みている。 ④
カタンと物音がして振り返れば、六花が帰宅したところだ。
「おかえり」
書類を文鎮で押えて立ち上がり、ぎゅっと抱きしめる。
「ただいま~、和慎のお仕事?根詰めたら駄目だよ?」
「詰めてない、ゆっくりしすぎて仕事忘れそうだからね。」
小さく笑っていると、夕飯ですよと家政婦の声が聞こえる。目線を上げれば、ダイニングに食事が並んでいる。通常食が可能となり、家政婦達の得意分野の和食が所狭しと並んでいる。最初は悠人のハグを見て目を丸くしていた家政婦達だが、今は慣れきって笑っている。
「旦那さまは、六花お嬢さんが帰ってきたら元気になるのよ。」
「青山さんが来たら渋い顔してるのにね、…そうそう蒼太さんは外食になさるそうで、お出かけになられましたよ」
会社の先輩と、飲み会らしいと言う事を聞いて営業は団体行動が好きだね…と、呟く。
「旦那さまも、今日はお仕事おわりになさってくださいね?また入院しちゃいますよ?」
先日の入院の表向きの理由は、仕事のしすぎでストレス系の胃潰瘍だと説明し、会社にもそう提出している。
ストーカーだの何だのは、社に報告すると後々面倒くさい事になるからだ。
数日後、検査と薬の関係で病院の待合室にいる時にポンと肩を叩かれる。
「よっ、重病人♪」
後ろに真面目そうな男性を2人程連れた男性は、白髪だ口角をキュと上げてニコニコ笑う姿は病院には酷く不似合い。
「久しぶりだね、もう薬を受け取るだけだから…。」
ヒラヒラと手を振り、薬局で薬を受け取ると3人は待合室の端でおとなしく待っている。
「話す事もあるでしょう、まずは後ろの人達からなんだけど?」
「和奈城悠人さんですね?被害届を受理しました、お手数ですが署までお願いします。」
中年男性が、チラリと警察手帳を見せてヘラリと笑う。素直に頷いて、覆面パトカーに同乗した。
「和奈城さんが探偵を使って調べた件ですね、あれは受理できます。ストーカー法を適用するより、盗撮の被害の方でいけば立件できますが…そちらがお望みですか?」
簡素なテーブルには、青山が提出した書類が積まれており彼らは刑事らしく、警察で調べた書類を比較しながらそう淡々と喋る。
「立件より、警告か何かでお願いしたいです。罪を犯す手前でしょうし、二度としなければそれでかまいません。あちらの家も、旦那さんが大変でしょうし」
「…というと、あちらの事情をご存じで?」
「…元上司です、実行したのは奥さんですね。」
「成程、そうなると逆恨み…かもしれませんなぁ。」
「ではこちらで奥さんを、任意で事情調書します。それで事によっては、こちらで警告なり注意しますんで最後は報告の通知を、ご自宅に送りますわ。」
年配の刑事がそう言って、病み上がりでしょうからと白髪の青年と共に和奈城の家まで送ってくれる。
「久しぶりに来たけど、相変わらず雰囲気満点のご自宅で」
「ありがと、お茶でもしていく?」
勿論と、微笑んで白髪の青年はすっかり日の暮れた空をチラリと見上げた。




