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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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わなじょうさんチのねんまつねんし②


和奈城家の大掃除も本日31日ギリギリで終了した。


普段から掃除はこまめにしているが、磨き上げるとなると体力も人数も必要となり、自室以外は業者に任せている悠人は利口かもしれないとう六花は思う。


昨日30日、蒼太はようやく仕事が終わったとヨレヨレと帰宅し、食事以外は起床せず先ほど夕方にようやく起きたのだ。


「蒼太、今日年越し参りするけどちょっとだけ一緒に来い。」


「あい」


ポワーンと寝起き顔で、とりあえずは頷く。寝ぼけていても、寝起きでも絶賛美形中…。


年越しも家政婦の葉山と加藤は、家に帰らないらしくおせち料理と今日の夜から来る親せき筋の、おもてなし料理を作るために大忙しだ。どこから出したかわからないような、大きな鍋を出してきて煮炊きしたのを広げて冷ましていく。


「あー、なんか昔の和奈城ウチみたいだなー」


「そうだなぁ、僕達が学生の頃みたいだな」




「うっわー、六花ちゃん綺麗だー」


夜に風呂へ入り、そのまま悠人に着付けて貰った六花は、直球で褒める蒼太に嬉しそうに笑ってクルリと周る。今回はちゃんと髪を結ってから着付けて貰い、見かけだけは完璧だ。


「蒼太君は、着物着ないの?」


「着ないよ、堅苦しい事嫌いだし。男の着物って、あんまりいないだろ?」


スラリと障子が開いて、廊下で喋っていた2人の前に悠人がひょっこり顔を出し、蒼太の腕を掴んで引きいれる。


「え?え?着るの?」


「そ、着て」


兄弟揃って着ものかと、内心ほくそ笑んでいると携帯が鳴る。和風のカバンから取り出せば、美桜からだった。


「もしもし?」


『六花ちゃん?メールありがとうねー!着もの着たって写真見たけど~』


「うんそう、ヴィンセントから出して貰ったの。美桜ちゃんの着ていた着ものって、3種あったでしょ?青色とか緑色とか、その中にあったの。凄く綺麗!」


『…あらあら~、私着ものは全部英国こっちに持って来たわよ―?確かに青色と緑色は、そっちに置いて行ったけどあたし、桜色の桜模様は持ってなかったわ?うふふ』


一瞬意味が分からず停止してしまい、ようやく立ち直って携帯を握りしめる。


『六花ちゃん、多分それはお兄ちゃんが用意したんだよ。愛されてるねー。』


「えーー?!着ものって高いんじゃないの?どうしよう…。」


『いいのよぉ、貢がせてやれば~。凄いね、あのお兄ちゃんがそこまで尽くすかー。』


「なんか、髪飾りも美桜ちゃんのだって…。」


『こっちにありまーす、あははは!ばらしちゃった~、まぁいいじゃない?貰っておいて。んじゃーね、来年もよろしくー』


「え?あ、よろしく…じゃなくて、美桜ちゃん?」


通話が終わった携帯を握りしめ、途方に暮れた。いかにも凝ったデザインの着もので、高価なんじゃないかと見下ろすが悠人が用意してくれたのだ、ありがたく着てお参りに行こうとカバンに携帯を仕舞う。



「はー、自由が無くなる…」


「無くならない。」


スラリと障子をあけて、着ものに着替えた2人が出て来た。

ダークグリーン系が悠人で、ダークグレー系が蒼太だ恐らく目の色に合わせたのだろう。

鏡のようにそっくりな2人だが、並べると雰囲気で全く違うと六花は思う。


「2人共かーっこいいー!」


直球で褒めると、微妙に目線を逸らすのは2人共通だ。

葉山に頼んで、3人の写真を撮って貰う。蒼太の横に悠人と六花が並んで撮れば、2年参りに丁度良い時間になり外出だ。神社に行けばかなりの人が来ていて、参拝の列に並ぶがここでも双子に視線が飛んでいく。


「六花迷子になるよ…、おいで」


スッと手を差し出され、躊躇わずぎゅっとその手を握りしめると微かに笑う顔が、見下ろしてくる。


「あのね、着ものと髪飾りヴィンセントが買ってくれたんでしょ?ありがとう、すっごく嬉しい。」


軽く眉を引き上げて驚いた悠人だが、はにかむような顔でなんとも言えない笑顔を浮かべる。


「ばれちゃったね、1枚は持っていたほうがいいかなって。着てくれてありがとう」


「美桜ちゃんと電話した時に、桜色持ってないってなって。」


参拝の順番が回って来て、お参りした後に六花から電話をして斎藤家に向かった。




「まー、イケメンが増えたわ~♪」


マンションのドアを開けるなり、斎藤母が大喜びして夫を呼ぶ。ウキウキした足取りで、リビングに通されれば”来たか―”と嬉しそうに迎えられる。


「着物か、なかなか今時の若い者は着ないが珍しいな!同じ顔もいるし、そちらが噂の弟君か?」


「蒼太・アイザック・ユリシーズ・ダウェルです、挨拶が遅くなって申し訳ありません。」


「いやいや、お兄さんの悠人君と本当にそっくりだな」


一卵性の双子だと説明すれば、ほーっと斎藤父は感心して。

母親の手伝いをしていた六花が、父親の横に座ると何か思いつたのかいたずらっぽく笑う。


「六花ちょっと目ぇつぶれ。悠人君はこうして、蒼太君がこうすると…。」


双子の腕を借りて、座っているのと逆に並べて手のひらを広げさせる。その様子で意味が分かったのか、蒼太が目を輝かせている。


「六花そのままこうやって触って、どっちが悠人君かわかるか?」


「お父さん!んもぅそんな事しなさんな!」


斎藤母が呆れてやめなさいと言うが、3人は乗り気で六花が手のひらを触る。ペタと手を合わせて、口角がきゅっと上がる。


「こっち。」


「2人目は触らなくていいのか?」


「こっちなの。」


パチと目を開ければ、手の持ち主は悠人であって斎藤父は驚く。


「間違えたら問題よ、おとーさんもいたずら好きなんだから」


娘のジト目に、ワハハと笑う。


「さぁ、もう遅いからお帰り。また遊びに来てくれたら嬉しいわ?」


時刻は2時、六花の兄と弟は残念ながら彼女とデートらしく、両親と最後に写真を撮ってマンションを後にした。


「さて…と、我が家も朝になれば来客だから、そのつもりで」


着ものを脱ぐなりそそくさと自室に行った蒼太と、着ものをちゃんと掛けて行く悠人は六花の髪飾りを抜き取って、明朝も着るからと箱に集めて置く。


「はー、ちょっと解放感。」


「朝は、もう少し緩めにしようか?」


廊下をウネウネ歩いて、階段を上り更に歩けば寝室だ。


「ううん、やっぱ今着た感じでいけるよ?私シャワーしてくるね、先寝てていいよ?」





六花がシャワーを終えて、髪を乾かして部屋に戻ると部屋の照明は出入り口の、アジアン風の間接照明だけだ。悠人の部屋はアジアン風の収納と、ベットや照明で統一されている。


「寝た…?」


オイルヒーターの小さな稼働音は聞こえるくらい静かで、ベットに腰かければあっという間に抱き寄せられる。


「良い匂い…」


髪に顔を埋め、ぎゅっと密着すればどちらのか分からない鼓動が聞こえてくる。

その音を聞きながら、いつの間にか眠りに付いた。


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