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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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わたしのしるあなた。

翌日六花が18時に悠人の家に来ると、玄関チャイムは鳴るものの中々返事がない。

昨日帰り際に聞いた悠人の電話番号で、携帯にかけるとあっさりと出た。


「あれ?あー…ごめん、今取りこんでるから少しだけ待っててくれる?」


後ろが賑やかで、六花は悠人が外出しているのだと判断。帰りにスーパーで買った生ものはないし、軽食だけだからと快諾した。



5分待っただろうか?

子供が3人走ってきて、門の前にあり石の階段に座っている六花に子供が近寄る。


「こんばんはー!!!」


顔を真っ赤にさせて、小学生低学年くらいの男子2人女子1人が、六花に話しかける。


「こんばんは…?」


「さいとーさん?」


ウンウンと、頷く。


「お迎えに来たの~」


女の子が、六花の手を握り男の子が先を歩く。


「え?お迎えって?」


「なーいーしょっ!」


道すがら女の子は優香ちゃん、男の子は健太郎君とハヤト君と自己紹介してくれた。

おそらく悠人の家の敷地だろう、長い塀の角を曲がり延々と歩いて更に1度曲がる。


「ここ!あの門の、反対側~。」


玄関の門に比べて小ぶりだが、それでも大きな門がデンと建っておりそこの扉を押し上げて、健太郎とハヤトがちゃんと内側からカンヌキを締める。


「ちゃんと締めないと、知らない人たまに入ってきちゃうから」


飛び石に沿って奥へ歩く、手入れの行き届いた日本庭園を見ながら、木造の平屋の建物に近寄ると子供が沢山いるらしく、よく見るとその子供たちの母親らしき女性も建物の前にいたり中に入ったりしていた。


「連れてきましたぁ~」


優香が、六花の手をグイグイひっぱりながら、建物の中に叫ぶ。

母親たちの前を、スイマセンとひたすら言いながらかき分けると、白い服装の中に見慣れた顔が見えた。六花を見つけると、ニッコリ笑って近寄って来る。


「ありがとう、健太郎・ハヤト・優香。怖い人いなかった?」


「いないよー」


「僕がやっつけるもん!」


優香は、悠人にもじもじしながらも小さく大丈夫と照れ笑いをする。

基礎練習始まるから、中に入ってと言うと3人は六花に「ばいばい」と手を振り駆け出す。


「空手かな?」


「ブー、残念。柔道デス」


おぉ~と、六花は驚く。悠人に勧められて座布団を持ち、柔道場の隅でチョコンと座る。


「言ってなかったね、ウチは代々柔道の道場やっててね。昔から年長者が後輩の面倒見てるから、ああやって社会人が学生みたりするんだよ。あそこに白熊レオン赤鬼アーネストもいるし、長期休暇になると遊びに来た僕の兄弟も、指導に入るよ。」


白熊ことレオンと、赤鬼ことアーネストも、子供たちと一緒に柔軟体操や柔道の受け身の練習をしている。


「和奈城さんは?」


ちらと見ると、聞こえなかったのか六花の方を見ない。


「和奈城さんてば!」


悠人は、微かに笑っているのが見える。


「はいはい、僕はこっちの柔道主やってるの。出れるときに出ておかないと、新入生の受付するの僕しかいないからね」


「でも、あまり無理しちゃあ駄目ですよ?会社も休んでいるんですもん」


はいはいと、手をヒラヒラ振りながら練習を監督しに行く悠人の背中を見ながら、周りを見渡すと保護者は男女に自然と分かれ、六花の横にも生徒の母親らしき人が座る。


「こんばんは、初めてですよね?」


ニッコリ笑う女性は、2人ここに通わせていると。他の女性たちも、見ない顔の六花を取り囲んでいろいろ質問してくる。


「先生のお知り合い?」


先生と言われ、六花は首を傾げるが慌てて首を縦に振る。おそらく、悠人と喋っていたのを見ていたのだろう。


「同じ会社なんですよ」


「そう♪アーネスト先生も、和奈城先生と同じ会社でしょう?外資系の会社って、なんだか凄いわねえぇ」


その言葉に、数人の女性がウンウンと頷く。


「レオン先生は、フリーライターですものね。あなた斎藤さん?和奈城先生の弟さん!見たら凄いわよぉぉ、GWに合宿あるから見にいらっしゃい!目の保養よぉ」


激しく首を縦振りする女性たち、どうやらファンクラブもあるらしい。


「でも、妹さんも可愛くてねぇ。お人形さんみたいなのよね♪あんな可愛らしい子供、欲しいわぁ~」


またもや首を縦に激しく振る女性陣、両手で祈るように手を組みウットリしている。


「でも、やっぱり和奈城先生よね!左右の目が違うなんて、凄いじゃない?柔道の腕前も凄いし6段なのよ、斎藤さん!」


「ろくだんですか…」


ポカーンである。


3時間の練習のうち、ほとんどを女性陣の話で埋め尽くされ気がつけば練習は終了し「当番」という希望者の柔道着を洗う女性が2名居残り道場裏の、洗濯機でゴンゴン洗っている。どうやらここで洗い、道場の中で干すらしい。


「お待たせ、言ってなくてごめん。」


後はレオンが施錠するらしく、今度は中庭をつっき切って歩く。等間隔に灯篭があり、それにはちゃんと光が入っているので足元は安心だ。


「全然、かまわないですよ?明日は会社休みだし、急ぎの用事もないですもん」


ざくざく歩く、ひたすら歩いて敷地出て余所に行ってるんじゃないかって思う頃、1度見た玄関近くの縁側が見えてきた。


「このあたりはね、桜の木を植えているから。もう少ししたら咲くから、見においで。」


「桜好きです!いいなぁ、結構植わっていましたよね?」


反対側の庭には、梅と桃が植わっているらしく見たいと言った六花に悠人は笑う。


「いくらでも見ていいよ、飽きないから。後で見せてあげる、室内から見える部屋もあるから。」


おいで…と、少し前に居た悠人が振り返り六花に白く闇夜に浮かぶ手を差し出し笑む。

握った手は、少し暖かくて少し冷たく自然と笑顔になる六花を悠人は見た。


「遅いけど晩御飯にしよう?鍋用意していたけど、食べれるかな?」


ぶんぶん頷いて、ケーキもあるんですよ♪と手持ちの袋を掲げた。




4月半ば---


和奈城の庭が、桜であふれる頃に部署内での「花見会」が決まった。

金曜の夜に、集まり夜桜を楽しもうとのこと。準備をする為に、女子は早退を認められ男子は前日に重いものを運び込んで準備は万端だ。



「「「「かんぱーい」」」



LEDライトで庭を照らし、桜の下でバーベキューとなる。

銘々持ち込んだツマミをテーブルに並べ、総勢15人は早くも空き缶を増やす。


六花が仲良くなった愛梨と、補佐の東と4人でツマミを突いて談笑だ。

最初の頃は隠していたが、悠人と六花の仲は社内公認となりつつある。横やりを入れてきそうな人間は、六花の見ていないところで捻じ伏せて今のところ順調である。



「そいやそろそろ毛染めの時期じゃないですか?課長のプリン頭」


根元から1センチは、地毛であるアッシュブロンドが見えてきている。


「最近目のほうも、コンタクトしていないですよね?」


六花も、不思議そうに首をかしげて問うた。


「実は、診断書を提出しましてねー。目は角膜に傷が入ってるし、毛染めは皮膚が荒れるので」


「荒れていたんですか!」


東がビールを落としそうになって、慌てる。


「荒れてますよ、頭皮とか耳の上の辺りとか。液を変えても駄目なんで、思い切って。」


皮膚科と眼科の診断書を、並べて置いてきたそうだ。毛染めが残っている部分だけは、近日中に地毛に近い色へと合わせるらしい。


「大変だねー、課長職もぉ」


しみじみ、愛梨が言って東も噴き出す。


「そうそ、大変なんですよ。日本名でこの顔だと違和感丸出しなので、IDも名前変えるつもり。間にVWと入れます!僕は決めました。」


不意に愛梨が、桜の花を見上げる。


「ほんっと、立派な桜…。」


「愛梨ちゃん、今お花見って思いだしたでしょ?」


グフフと、六花が笑う。


「ばれたかー!あ、かちょ桜の花って1枝貰えませんか?」


「いいですよ、若い細い枝を後で切ってあげます。」



和奈城の庭で、2時間ほど騒いだ後に一行は掃除をして解散となった。

愛梨はしっかりと、悠人が用意した桜の枝を握りしめ、何度も礼を言って帰宅だ。


暗くなった庭に立ち、桜を食い入るように見る悠人を六花は傍らで見つめる。

日本人より色が白く、月明かりで照らされた桜と悠人は暗闇に吸い込まれそうな気がして、六花は悠人の腕をつかむ。








「どうした…?」


ゆっくり振り向いて、僅かに笑う。


「なんか、消えそうだったから。」


「消えないよ、僕は欲深いから。六花と、人生を謳歌するって決めてる。」


握られた腕を逆に掴んで、悠人は六花を抱き寄せてついばむように何度も唇を重ねた。






昨夜の闇で見た桜と、翌朝に光の中で見る桜は同じ物でも印象が全く違う…と、六花はキリと引き締まる早朝に見上げていた。


何枚かは、チラチラと落ちてきて肩や頭に落ちるのをつまんでは見つめる。


「やっぱりここにいる」


縁側から、悠人が笑いながら声を掛けていた。昨夜遅くも見て、まだ飽きないのか?と暗に聞いてきたのに対し六花は笑う。


「うちの実家、皆桜が好きなの。でもマンションだし、桜って大きいでしょ?新鮮で。」



ああと、悠人が頷く。


「植木で観賞用もあるよ?毛虫が出るからあまり家に置くと、嫌がる人もいるみたいだけどね。散る前に家族の方も、見に来たら?」


パタパタと縁側に近寄り、ピョンと悠人に抱きつく。


「ありがとー!明日でもいい?日曜だし?」


「賑やかになっていいねぇ、僕もご両親に挨拶したいな?」


え?と六花が悠人を見上げる。「いいの?」の顔。


手を引いて朝食を取ろうと歩き、カウンターテーブルに六花を座らせた。


「六花ね、一人暮らしだっけ?やっぱり一人暮らしのお嬢さんを持ってる親御さんなら、心配しているだろうし」


大概家族にメールで連絡する六花は、悠人の交際も最初の頃に母親に報告している。それを知ってる悠人だから、きちんと挨拶をしたいとのこと。


「うちの家族賑やかで、おとーさん頑固だし、おかーさん煩いけどいいの?」


「いいよ?むしろ、ウチはガイジンだけどいいかな?片親だし、その親は離婚してイギリスだけどね。冷めないうちに、食べて」


六花は、悠人の言葉にひたすらウンウンと頷く。そんな姿を、目を細めて悠人は微笑む。


朝食後、六花が実家に電話をしたところ「散りはじめたらあっという間だから、良ければ今から向かっていいか?」の返事に、六花も目を丸くし悠人は大笑いした。

悠人が是非にと快諾し、電話して2時間後には門前に立っていたのだ。


六花の家族は、父母と兄と弟で兄弟は皆成人しているらしい。

六花が言う通りに、揃って桜の木から離れないので門前から案内してきた六花が、引っ張って応接室に家族を誘導したのだが半分桜に気が向いている。


「初めまして、和奈城です」


にっこり笑い、揃って座る斎藤一家にお茶を出す悠人に父が慌てる。


「すいませんな、桜ばっかり見てしまって」


「いえいえ、どうぞ帰りもみてください。桜も喜ぶ筈ですから」


桜に面する応接室の大きな窓は開けて、そこからも桜がよく見えるので母親もチラチラと見てため息をついている。


「娘さんと、交際をさせてもらって3カ月程なのですがそろそろ、交際の挨拶をさせて頂こうと思って。わざわざこちらに来ていただいて、ありがとうございます」


悠人の言葉とおじぎにに、斎藤夫妻が慌てて頭を下げる。


「いやいやウチもほったらかしで、だいぶ前に和奈城さんの話を聞いていたんでもう…ね、変な人じゃなかったらお任せしようって決めていたんですよ」


母親の言葉に、父親も兄弟も頷く。


「僕変な人じゃなかったですか?」


苦笑して、悠人が問い返すと六花の兄弟は首を振って笑う。


「全然!兄貴と和奈城さんは同じ年だけど、凄い落ち着いてるし…しっかりしているなぁって」


「僕には双子の弟と、1つ下の妹がいるんですが母親と英国に住んでいます。たぶん…ゴールデンウィークに来日する筈なので、今回一緒にご挨拶出来なくてすいません」


六花が見たことのない写真には、悠人と同じ顔の青年とよく似た顔の少女。それに薄い金髪のロングヘアの女性が笑って写っていた。


「和奈城さんは、ハーフなんですか?」


六花の兄が、ハーフなら茶色の髪とかだっけ?黒髪が優勢遺伝子だよね?と父親に聞く。


「僕の父親が、ハーフですね。ハーフと純正ガイジンが結婚なので、日本の遺伝子は1/4しかなくて逆クウォーター…と言ったところですねぇ」


ちなみに、目は「先天性光彩異常」と説明する。


「失礼だが、お父さんは?」


疑問に思った事は、全部答える姿勢に斎藤家はザクザク質問してきた。


「離婚して3年後…僕が20歳のころに、事故死ですね。弟は、母親の家を継ぐのであちらにいる人間なので、僕が全部和奈城を継いでいます。」


静かに間があった、ニコニコしている悠人と両親の会話を面白そうに聞いていた3兄弟が、双方の様子見をしつつ茶菓子を食べヒソヒソと話していた。



「六花よ」


「なぁに?お父さん」


「昨今は、犯罪が多いの知ってるか?」


何が言いたいのか分からないが、六花は黙って頷く。


「和奈城さん、この子はもう自分の稼ぎで部屋を借りて自立しているんだが、どうも呑気でこちらとしては心配でたまらん。」


「お父さん、何言ってるんだよ」


回りくどい言い方をするので何か察知して、六花の兄が咎めるが続けて話す。


「六花と、住んでくれんか?」


突然の申し出に、悠人の目が見開き六花が口を開いたままだ。


「そりゃーなー、清いままでお嫁にだしたいがなー。実家に来るたびに和奈城と連呼するわ、和奈城さんの話しかしないわじゃもーいっそ一緒に住んでくれたほうがエエわ」


「エエわって、斎藤さんそれ大丈夫ですか?僕はうれしいですけど。」


「いいのよ、ご縁でしょうし。お式はちゃんと、呼んでね?」


ウフフと、母親が笑い兄弟は苦笑した。


「分かりました、お嬢さんをお預かりします」



その言葉に、斎藤一家は満面の笑みで悠人を見たのは事前に家族会議でもしていたのだろうか?


しばらくの歓談の後に、少し桜を見て悠人が家族写真をして斎藤家は帰宅した。


「で?公認の同棲許可が下りたけど?」


大きなソファにどっかり座った悠人の、足の間のソファに座った六花が後ろからぎゅっと抱きしめられている状態。


「一緒にいたいの」


「んじゃ、引っ越しておいで?なんなら、引っ越し業者まわそうか?」


「んー、でも引っ越すのって先に大家さんとかに言わなきゃでしょ?間に合わないかも」


六花のマンションの名前を聞いて、悠人は大丈夫だと笑う。


「だって、そのマンションの大家は僕だからね。さぁ引っ越ししようか?」


クスクス笑う悠人に、六花が目を丸くする。


「だだの古い家に住んでるだけじゃ、違うんだよ?頭は使って土地は転がさないとね」


翌日の日曜日の朝和奈城の言うとおり、六花が後ろだっこされている間に六花のワンルームマンションから荷物がそっくりそのまま移されてきた。荷造りは女性スタッフだったのが救いで、部屋干しの服や下着が心配だったが解消された。


「凄い!引っ越しってこんなにあっと言う間なの?」


手続きから何から、電話一本でサクサクやってのけた悠人にせめて引っ越し代金は、払わせてと言っても笑顔で却下。六花の為に使うから、別に返してもらう必要はないからと笑いながら立ち上がり、家を案内すると手を差し伸べられた。




「離れが3棟と道場と、蔵が5つと…あぁ車庫が道場の横にあるのと、今僕たちがいる母屋か。」


「離れって、あの普通のおうちに見えるんだけど?」


母屋じゃないから、離れですよと。


「母屋は数えたことないけど、1階に10部屋かな?2階は少し少なくて。あぁ音楽室が有るんですよ、母が音楽やってる人だったんでピアノ弾ける?ヴァイオリンもあるよ?」


音楽室を案内してもらうと、純和風の壁の中に木製の2重扉を見つけ引いて開けると先にはグランドピアノ。


「この間調律してもらったから、音は奇麗になってるから」


ポーーーーーン♪と、悠人が鍵盤を押すと澄んだ音が静かに響く。


「弾けるの?」


「弾けますとも」


ポンポンポンと、リズムよく弾むように弾く悠人は実に楽しそうだ。


「じょうずぅ~」


「1日に10時間特訓とかやってたら、幾らなんでも上手になりますよ」


また今度と、カバーを降ろして音楽室を後にする。


「ちなみに、良くある比較でこのお屋敷はどのくらいの広さなの~?」


2階を案内してもらい、テクテク歩いていると疑問に思う広さ。


「ん?そうですねぇ広さねぇ」


純和風でありがながら、要所要所で洋風も取り入れてあり1階のリビングとダイニングは白漆喰に黒塗りの柱で、床は黒っぽいフローリングとなっている。


「家の敷地面積が、ざっくり600坪か…な?庭も入れたら1000坪位…たぶん」


「せん!?」


ふふふ…と、悠人が笑う。『古いだけしか取り柄ないけどね』と、小さく呟くが実家がマンションで3LDKで5人住まいの六花には、夢の広さだ。


「お手伝いさんとか、執事とかいるの?」


「家族全員が居た頃はね、お手伝いさんとか運転手とか入れてましたけど…まだ何か居た気がするけど」


ざっと家を回って、リビングのソファに座るとポスンと六花が横に座り、キラキラとした顔で悠人を見つめる。


「それでそれで?」


「経費が掛かり過ぎるって気がついてね、20歳で1人になった時に理解して全員知り合いのお宅に紹介して差し上げました。」


エーーーっと言う顔と共に、六花はのけぞる。


「エーじゃないの、一人しかいないんだからね?人を雇うには、お金が発生するんですよ?家政婦さんはちなみに、おおよそ20万かかります。」


なお一層のけぞる六花を、抱き寄せて忍び笑いする。


「んじゃ、んじゃーね?離れとか使ってないお部屋の掃除ってどうしてるの?かちょーが掃除するの?」


「かちょーは、やめて。 掃除は、普段ルンバ入れてやってるよ?結構綺麗。」


豪邸の知られざる裏側を知って、驚愕の表情の六花。


「でもまぁ、人数増えるし2人位通いの家政婦さん入れようかな?」


「お金かかるよ?かちょー」


『かちょー』の言葉に、悠人が片眉を器用に上げてムニと六花の頬を両手で挟む。


「かちょーじゃないの、な・ま・え!」


「ひゃい」


よろしいと、座りなおす悠人はこの際だからと説明を続ける。

先祖伝来の土地を、貸したりマンションにしたり駐車場に1部変えて、その収入に家の税金を払っている事や維持管理費に使っている事。


1人で住んでいるから、最低限の事しか家を使っていないなどなど。


「あとね、僕は出張が多いから多分一人で夜を過ごす場合があるから、セキュリティはこのパネルでね確認できるから」


パカッとB5サイズのパネルを開くと、屋敷のおおまかな見取り図が出てきてセンサー部分が光る。

「不審者が入らないように、厳重にしているけど。もしも、仮に家の中でおかしな気配があれば2階の僕の部屋に逃げてカギを掛けてじっとしてなさい」


不審者の言葉に、青くなる六花に笑い髪をクシャリとかき混ぜる。


「かちょー…出張早く帰ってきてね…んんっ」


六花の後頭部をがっちり押さえ、悠人が深く唇を合わせ何度も角度を変えては、息継ぐ暇を与えない。

漸く離した頃に、六花の顔が耳まで赤くなって俯いており悠人の腕を握った手は、微かに震えていた。


「僕の名前、知ってる?」


コクコクと、激しく頷く六花は吸い込まれそうな2色の目に見つめられながら、深呼吸して息を整える。


「悠人さん?」


「ヴィンセントがいい、悠人は皆知ってる。そっちの名前の方は、僕が許可しないと呼ばせない」


「ヴィンセント?」


ニッコリ笑って、ギュと抱きしめて。もう一回呼んでと、耳元で囁く。


「ヴィンセント」


「うん」


満足そうに悠人が目を細めて笑い、六花も釣られて笑う。長い指で、六花の顎から首にかけてゆっくりと撫で髪の毛をゆっくりと梳く感触に、六花は声を小さくして笑い逆に悠人のキラキラ光る髪を触ってはパラパラと散らす。


「あのね、私ヴィンセントしかお付き合いした事ないから…、どうゆうのが駄目でとか分かんないの。」


付き合って2ヶ月目の頃、泊まりに来た時に悠人しか付き合ってないと言うのは分かった。

なんだそんな事かと、どんな告白をされるのかと悠人は内心苦笑したが、顔には出さず心配するなと告げた。


「僕もね、付き合う人間皆同棲してる訳じゃないからね?六花が、初めてだから」


悠人がフィと顔を上げると、玄関モニターに向かう。画面を覗き込むとそこで、呼び鈴が鳴った。

一言二言喋ると、そのままスィッチを切り「面倒くさいのが1個小隊来たぞ」と六花に笑って言うと玄関に向かう。


糖度200%でお送りしています…、ええ甘やかしておりますとも。

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