はじめてのおとまり。 ①
バレンタインを目前にして、六花は指折り数える。なかなか会えない人間からメールが来て、遊びに来ないか?の誘いがあったからだ。
「ヴィ~?旅行に行かない?」
「旅行?」
うんうんと頷きながら、手にしていた新聞を取り上げてテーブルに畳んでおく。
「来週半ば位から職場に戻るなら、その前に少しぶらーっと行かないかな?」
「どこ?」
面白そうに頬杖ついて、目の前に立つ六花を見上げる。
「長崎♪親せきが住んでいて、何年も行ってないから遊びにおいでって。おうちに泊まれるから、ホテルとか気にしないでOKよ」
「いいよ、体調も良いし六花の親せきにも興味あるから、お呼ばれしようかな?」
飛行機で近くまで行き、そこからレンタカーを借りて六花の親せき宅に到着したのは数日後の事。
「長崎は長崎でも、過疎の方だったりするのよねー」
うふふと笑う六花の言葉の通り、車窓から見る景色は田畑と海逆の窓から見れば山と田畑。
「凄いねぇ、ダウェルの家も山野に囲まれているけど。」
「そこらへんの市をいくつか集めて一つに纏めるくらい、人数少ないみたいよ?」
最寄の空港が「空港」じゃなくて「飛行場」だった事も、悠人にはちょっとした驚きだ。
2時間弱程ドライブすると、国道沿いに人家が見え始め住宅街に入っていく。
「わー狭い…、運転するけど」
ステアリングを切りながら、ポソっと言う悠人を見て笑う。
地元の人間じゃないと、ハンドルが切りにくい場所が1か所あり、そこは小さな踏切に突っ込みそうになるのだ。
少し道なりに行くと、庭先に車が幾つか停車している家がありそこが六花の親せき「斎藤家」だった。
昔ながらの納屋と、台所の水屋そして母屋の3棟構成で「コ」の字になっており空いた場所が道路に面する中庭である。空いたスペースに駐車すると、荷物はそのままにウキウキと歩く六花が玄関をカラリと開ける。
「来たよぉ」
「はいよぉ」
ひょこっと部屋から出て来たのは、小さい皺だらけのおばあさん。大仏のようにクリクリのパーマをあてて、嬉しそうに六花を見上げている。
「ハナちゃん、久しぶりねぇ。…あれまぁ、ハナちゃんの彼氏はガイジンさんね?」
「和奈城です、今日はお邪魔させていただきます。」
ニコっと笑うと、六花を見て『イケメンねぇ』と言う。
「ヴィ入って!寒いでしょ?」
カラリと硝子戸を開ければ、親せきらしい中年の男女と六花と同じような年の男女も、入ってきた人間を見ていた。
「ハナちゃーん、久しぶりね!まー、男前の彼氏連れてぇ」
「叔父さんと叔母さん、従姉弟のいずみちゃんとまさる君」
言われてペコリと頭を下げる男性陣と、ニコニコと笑う女性陣。
「悠人・ヴィンセント・ウォーレス・和奈城です、今回は急に来て申し訳ありません。お邪魔させて貰います」
「ガイジンさん?」
「父が日本人とハーフで、母は純正ガイジンです。」
「まー長生きすると、色んな人に出会えるわねぇ」
祖母がノホホンと笑い、湯気が立つお茶をどうぞと渡す。
「なぁんもないけど、自然だけは一杯あるからな」
ニカと笑うと、顔じゅう皺だらけの叔父が2人に笑いかけた。




