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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
43/158

みている。 ①


会議に出ていた悠人が自分の席に戻り、部下から上がる書類箱を見る。数枚ある書類、いつもの通り。

PCのメールを確認すれば、また同じアドレスから。


不定期にアドレスは変わるが、内容は同じ。


柳眉を潜め、マウスで決まった動作をしてからそのメールを素早く削除する。


そのメールには、いつも最後にこう書いてある




『I LOVE YOU.』




初めてそのメールを貰い始めたのは、おととしの春だ。


最初は誰かがイタズラで送ってきたのだろうと、課内を調べたが該当する人間はいなかった。

勿論虚偽の申請もあるだろうと、青山に調べさせたが課内はシロ。


半月すると、違うアドレスでメールが来たが内容と文章から同一人物と分かる。

その内容は、悠人の一日を事細かに観察し、どこからか撮影したのか写真が必ず一枚同封されている。


月に3通ほどだったのが、増えたのは去年からだ。


半裸の悠人の写真や、部屋着で庭に出ている写真も撮影されており、一応屋敷の警備を強化したのだが写真は依然として送られる。


社内のアドレスにしか送られてこないと言う事は、取引先を含め社内関係だと分かる…が。



デスクに肘をついて、両手で額を抑える。

心拍がバクバクと上がり、嫌な汗が出てくるが静かに深呼吸をして落ち着かせる。



「ヴィ?疲れた?お茶入れようか?」



前の席から、六花が微笑んで席を離れる。

かろうじて笑って、お茶を頼み後ろ姿を見送れば嫌な考えは、とめどもなくあふれてくる。

標的ターゲットが自分なら、なんとかできる。


しかし、その標的ターゲットが六花に逸れたら…。







不眠ではないが、悠人が睡眠時間が少ないのはこのメールが来始めた頃。


丁度課長職に就いた頃だ、勿論前任の課長はいたのだがその前課長はストレスで体調を崩し、入退院を繰り返した後の依願退職。


彼の指名により、悠人は課長職に就いたのである。



「ヴィ?どうしたの?」



ハッと気が付けば、自室にいた。

寝巻になっていて、自分は籐椅子に座っていた所を床に膝を着いて、六花が見上げている。


「いや?何も?」


スリ…と頬を寄せてくるのを受けて、ぎゅっと抱きしめる。

細くて華奢なこの六花を、被害に遭わせない為にも策を練らないとと思い、その思案は今だけは忘れようと唇を合わせた。



「旦那さま、お手紙来てますよ。昨日はなかったのに」


家政婦がポツリとこぼし、朝食時に朝刊と一緒に回収した封書は、少し大きい封書。

A4サイズだろうか、カッターで開けながら裏を見るがリターンアドレスはなく、切手の消印は悠人の地元の大きな局。


中身は一枚の写真。


服は見覚えがある、六花だ。

この服を着た時は、婚約指輪を買いに行った時…。



だが



六花の顔は削り取られ、穴が開いていた。


赤い真っ赤なペンで



『似合わない わたしなら ぴったりなのに』



それだけ、かいてあった。



「旦那さま?顔色が…、封書になにか?」


家政婦が封書と写真をみようとして、悠人が手を振り払いリビングを出る一度自室に戻り、封書を隠すと洗面所に駆け込み、こみ上げる吐き気を吐きだした。

一通り吐き出したが、立ち上がろうとした時に目の前が真っ暗になった。


鈍い衝撃だけ、最後に覚えている。


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