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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
49/158

はじめてのおとまり。 ①


バレンタインを目前にして、六花は指折り数える。なかなか会えない人間からメールが来て、遊びに来ないか?の誘いがあったからだ。


「ヴィ~?旅行に行かない?」


「旅行?」


うんうんと頷きながら、手にしていた新聞を取り上げてテーブルに畳んでおく。


「来週半ば位から職場に戻るなら、その前に少しぶらーっと行かないかな?」


「どこ?」


面白そうに頬杖ついて、目の前に立つ六花を見上げる。


「長崎♪親せきが住んでいて、何年も行ってないから遊びにおいでって。おうちに泊まれるから、ホテルとか気にしないでOKよ」


「いいよ、体調も良いし六花の親せきにも興味あるから、お呼ばれしようかな?」




飛行機で近くまで行き、そこからレンタカーを借りて六花の親せき宅に到着したのは数日後の事。


「長崎は長崎でも、過疎の方だったりするのよねー」


うふふと笑う六花の言葉の通り、車窓から見る景色は田畑と海逆の窓から見れば山と田畑。


「凄いねぇ、ダウェルの家も山野に囲まれているけど。」


「そこらへんの市をいくつか集めて一つに纏めるくらい、人数少ないみたいよ?」


最寄の空港が「空港」じゃなくて「飛行場」だった事も、悠人にはちょっとした驚きだ。

2時間弱程ドライブすると、国道沿いに人家が見え始め住宅街に入っていく。


「わー狭い…、運転するけど」


ステアリングを切りながら、ポソっと言う悠人を見て笑う。

地元の人間じゃないと、ハンドルが切りにくい場所が1か所あり、そこは小さな踏切に突っ込みそうになるのだ。


少し道なりに行くと、庭先に車が幾つか停車している家がありそこが六花の親せき「斎藤家」だった。


昔ながらの納屋と、台所の水屋そして母屋の3棟構成で「コ」の字になっており空いた場所が道路に面する中庭である。空いたスペースに駐車すると、荷物はそのままにウキウキと歩く六花が玄関をカラリと開ける。


「来たよぉ」


「はいよぉ」


ひょこっと部屋から出て来たのは、小さい皺だらけのおばあさん。大仏のようにクリクリのパーマをあてて、嬉しそうに六花を見上げている。


「ハナちゃん、久しぶりねぇ。…あれまぁ、ハナちゃんの彼氏はガイジンさんね?」


「和奈城です、今日はお邪魔させていただきます。」


ニコっと笑うと、六花を見て『イケメンねぇ』と言う。


「ヴィ入って!寒いでしょ?」


カラリと硝子戸を開ければ、親せきらしい中年の男女と六花と同じような年の男女も、入ってきた人間を見ていた。


「ハナちゃーん、久しぶりね!まー、男前の彼氏連れてぇ」


「叔父さんと叔母さん、従姉弟のいずみちゃんとまさる君」


言われてペコリと頭を下げる男性陣と、ニコニコと笑う女性陣。


「悠人・ヴィンセント・ウォーレス・和奈城です、今回は急に来て申し訳ありません。お邪魔させて貰います」


「ガイジンさん?」


「父が日本人とハーフで、母は純正ガイジンです。」


「まー長生きすると、色んな人に出会えるわねぇ」


祖母がノホホンと笑い、湯気が立つお茶をどうぞと渡す。


「なぁんもないけど、自然だけは一杯あるからな」


ニカと笑うと、顔じゅう皺だらけの叔父が2人に笑いかけた。


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