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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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わなじょうさんチのねんまつねんし①

怒涛の12月の追い込み作業が終了した、年末年始はガッツリ1週間オフなのでSEを始め営業など対人関係は、調節をして休暇中にトラブルにならぬよう念には念を入れて作業した。

途中通り過ぎたクリスマスは、仕事に追われて記憶も曖昧でなんとかケーキを2人で作って食べた記憶が微かにある程度…。


年内最終日の27日は、社員総出で大掃除をして納会をする。外資系なのだがこのあたりは、ガッチリ日本式。


「おわったー…。」


椅子にもたれかかり、うーんと伸びをして安堵の表情を見せる。

最近使い始めたPC用メガネを磨き始め、キョロキョロすると皆帰り仕度や持ち帰りの荷造りに余念がない。


「おまたせー」


ゴドンと音がして、六花のデスクを見れば大きな紙袋。


「これ総務から廻って来て、持って帰ってくださいって差し入れ。ワインなんだって!」


「あー、社長ワイン飲めないからね。おおかたお歳暮の余りなんじゃない?去年もあったからね、六花飲めたっけ?」


「ちょっとだけね?グラス1杯位かな?」


指でコレ位と示して、エヘヘと笑う。

それに反して袋には瓶が6本もあるが、まぁ家の人間が飲むだろうと推測してその紙袋を手に取った。


「じゃ、今年もお疲れ様でした。来年も、ミスのないようによろしく。…今年の正月に、酔ってウチに来た人間は、同じ事しないように。」


チラと数人のSEを見れば、渋い顔して頷く。年越しで飲み比べをして和奈城家に、ヘベレケて年始参りしたSEなのだ。


「じゃ、良いお年を」


「今年は英国あっちに行くのか?」


すれ違い様に、東が挨拶代わりに聞いてくる。出来るだけ日本にいるようにしているらしいが、諸事情で英国に行く事のある悠人に確認なのだろう。


「いや?弟も日本こっちで年越しするし、僕も忙しいぞ?なんだ、ウチに来るのか?」


「毎年恒例の、新入社員の挨拶…忘れてないか?ま…さっと帰るが?」


「あー…そうか、それがあったか。それがあったから、今年ヘベレケが我が家に来たんだよな…。いいよ、いつ?」


「オフ最終日とは言わんが、3日午前はどうだ?」


「OK、おせちでも用意してくよ。」


簡単に決めて、ヒラヒラ手を振って別れる。






「ねぇヴィンセント聞いていいかしら?」


「何なりと?」


翌朝爽やかに目覚め、年末だから大掃除ねと言った瞬間玄関で賑やかな声が聞こえる。

ドヤドヤと庭に声が移動し、裏庭から物音も聞こえ始めた。


「何?何が始まるの?」


縁側から庭を覗いて、不安げに六花が振り向く…に対して、悠人は”あぁ”と笑う。


「大掃除のバイトさん達、毎年お願いしているんだよ。草刈りから雨どいから室内まで。…まぁ便利屋さんなんだけどね」


広大な敷地の為に、10年前から毎年お願いしているのである。庭の中にある、竹の垣根も入れ替えを今年はするので、職人が入り庭は大賑わいだ。


「すごーい、んじゃ大掃除って?」


「僕達は別の事をするんですよ、買い出しに行かなきゃだめなんでお付き合いください」


ね?と、笑顔で小首を傾げると真っ赤な顔で、六花は嬉しそうに頷いた。



悠人の車の後部座席をフラットにしてから出発で、郊外の大型ショッピングセンターに行く。


「まずは、食料品から行くよ。ウチ正月3日間は、人の出入りが凄いから覚悟して買わないとね…。」


ヒラヒラするメモには、裏表とビッチリ細かくメモがしてある。

おせち料理は、出来あいではなく全部家政婦さんが手作りするのだから脱帽だ。そのお手伝いとして、買い物は悠人と六花がする訳である。ちなみ蒼太の会社は、30日まで仕事だ。


順調にカートに入れて行くが、チラリチラリと視線が六花の頭を通り越して飛んでいるのが分かる。

店内を周れば客がガン見。レジに行けばレジ係がガン見して、そのあとに自然と視線は六花にくる。


「うう…視線がイタイわー」


観賞に値する彼氏を持つと比較されるのね…と、ボヤきながらコロコロと袋に入った荷物を入れたカートを押す。


「なに?どこか怪我でもした?」


「ち…違うよ、ヴィは気付かないの?視線!若いお嬢さんが、めっちゃ見てるけど?」


「パンダと同じさ、ちょっと毛色の変わったイキモノが珍しいんでしょう」


悠人1人でこの状態だ、蒼太も一緒にワンセットで往来を歩かせると、凄い視線が刺さりそうだとため息を突く。


「3兄妹で歩いた時、すっごいだろうねぇ。美形3兄妹だもん!」


車に荷物を詰め込みながらそう言うと、ハッチバックを片手で持った悠人がすっと目をすがめて片手で六花の両頬をつかむ。


「こーら、卑屈になるな。日本人は白人が珍しくて見てるの、なぜだか知らないけど日本人は白人にあこがれているから、つい見てしまうらしいよ?六花も、男からの視線分かってないんだからそんな事言わない。OK?」


「ほっけぃ」


頬を掴まれて変な発音だったけど、剣呑な雰囲気に首を素早く縦にコクコクと頷いた。


「そうか、六花はオトコの視線分かってないか…。」


車に乗り込んで暫くして、ポツリと出た言葉にぎょっとする。


「見られてるの?」


「見られてますよ、どうやら同性の視線にだけ敏感?」


変な格好してるかしら?と、身なりを再確認する仕草に苦笑して”違うよ”と。


「なんだろうな…、無防備なんだよね。この間も結構胸?デコルテって言うんだっけ?そこの広いの着て、前かがみになってるし…。」


ホットパンツにオーバーニー履いて出社した時は、朝別行動だったので帰りに見て驚いたらしい。


「似合わない?」


「そーゆー問題じゃないの、人にサービスしなくていいから。…あまり露出の多くなりそうな事は、控えてくだサイ…。」


「なんか露出狂みたいな扱いになってる」


「違ーう、余所のオトコの目の保養になる事は、しないで?って言ってるの。分かった?」


「…あー、なーるほどぉ」


分かってくださいね?と、なんだかんだ言ってるうちに家に到着し、運び込んでいると枯れ葉の山が家の前に止めてあるトラックに、どんどん積みこまれて行く。


何か思い出したように振り返り、六花を見て思案。


「着物持っていたっけ?」


「うん?もってにゃい」


成人式は、レンタルですと胸を張る仕草を小さく笑う。1階の奥座敷に連れて行かれ、ふすまをスラリと開ければ純和風の姿見と桐のタンスがいくつか。


「美桜のがあったと思うけど、正月着てみる?」


並べて出したのは3枚の振り袖で、青系・緑系・桜色系と全部違う色だ。

迷いなく桜の柄と色合いの着物に手を出し、予想通りだと悠人が笑う。


「じゃ、それ今から一度着てみる?肌襦袢もあるからね」


「美容室に行くの?今から?」


フスマや障子を閉めている後ろ姿に言えば、”まさか”と帰ってくる。


「僕が着つけしてあげるの。」


帯紐やら帯やら出して、並べて確認をしている後ろでソソクサと肌襦袢をはおる。


「着た―」


「はいはい、中何も着てない?」


肌襦袢の襟をギッチリ握ってるあたり、着てないと推測して六花では推測できない紐であちこちをシュルシュルと音を立てて締めて行く。


「はい、ここ持ってて?動かさないで」


ギュッギュと締めて行くのを、姿見越しに見て行くとあっと言う間。


「着物って、結構簡単に着れるよ。美桜の着つけ見てたら、自然と覚えたから。」


美桜は悠人達と違って、華道と茶道と三味線に御琴が習い事だったらしく、自分で着つけが出来るよう練習するのを見ていたとか。


髪はこんなもんか?と、アップにした悠人が出来上がって3歩後ろに行きウンと頷く。


「可愛い」


「綺麗な柄だー、葉山さんと加藤さんに見せて来ていい?」


歩幅が狭く、ちまちま歩くのをゆっくりと後ろから追って、自然と笑みが零れるのを手で覆って隠す。

いつまでも、この腕の中で閉じ込めておきたいと、独占欲が膨らみはじめる。



「見て!着せて貰ったの」



袖を上げて、クルリクルリと周る姿に家政婦も、手を叩いて大喜びする。


「旦那様、お綺麗なお嬢さまで嬉しいでしょう?」


葉山が隣で意味深に言うのを、チラリと見て笑う。


「目の正月ですね」


「はいはい、ごちそうさまです」





夜、英国のクラウディアに送った六花の着もの姿で、猛烈にはしゃいだ声で国際電話が直ぐに掛かってきたとか。


家政婦の名前が出てきたのは、メモを探しだしたから…。


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