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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
53/158

ひがしのみやこ。 ①

六花の従姉弟である、まさるからのメールに悠人は頬を僅かに緩ませる。

近日に迫った『東京見物』の行きたいリストだ、姉のいずみと相談した結果面白そうな場所が多いので、お任せしたいとの事。


「お任せだって、東京見物」


「でもいずみちゃん、高校卒業したら都会に出たいって言ってたから、そう言う場所とか見たいのかも?」


ふーん…と、ソファにひっくり返りどこがいいだろうな…と思案。



「いっそ、いずみちゃんの希望に添えるか分からないけど、ウチの社でナンチャッテOLでもする?」


「そんなの出来るの?」


職業体験なるものが、中学校であるらしく悠人達の勤める会社にも打診があり、実際年間何組かの中学生は体験にくるのだ。


勿論出来る部署と出来ない部署があるが、開発などは室内での作業であるし、何より自分が責任者だ。


「ちょっと上の偉い人に、聞いておくよ。多分許可出るだろうね」


面白いものが好きな常務がいるだろうし…と笑い、六花はリストに「職業体験」を書き込んだ。




「いい?福岡で一度乗り継いで行くからね。さとるちゃんと着いてきてよ?」


「分かってるよ、分からなかったら空港職員に聞けばいいじゃん。心配性だよな、ねーちゃんって」


ヘラと笑うさとるの頬を、ぎゅっと握って怒りを示し長崎空港から、離陸した斎藤兄弟。

都会へ行く興奮と、見た事のない土地へ行く不安でいっぱいになりながらの、初めての旅である。

先に荷物は送っているので、手荷物だけを持ち羽田に到着して待合ロビーを見る。グリーっと見て、背の高いプラチナブロンドの外人を見つける。


「レオンさん?」


「いらっしゃい」


レオンの手には画用紙で『長崎斎藤家→和奈城家』と書いてあった。


「悪いねー、ヴィと六花ちゃんがこっちに向かえなくなったんで代役です。ちなみに、会議が入ったそうだよ?十分歓迎されているから、安心して?」


「レオンさん大きいですね、何㎝位ですか?」


「そうだね~、198位だったかな?よく和奈城の家で、頭ぶつけるんだよね。ヴィから聞いてるよ、斎藤さんちがとても素敵な場所にあるって。」


「田舎なだけですよ、こっちの方がいいな…。」


車窓から見えるビルを見て、嬉しそうにいずみはレオンを見る。


「ん~でも、故郷がいいって絶対思える日が来るかもだよ?ヴィの田舎は、イギリスのちょっと田舎だけどいいぞぉ~。山と野原がメインだし。」


「うちと同じじゃん!だから、ばーちゃんの野良仕事を手伝ってくれてるんだよ」


後部座席から顔をだして言うさとるに、いずみは渋い顔をして「シートベルト!」と頭をこづく。


「野良仕事はしてないけど…、去年の夏はアイス買いに馬で店まで走ってたけどね」


レオンから聞く話は楽しく、いずみもさとるも和奈城家までの2時間を楽しく過ごした。



駐車してくると、門の前に2人を降ろしてインターホンを鳴らし「レオン着」と言って、消えて行ったのは2分ほど前。


誰も来なくて途方に暮れ、携帯の時計を見ると19時を回っていた。空港に着いたのが17時前、途中少しの混雑があったが進んだ方だろう。カチャと、門の小さい方の扉が開くと1か月前見た顔。


「えっと、長崎から来るいずみちゃんと、さとる君だ?」


街頭の下ではっきりと見る顔は、先月あったのによそよそしい。


「お世話になります、ほら!さとるも。」


「こんばんは、お邪魔しまーす」


敷地を案内されながら、「もう皆揃うからね」と言われて門から玄関まで長い道をテクテクと庭木を見ながら進む。修学旅行の旅館のような大きな引き戸をカラリと開けて、広い玄関から少し入って右の部屋に入るとダイニング、その左奥がリビングのようだ。先月悠人が言ってたように、真っ赤な髪の外人も椅子に座って2人に手を振っていた。


「もうレオンも来るからな~、駅に着いたってメールもあったから六花ちゃんに会えるぞ!」


知った従姉の名前が出てきて、いずみもさとるも笑顔になる。勧められた席に着けば、玄関が開いた音がしてドタドタとレオンが入り、六花が入ってくる。


「いらっしゃーい、ごめんね?急に会議に出ろっていわれちゃって!ヴィも、もうすぐ来るからね。」


「ハナちゃん、ヴィって誰?」


あぁと、笑って説明していなかったわねと言う。


「先月会ったのが悠人、外国の名前でヴィンセントね。だからヴィ。」


「ん?この人でしょ?」


さとるが指差したのは、蒼太だ。その辺りで、いずみは何か思い出して「あっ」と叫ぶ。


「双子の弟さんだ…、そうだよねハナちゃん?」


「あーたーりー、そっくりでしょ?目の色が違うんだけど、そんなの初対面で分からないよねぇ?」


ケラケラ笑っているうちに、皆席に着いているとようやく悠人の到着だ。


「おそーい!」


皆からヤイヤイ言われているのを、苦笑して「悪い」と返事する。


「遠くから来てくれてありがとうね、色々思い出作れるように楽しもうね」


ニコと笑う悠人に、2人は嬉しそうに笑う。


話も弾んで2人は楽しく夕食を取り、客間として1名に1室案内して驚かれた。


「後、洗面所は分かった?お風呂も好きな時間に入ってくれていいからね。朝食はさっきの部屋で7時位かな?」


「ハナちゃんの部屋は?」


「あたし?2Fだよ?見に来る?」


興味があるいずみは、部屋に入るなり風呂に突進していったさとるを放置し、従姉の部屋を見る為に2Fへと長い廊下を歩き始めた。


「ここだよ~、化粧と着替えがメインになるけど。」


8畳程の洋室には、ベットがなくてクロゼットと化粧台があり、床にはクリーム色の毛足の長いラグと濃い茶色のテーブルが1つあるだけ。雑誌が幾つかテーブルに置いてあるのは、ファッション雑誌だ。


「ここでどうやって寝るの?」


「隣だよ?」


すぐ隣の扉をあけると、10畳とは思えない広い空間がある。


「10畳っていってたけど、昔の畳のカウントだから多分今のサイズで15畳か20畳位あるんじゃないかな?」


アジアン風の籐網のソファや照明があり、落ち着いた雰囲気の部屋だ。入って直ぐの収納カウンターの上には、アルミの受け皿に指輪やペンダントが入れてあり、そのペンダントは前回いずみの家に来た悠人が付けていたのと一致する。


「どうかした?」


声にビクと驚いて、入口で振り返ればシャワーを浴びたらしく、濡れた髪の悠人が不思議そうな顔で立っていた。


「ううん、いずみちゃんが部屋に興味あったみたいなの。」


「あー、外見純和風だからね。蒼太の今の部屋も、秘密基地みたいだよ?見に行く?」


コクコクと頷いたいずみを見て、面白そうに六花も後ろに付いて行った。

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