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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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はにー。

「おいで」


両腕を伸ばせば、柔らかい感触があり重みが腕に掛かって、甘い香りの体が腕の中に入ってくる。

フワフワと、艶のある髪がくすぐったくて、ゆっくりと背中に流してやれば白い鎖骨がシャツから見え隠れ。


「お疲れ様」


「ありがとう」


社から持ち帰った花束が屋敷のあちこちに飾られ、夕食時に階下に降りればあちこちから花の香りが漂ってくる。


何を考えているの?と言いたげな目で見上げられ、小さく笑って六花の唇を舐めては甘く噛みつく。


「六花の匂い好きだな、香水?石鹸?」


「ヴィと同じのしかしてないよ?」


首筋から鎖骨を辿って、胸元でスンと嗅いでいると六花は笑っているのか、体が小さく揺れる。


「わんこみたい、私も香水の匂いがヴィからすると好き。ヴィしゅうだね」


ぎゅと抱き締めれば、嬉しそうな声で「あぅ」と聞こえ、どちらからともなく小さく笑いあう。




11月辺りから、引き継ぎで忙しかった事もあり悠人と六花は、休日でもあまり喋る事ができなくて寂しい思いをしていた。


六花が寝る頃に悠人が帰宅し、起きて待っていてもベットに来る頃には睡魔に負けて寝てしまい、起きれば悠人は出社してしまっているのだ。


メールのやり取りはしていたが、完全にゆっくりと喋れたのは本当に久しぶりなのである。



正月は親せきにも相手が出来ないと通達し、家政婦達は今年は休暇を出して完全に2人での生活。

今までの分を取り戻すかのようにくっついて、満足が行くまで楽しみあう。



「あのね、3日なんだけど同窓会があるの。」


「お正月に?」


「うん、地方に就職しているコがいるから、お正月にやるらしいの。行ってきていい?」


すれ違いの日々で、一応メールで聞いていた話なので快諾。3日と言っても本日2日なのである。


「明日の準備出来てる?何時から?」


メールで連絡が来ているらしく、広げれば朝の11時に都内のレストランらしい。


「ヴィは、いつからお仕事するの?5日から仕事始めだけど。」


「ん?一応5日から出社するよ、その日の朝に就任のあいさつする。」


明日着て行く服を選びハンガーに掛けていると、裕子からメールがあり明日一緒に行こうとのこと。


「明日裕子ちゃんが一緒に行こうだって」


「送って行ってあげるよ、寒いし車で僕が送迎してあげる。」


やった!と小さく呟いて、ピコピコとメールを送って返信待ち。


「裕子ちゃんも、よろしくだって♪」


「はいはい、お嬢様方をお送りしますよ。」







「えー、じゃあ六花ってもう婚約してるんだぁ」


同窓会は女子も男子も同じくらい…ほぼ100%出席していた。高校の卒業以来なので、社会人になって変身した子も多く時折分からない人間が出てきて裕子と頭を悩ませていたのだ。クラスメイトがやって来て、お互いに近況を話しているうちに軽いアルコールも出てきて、少しずつ飲み軽食も食べる。


「うん、そうだよ?」


「裕子は、六花の家の近く?彼氏見た?」


「見たわよ―!」


「うん?何の話?」


話に入ってきたのは、委員長の峰だ。六花と一緒に学級委員をしていたので、仲も良い。ノンフレームのメガネをしていて、知的な感じの優しい性格だ。


「あ・峰君、あけましておめでとう」


「おめでとう、んで?何の話?」


「六花の彼の話だよ、優しいしイケメンだし!」


「ふぅ~ん、顔重視?」


峰の言葉に、周りにいた男女も混ざって付き合うなら、何を重視するかと話題になり六花の仲の良い女の子が喋っていた話題は、消えてしまった。


「なんか、峰君トゲトゲしてる?」


少し離れた場所で、サンドウィッチを取り分けていた六花にヒソヒソと仲の良い女子が声を掛ける。その言葉に、裕子は驚いて『シーッ』と。


「知らないの?峰君で、高校の時六花の事好きだったの!んでもってさっきの話題がアレだから…嫉妬じゃない?」


「え…そうだったの?」


六花が驚いて、隅のテーブルにその女子…井川が、陣取って座る。


「そうだったのって、アンタにっぶいわねーっ」


「絶対分かっていたと思っていたのに…、むしろ峰に同情…。」


井川と裕子の言葉に、んな無茶なと六花が苦笑する。

裕子の姿を見つけ、他のクラスメイトが混ざってまた違う話題で盛り上がる。女子の話題はおしゃれと彼と、会社の上司の話題だ。


よその会社の上司の話を聞いて、心底驚き笑い話に花を咲かせてあっと言う間に終了時間だ。


「この後2次会行く人ー」


店の少し離れた場所で、幹事が参加者を募っている。この後はカラオケに流れるのだ。


「裕子どうする?」


「うーん、帰る。井川とお茶するけど、どうする?」


「斎藤ちょっといい?」


振り返れば峰がいて、同窓会中の話題にしていただけに裕子と井川も驚く。


「え?ここじゃだめ?」


六花の言葉に、峰が一瞬驚いた顔になるが、腕を掴んで場を離れようとするのを裕子が止める。


「みーねっ!六花が嫌がってるじゃん、やめなよ!ここで言えない事?」


「…あんまり聞かせたくないけど、斎藤さ彼氏いるって言ってるじゃん?それって俺も立候補できない?。」


「はぁぁ?彼氏が居るって言ってるのに、なんでアンタが立候補する訳?」


裕子の眉がつりあがり、井川も語尾を荒げる。


「裕子も井川っちも、ちょっと落ち着いて。峰君とりあえず、私は今の彼氏じゃないと駄目なので御断りさせてください。」


ペコリと頭を下げる六花に、峰が情けない顔で見下ろす。


「そうやって、高校の時から俺が手紙出しても断るクセに、後から近寄って来た男とは付き合うんだ?」


「そんなこと…っ」


六花の両脇から白い手が、にゅっと伸びてきて後ろに引き寄せる。


「うーん、修羅場って初めてみたかもね。六花大丈夫?」


「ヴィ!」


「和奈城さん、遅い!」


酷いなぁと苦笑し、六花を後ろに隠して悠人が薄ら笑う。


「六花が断ってるんでしょ?納得してくれないと。」


「斎藤…やっぱり見た目かよ」


「こらこら青年、女子に乱暴な言葉は使わない。何度も断られているなら、君に魅力が無いんだよ。諦めてお帰り、ここでモメて警察呼ばれるのとさっさと帰るのどっち選ぶ?」


ん?と笑う悠人に、ブツブツ言いながら峰が離れ何度か振り返りながら2次会に向かう群れの中に、混ざって消えて行った。



「怖い怖い…」


冗談のように言う悠人に、ジト目で見る裕子。


「もっときつく言えば良かったのにーぃ」


「何を言いますか、ストーカーになったらどうしますか。…まぁ、勝てるけどね。六花持って帰って良い?」


「どーぞ、おうちでイチャイチャしてくださいな。六花今度3人でお茶しよーね!」


「うん、ごめんね?」


「六花~、イケメン彼氏おがませて貰ったわ♪」


井川の言葉に、悠人もさすがに苦笑して六花の手を握って車に向かう。


「ごめん…、もっと大きくなる前に行けばよかった」


「ううん、気にしないで?何もなかったし。」


車に乗り込んでシートベルトに手間取り、六花が顔を上げると悠人の顔があって〝ちゅっ〝とキスを落とす。


「ヴィ!」


「六花の好きなバームクーヘン買ったから、帰ったら食べよう?」


軽く睨んだが、すぐに噴き出して笑う。


「もう!ヴィは、ヴィだねー。」


「何それ?」


クスクスと、車内に笑いが広がる。


ベタベタ あまあま。

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