みている。 ①
会議に出ていた悠人が自分の席に戻り、部下から上がる書類箱を見る。数枚ある書類、いつもの通り。
PCのメールを確認すれば、また同じアドレスから。
不定期にアドレスは変わるが、内容は同じ。
柳眉を潜め、マウスで決まった動作をしてからそのメールを素早く削除する。
そのメールには、いつも最後にこう書いてある
『I LOVE YOU.』
初めてそのメールを貰い始めたのは、おととしの春だ。
最初は誰かがイタズラで送ってきたのだろうと、課内を調べたが該当する人間はいなかった。
勿論虚偽の申請もあるだろうと、青山に調べさせたが課内はシロ。
半月すると、違うアドレスでメールが来たが内容と文章から同一人物と分かる。
その内容は、悠人の一日を事細かに観察し、どこからか撮影したのか写真が必ず一枚同封されている。
月に3通ほどだったのが、増えたのは去年からだ。
半裸の悠人の写真や、部屋着で庭に出ている写真も撮影されており、一応屋敷の警備を強化したのだが写真は依然として送られる。
社内のアドレスにしか送られてこないと言う事は、取引先を含め社内関係だと分かる…が。
デスクに肘をついて、両手で額を抑える。
心拍がバクバクと上がり、嫌な汗が出てくるが静かに深呼吸をして落ち着かせる。
「ヴィ?疲れた?お茶入れようか?」
前の席から、六花が微笑んで席を離れる。
かろうじて笑って、お茶を頼み後ろ姿を見送れば嫌な考えは、とめどもなくあふれてくる。
標的が自分なら、なんとかできる。
しかし、その標的が六花に逸れたら…。
不眠ではないが、悠人が睡眠時間が少ないのはこのメールが来始めた頃。
丁度課長職に就いた頃だ、勿論前任の課長はいたのだがその前課長はストレスで体調を崩し、入退院を繰り返した後の依願退職。
彼の指名により、悠人は課長職に就いたのである。
「ヴィ?どうしたの?」
ハッと気が付けば、自室にいた。
寝巻になっていて、自分は籐椅子に座っていた所を床に膝を着いて、六花が見上げている。
「いや?何も?」
スリ…と頬を寄せてくるのを受けて、ぎゅっと抱きしめる。
細くて華奢なこの六花を、被害に遭わせない為にも策を練らないとと思い、その思案は今だけは忘れようと唇を合わせた。
「旦那さま、お手紙来てますよ。昨日はなかったのに」
家政婦がポツリとこぼし、朝食時に朝刊と一緒に回収した封書は、少し大きい封書。
A4サイズだろうか、カッターで開けながら裏を見るがリターンアドレスはなく、切手の消印は悠人の地元の大きな局。
中身は一枚の写真。
服は見覚えがある、六花だ。
この服を着た時は、婚約指輪を買いに行った時…。
だが
六花の顔は削り取られ、穴が開いていた。
赤い真っ赤なペンで
『似合わない わたしなら ぴったりなのに』
それだけ、かいてあった。
「旦那さま?顔色が…、封書になにか?」
家政婦が封書と写真をみようとして、悠人が手を振り払いリビングを出る一度自室に戻り、封書を隠すと洗面所に駆け込み、こみ上げる吐き気を吐きだした。
一通り吐き出したが、立ち上がろうとした時に目の前が真っ暗になった。
鈍い衝撃だけ、最後に覚えている。




