね。」


「そうですか?」


課長の沢木は、面白そうに笑う。


「常務の秘書の本庄さんも、最初同じ事していたからね。」



「会長室の配線ですが、部屋の前までは来ているんですよ。前会長が殆ど使われないお方だったので、その辺りで止めているんですが…。直ぐにでも配線できますよ。隣のお部屋も、PC使われるでしょうし昼から使えるように今から、空いた人間で今からやりますね。」


「ありがとう、PCとか機材はもう揃っているから。配線は僕も手伝います。」


「いえいえ、会長自らして頂かなくても」


「でも僕の作業に人を裂くと、その人の作業が遅れるかも知れないでしょう?こう見えても、僕は前の職業SEなので足手まといにはならない程度に、手伝えるかも?」


「SEさんですか!助かります!」




「親父がアナログ派で、出不精だったからこの部屋結構前で時間が止まっててね」


沢木が作業をする為に、部下を2人連れて来て開口一番の悠人の言葉に、一同苦笑する。


「でも会長って偉い人なのに、わざわざこちらまで来てくださるのには驚きました。」


沢木にコードを手渡し、ドリルで穴を開ける部下を見る。


「うーん、あんまり会長だから偉いとは考えてないかな。最後に責任取る人間って思ってくれたらいい。」


複数のコードを通し、結束バンドで留めて部屋に入ったコードを、見えない様に配線していけば悠人のデスクとその真反対に置いているデスクへと分岐して、同時に初期設定を行う。


「アーネスト、そっちもコード行った?」


「来てるよ、今初期設定してる。レオン知らない?」


「あぁ、何でもプリンターに好みが有るみたいで、電器屋に行ってる。」


凝り性めっと言い、作業する沢木達を手伝う。


2時間程の作業でメドが付き、凝り性のレオンが大事そうに『こだわりのプリンター』を抱えて戻り、せっせと初期設定をしている。


プログラムの設定などは、詳しく言わなくても悠人が理解しササっとやって行くので電算の人間は、仲間が出来たようで嬉しそうだ。



「お疲れ様です~、差し入れどうぞ」


大きなシュークリームと、ホカホカのお絞りを持って六花が来て、会長室のソファで休憩だ。

自分の机と、PCに六花は喜び電算室の人間に嬉しそうに礼を述べる。


「新しいPC嬉しいなぁ。」


「嫌と言う程働いて貰おうかな?青山も、明日には出張から帰ってくるし。」


ニヤニヤ笑って、酷い~とむくれる六花を見て皆で笑う。


こうして、初日は無事に終了した。

国見さんを、本庄さんに変更(6/8)

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