ひがしのみやこ。 ④
この数キャロラインはいずみとさとるを連れて、東京を中心に東西南北観光した。
悠人や六花が会う機会があるように、夕方には戻って来て朝早くから出掛けるのだ。そうして写真を山ほど撮っては、印刷を悠人にやらせて翌日の予定を立てている。
「かぁさん、2人の意見も尊重してやってくださいね?」
「してるしてる!明日は服を買いに行くのよー、国際免許持ってて良かったわ。車だと便利だもんねぇ。」
国籍が英国なキャロラインや双子は、国際免許を更新して維持している。これが切れると公道が走れなくて非常に面倒なのだ。
「まぁ怪我と事故だけは、気を付けてくださいね。」
部屋を出て歩けば、いずみにとっつかまっている六花がいて、その姿を見て口角を僅かに上げて見守る。視線に気が付いた六花が振り向いて、嬉しそうに微笑む。
「いずみちゃん達、明日帰っちゃうでしょ?最後に行きたい場所無いか聞いていたの♪」
明日は土曜で、長崎に帰る日だ。土曜休みな会社なので、見送りに休みを取る必要もなく午前中のフライトに間に合うのであれば、立ち寄る事も出来るだろう。
自室のソファに座り、隣に六花がちょこんと座る。背もたれにそって伸ばした腕が、六花の長い艶のある髪を弄り話の続きを促す。
「羽田でも楽しめるし、お買いものも出来るよって教えてあげたの。」
「優しい…ね?」
「そう?」
無邪気に見上げて、なに?と見る顔。
「僕も、優しくして貰おうかな?」
空いた手で六花の髪を耳に掛け、真っ白な耳朶をパクリと食む。飴玉のように、ゆっくり舌で転がしてから顎の付け根から細い首へと唇を這わせて、プチプチとはずした上着の襟をくつろげて鎖骨に、歯を立てる。
「駄目、駄目駄目。見えちゃう!」
上目使いで、ジロリと睨まれそれでも拒否するので、小さな舌打ちと共にまだ下に下がる。
フワフワとした金色の髪が、六花の顎や首元をくすぐりその胸谷間に、甘く噛まれて吸いつかれる。
「さぁ?どうやって食べられたい…?」
耳元で背筋がビクリとするような重低音でそう囁かれ、内心『魔王』と評する裏悠人が出て来たと六花は腹をくくるのであった。
「ハナちゃんどうしたの、なんだか疲れてる?」
「え?」
コテで髪をクルクル巻きながら、いずみにそう言われて六花はドキリとするが、『寝付けなくて~』とごまかす。
自室で魔王様にド偉い目に遭ったなど口が裂けても言えない、親せきのおねーちゃんは君に秘密があるんだよと六花は内心思うが、恋人間の夜の事なぞ高校生には早い!早すぎる。
「貧血起こす前に、食べておく?」
カサリと鉄のタブレットを渡され、一度貧血でぶっ倒れた事のある六花はそれがら常備されているらしいタブレットを、ありがたく受け取り2粒飲みこんだ。
「国際線は別棟、国内線はここから。かぁさんは後で出発だね。」
見取り図を見て一行は確認するのだ、乗り遅れると次が数時間後。
「んじゃ、にーちゃん達ねーちゃんとオバチャン、ありがとう!」
搭乗口まで見送って、観光を満喫した姉弟が手を振り奥へと消えて行った。
「はぁ~満喫満喫、美桜にもお母さんにもお土産買ったし♪」
移動しながらも、まだ買うのか?とばかりに物色するがもはや笑うしかない。
「多分近いうちに行くかも、GWあたりいる?」
「いるわよー!」
何かするんでしょ?って言う母親の顔に、曖昧に笑ってごまかす。
「ま、貴方達が元気で仕事やってるなら、おかーさんは気にしないから。」
双子とレオン・アーネストと六花を見て、にっこり笑ってヒラヒラと手を振りキャロラインは機上の人となった。




