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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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ありがとう。



レーザーポインターを持って、新入りのSEが説明する様を部屋の隅で壁にもたれ掛り見物する。

上下左右に揺れるのは、最初の頃は仕方ない。上ずる声も、慣れだろう。


時折資料を見ながら、説明しクライアントへの説明にも不備は無い。

前日まで必死に調べ、されるであろう質問を予測して対策をした結果だ。


「うん、良くなったよ。」


新入りが悠人の顔を見て、何か言う前にニッコリ笑ってそう言う。


「本当ですか?!」


「ウソは言わないよ、この発表した時の気持ちを忘れずに、毎回同じように一生懸命すること。」


「いやぁ和奈城さん、今週で辞めちゃうって聞いたけど本当?」


クライアントの社長がやって来て、悠人を見て残念そうな顔をする。

悠人がずっと担当してきて、今回新入りに任せる事になったクライアントだ。癖のない人情味のある社長なので、一生懸命する人間には暖かい人だ。


「そうなんですよ、稼業を継ぐ事になりまして。ウチの新入りを、宜しくお願いします。」


新入りの頭を押さえ、悠人も頭を下げる。その仕草に「やめてくれよー」と社長は慌てる。


「残念だねぇ、ウチの女子社員が和奈城君が来る日は、気合入れて化粧して来るんだよ。」


「皆さんお綺麗ですよ、社長さんお幸せですねー」


「一人二人、持ち帰るかい?」


イシシと笑う社長に、軽くチョップをして2人で笑う。


「いやいや、僕実は結婚約束したコがいるので…。ね?」


「おぉ、そりゃ目出度いじゃないか!悪かったね~。」


そろそろ時間なので失礼しますと、部下を連れてあるき事務所の前で挨拶をすれば花束を渡された。

寂しいとか、残念とかウチに就職しないか?と散々言われ、新入りをどうか可愛がってやってくださいと残し、車に乗り込んだ。


車内には既に花束が5つあり、得意先に挨拶する度に数が増えているのだ。


「課長凄い人だったんですね、あんなにクライアントさんに惜しまれるなんて」


「真面目に、誠意を持ってやっていただけですよ」


今週で辞めるとか言っていたが、年内稼働は本日で終了なので実質本日で退職と同じ。

長いようで短かった5年を軽く振り返って、満足行くものだったと思う。


「課長にとって、SEはどうですか?」


「SE…?、そうだね…。趣味かな?何もないところから、複雑な構文を立ちおこして行くのは凄く楽しいね。もうSEをする事はないけど、やってて良かった5年だね。」


おぉ…と車内にいる他2名からも声が上がり、なんだか気恥しくなる。


「お正月はどうするんですか?折角お休みでしょ?」


「うーん?母方の実家に行こうか悩んでいるんですけど、斎藤さんの休みがどうだったか」


「噂に聞く英国のおうちですよね?東さんが城に住んでいるって言ってましたよ。」


良く知ってるねと笑い、頷いて肯定をする。


「うん、城。強いて言えば、ディズニーランドのシンデレラ城のゴツいバージョンかな?あれの3倍は確実にあるけど…。税金が大変だよ…。」


悠人が茶化して言うので、皆が笑うが称号を持つ人間にとって、税金とはかくも恐ろしきものだ。

年末もあってか、オフィス街の道路は空いていて早い時間に社に戻れて居残り組の大掃除の手伝いもして、悠人はざっくり私物の処分を行ってアタッシュケース1つに荷物をまとめた。



「アーネストが辞め~。斎藤さんが辞め~、んでもってお前か」


「東…寂しいのか?」


ポンポンと、肩を叩いて「か・ちょ・う」と、囁けば真っ赤な顔で何事か言う。


「まーぁなんとかなるんじゃない?分からない事があれば、電話してくれたら。」


「出れるのか?」


「……たぶん。」


頼りないなっと、背中を叩かれ一同大笑い。


「5年間御苦労!再雇用はしないからな」


ボスッと、大きな花束を渡され笑いながら受け取る。


「ここで泣きもすればいいんだろうけど、生憎涙はでませんので。え~、5年あっと言う間でしたこれからは、東君の背中を追って皆さん頑張ってくださいネ」


部下一同に背中を叩かれ、餞別を受け取り最後に社長に挨拶すると部屋に向かうと、専務と常務も一緒に待っていた。


「お疲れ様、これからもっと大変だろうけど…がんばってください。和慎の会長」


「じょーむ、バラしましたね?」


社長の言葉を聞いて、胡乱な眼つきで常務を見ればニコニコと笑うのみ。


「いいじゃないか、いずればれるんだろうし。常務も、最後は私達3人で揃って見送りたくて誘ってくれたんだよ」


専務がフォローし、社長がウンウンと頷く。


「僕の全部を、後任の東君に渡してきました。短い年数で大した事はできませんでしたが、ありがとうございました。それと、先に2名頂いています。」


「…やっぱり、君の仕業か。」


専務が苦笑し、仕方ないなと呟く。


「おかしいと思ったよ、クレイグ(アーネスト)君はやれば出来るのに仕事は最低限しかしない。でもここぞの時は、光ってやるんだよねぇ。そうか…残念だな。」


「一応彼は、実家の家業を継ぐ事が第一となっています。それから先は、彼次第でして退職時期が被ったのは偶然ですよ?」


重役3人は笑って何も言わない。


「君は色々と良くやってくれた、本当にありがとう。斎藤さんとは、いずれ一緒になるんだろう?仲良くやりなさい。」


社長の言葉に、深く頭を下げ最後に3人と固く握手をして退出した。



ビルを出て、振り返れば色々あったな…としみじみ思い。

得意先からの花束を抱えなおし、花まみれだなと内心思いながら歩き始めた。

SE終了です。

次から新展開・・・・な筈(笑)

更新に変更があれば、「活動報告」で書き込んでいますので、チョコチョコ見てくださるとうれしいです。

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