みている。 ③
悠人の治療は最初に聞いていた通り、吐血の割には順調にすすみ3日目には水を飲む事を許された。
ベットには縛り付けられていて、明日からなら歩いてよしとの予告も出ていた。
「はい、初お水」
軟水のペットボトルを手渡され、ニコニコ笑う六花にうらみがましい目で見つめる悠人。指先でチョイチョイと招けば、小首を傾げて近寄る。
指先で唇を撫でられ、じっと見られる…。反して暫く考えた六花が、顔を赤くして悠人を見ればニコと笑われる。
「んもーぅ」
唇をムィと尖らせるが、コクリコクリと飲んで直ぐに悠人と唇を合わせてゆっくりと飲ませる。
点滴の数が片腕に1本へと減ったので、軽くなった腕が六花を抱きしめて『もっと』と、水をねだる。
「ありがとう、美味しかった」
幸せそうに笑って、ペットボトルを握る悠人は嬉しそうだ。
「んもぅ」
椅子にへたり込んで、上目づかいで見上げて一応は睨むが直ぐに笑顔に変わる。
死にそうな顔で寝ていたの嘘のように、ゆっくりと確実に悠人は元気になっていった。
その一方で青山が犯人探しをしている、あらかた目星は付いていると悠人は言っているが誰とは言わない。
探偵を雇って、裏付けをするらしくまだ分からない事も、徐々に分かるのだろう。
連日検査をして、胃が回復しているのも分かり、見舞いに来た家政婦達は喜んでいた。
「退院して早々悪いな」
入院して少し痩せているように見える悠人の前で、青山が気まずそうに書類を見せる。
入院中に滞っていた書類の他、探偵を使った報告書に目を通す。
大量に吐血し、3Lは輸血したもののまだ血圧が安定しにくいらしく、医者には無理をしないと念押しを重ねてされての退院だ。
「そうか、やっぱり…な。」
「盗撮されているし、被害届を出しておけばいいかな。」
悠人にストーキングをしていた人物はあっさりと分かる、悠人の自宅近くの8F建てマンション上階に住む女性。
望遠を使えばたやすく撮影できるだろう。
「まさかと思ったけど、前の課長の奥さんだとはね。」
ふーっと息を吐き、目をつぶってソファに持たれる。
「おい、大丈夫か?」
カタカタと、応接室の飾棚に飾ってある、ガラスの重い花瓶が揺れる。
今にも落ちそうに揺れるので、青山が立って抑えると熱い。一瞬手を離すが、ハンカチ越しに抑えると今度はドンと部屋が揺れて青山は、足元をすくわれてフローリングの床に倒れこんだ。
「おい、大丈夫か?悠人!青山!」
慌ててやってきた蒼太が、ドアを開けて散らかった部屋の惨状に目を見開く。
「いてー、転んだだけだ。悠人は?」
「大丈夫だよ、悪いちょっとサイキックが暴走した。」
少し寝てくると、部屋をゆっくり出て行くのを2人が見送った。
「そうか、ストーキングの犯人は前任課長の奥さんかぁ」
リビングに移動し、青山の話を聞いて残念そうな顔をする。
応接室は家政婦が掃除をしているが、周囲の部屋は揺れなど無いと聞いて青山は首を傾げる。
「地震じゃない?」
「あぁ、悠人が言ってただろ?サイキックって…花瓶触ってみた?」
重厚な花瓶は、少しの揺れでは落ちなさそうなものだったのだが、青山が触った時は熱かった。
「熱かった」
「そう、それがPKの証拠だよ。PKは念力だけど、総じて超能力で動かした物は暖かくなるんだって。犯人を聞いて少なからず、精神的に暴走したんだろうね…いつもは、理性で抑え込んでいるけど。普段は六花ちゃんがストッパーで、横にいるから暴走はしないけど今日は仕事に行ってるしね。」
「斎藤さんが、ストッパー…?」
その言葉に、面白そうに笑う。
「そうだよ、好きな子には怪我させたくない…ってヤツ。」
複雑な顔して、青山は納得しとりあえずこの件は証拠を揃えて、最寄の警察署に被害届を提出する事でまとまった。




