しらゆきひめ。
『ぽやん』
六花の周囲からの評価である、初見のんびりした雰囲気がありいつもニコニコしている所から、そう形容と言うか評価される。
実際気は長い方だが未だに六花がキレたのを仲の良い山元愛梨などは、見たことがない。
『烏の濡羽』と言うのがぴったりなツヤツヤで、真っ黒の髪は腰の上まであり大抵緩く巻いている。
「おはようございますー」
「おっはよー、今日もポヤンだねー。」
小柄な為に、SEの人間には殆ど見下ろされていて社会人と言うより、高校生辺りに認識されているらしく他部署の社員が来ても「今日は学校やすみかい?」とからかわれる始末。
くりっとした大きな目と、日本人には珍しく黄味の無い白い肌で陰では「白雪姫」と仇名されているのは、本人と悠人だけは知らない周知の事実だ。
新年明けてまだ暇がある日に、やってしまえと他部署合同での新年会が今日執り行われる。
「新年会…、ヴィ行くの?」
チラリと申込用紙を持って聞けば、既にそのつもりだったのだろう素直に首が縦に振られる。
「なんで?六花嫌?」
ヒソ…と話せば、苦笑いが帰ってくる。
「だって、お酒勧められない?」
「じゃあ、車の運転は六花がするって事にしとけば、無碍に勧められたりしないよ。」
悠人の言葉に安心し、ほっとした顔で手を止めていた仕事を続ける。
悠人と六花が同棲しているのを知っているのは、不思議と少ない…。住所関連の情報を持つ総務と、所属する開発課そしてアーネストのいる開発2課しか、知っている人間はいないのだ。
「ねぇ、あなた開発課の子よね?」
経理に書類を届けた帰りに、隣の総務の給湯室のドアの隙間から少し顔を出して、今風メイクのお嬢さんが六花を呼びとめる。
「はい?」
周囲をチラチラ見て、ぐいっと引き込まれたら給湯室には、同じような年代のお嬢さんが5人はいてじっと六花を見る。
「だから、あなた開発課の子でしょ?今日の合同新年会、和奈城課長も出席するの?」
目ヂカラが半端ないメイクに、六花は少し後ろに仰け反って頷く。
「やった!」
「良かったー!和奈城課長の課って、飲み会するけど絶対ウチらが入れないから、こんな時じゃないとねー」
キャイキャイ騒ぎ、その中のリーダーらしきお嬢さんがジロリと見る。
「あたし達が聞いたって、言わないでよ?」
「いいません…。」
「じゃ、行って!」
ドアを誰かが開けて、ドンと後ろから押されて転げるように放りだされた。
「ねー桃香、さっきの子ってアノ子じゃないの?白雪姫ってヤツ。」
桃香と言われたリーダー格の子が、眉を潜めて馬鹿にしたように笑う。
「あんな程度で白雪姫って…、笑っちゃうわ」
「そーよねー」
取り巻きが同調して、頷いては桃香をほめたたえる。
「VIP席ゲットしたいの、よろしくね?皆」
取り巻きが、静かに頷いた。
開発課と2課と、総務と営業と言う妙な集まりで新年会は会される。強制ではないので、集まった人数は40人程。
中年族の多い総務は、女子5名だけが参加で後は各課10人前後の集まり。
「わ・な・じょ!」
「アレックス!久しぶり、元気してた?」
ぎゅとハグをして、ニコニコしているアレックスは営業のホープだ。
難攻不落の新規開発も、気難しい得意先もばっさばっさと営業を掛けて案件を取って。親しみやすい雰囲気で、社内でも有名だ。
「おー、アーニー!相変わらず赤い頭だなぁ」
「キンキラキンのお前に言われたかないぞ」
ニヤと笑い、最近どうだ?とヒソヒソ話す。
東・悠人・アレックスと並んで、東の向かいにアーネストでアレックスの向かいに桃香が座る。
「和奈城課長、こんばんはー。」
ニッコリ艶やかな笑顔を浮かべれば、「こんばんは」と悠人も返事をする。その視線は桃香を通り越して後ろをウロウロ彷徨い、ピタリと一点を見る。
「こんばんはー」
昼間聞いた事のある声に、桃香が振り返れば六花でジロリと取り巻きの1人と睨みつける。
「お!これはこれは、噂に聞く白雪姫じゃないかー。初めまして、アレックスです。」
ニッカリ笑うと、六花は驚いた表情を浮かべてニコと笑う。視線があちこち彷徨って、迷っているのが分かる。
「斎藤さん、あっちの端あいてるわよ?真ん中とか?」
桃香が言う言葉の通り、悠人とは少し離れる。
「アレックスちょっと1つ隣にずれてくれるか?」
「おー、白雪の隣。今日はツイてるなっ」
「課長優しいですねぇ、斎藤さん羨ましいぃ」
桃香の取り巻きが、少しトゲのある良い方をしてチラリと六花を見上げる。
「六花」
ポンと席を叩けば、嬉しそうに笑って座る。
桃香は恐ろしげな顔をしていたが、隣でアーネストが小声で何事かを言えば唇を噛みしめて、アーネストを睨みかえす。
「で?白雪姫ってなに?」
「知らないのか?お前、本当に噂は耳にしないのか?六花の仇名だよ、可愛いなぁ」
「可愛いでしょう」
左右の人間に可愛いを連呼され、真っ赤になった六花が近くにいた愛梨に目をやるが苦笑されるばかり。
「僕のだから」
その一言で、殆どの人間が凍りつき。
アレックスは開いた口がふさがらず。
アーネストは爆笑し。
東は、額を押えてため息を付いた。
翌日「白雪姫には、王子の迎えが来た」と、素早く噂が広がり。
辞職に関しての相談をしに、専務に会った悠人は「王子の、おなり」と役員秘書に言われ赤面したとかしないとか。




