かぞくだんらん。
斎藤 和夫(父*58)文代(母*56)健司(兄*28)雄一(弟*20)
日帰り出張にしては、少し余裕があって遠出したので珍しくお土産を買いに、土産物屋に行けばズラズラと並ぶ名産物。
「そうだ…な」
悠人は家に買うにしては、大量の買い物をして帰宅する事にした。
直帰とホワイドボードには書いたので、お土産を積んだ車のままとある場所目指して移動する。1度も行った事はないが、この道であっている筈だとナビを確認すれば正解。
普段カーナビはあまり使わないが、建物の確認などに使う位。都内近隣の県の、おおまかな道位は頭に全て叩きこんであるのだ。
ファミリー向けのマンションの近くで、タイムズに車を入れて時刻は15時。
土曜日だからか、子供が多く敷地内の公園で遊ぶ家族が多かった。
「615…615号室」
ピンポンと呼び鈴を押せば、ややあって中年女性が出た。
「……えーっと、ハロー?」
「和名城デス。」
「えーーーーー!!あらあら、ごめんなさいね。」
斎藤家、六花の実家訪問である。
「びっくりしたー、春に会った時と毛色も目も違うからガイジンさんが訪問販売に来たのかと思っちゃったわ。はいどーぞ」
「ありがとうございます」
静岡の仕事なので、お土産は干物や解散加工物を詰めて来た。土曜日とあって、父も兄弟もTVの前で転がっていたのを、母親が着替えなさいと一喝。
「びっくりした、和奈城さんいきなりだもん」
雄一がそう言いながらも、ちりめんじゃこのフリカケを見てニヤと笑う。
「いきなりですいませんねぇ、出張の帰りだったんですよ。後驚かせてすいません、頭と目。」
苦笑して、毛染めとカラーコンタクトだったと白状する。本名は最初の辺りで言った筈…だな?と、悠人は自問自答して。
「今日は六花は仕事かい?」
父親は、桜干しを焼いておくれと母親に渡す。
「そうです、もう終わった頃かも知れませんね。すいません、お嬢さん連れてこなくて。」
「かまわんよ、だけど次来る時は手ブラでな?気使わせて悪いな?」
いいえ…と、首を振って笑う。来たかったからと言えば、兄の健司が目をむく。
「でも和奈城さんも、家族いるでしょ?」
「僕の家族は、皆英国に住んでいますし弟は今日本にいますが、仕事をしていますからなかなか団欒までは…。」
「まぁ、寂しくなったらいつでもここにいらっしゃいな?狭っくるしいけど、賑やかさは人一倍あるからね。和奈城さん、これ持って帰りなさいな?ウチの煮物。六花の好物なのよ」
中位のタッパーを、いくつも紙袋に入れて手渡すとほのかに暖かい。
「いいですね…、僕も斎藤さんチみたいな家に産まれたら、楽しかっただろうなぁ」
「和奈城さんチは、違うの?」
健司が座りなおして、伺うような目線で見てくる。
「朝は4時から武道の練習、8時から学校に行って帰ってくると経済学・帝王学・学校の復習と作法に音楽と翌日の予習デス。寝るのは2時だったかな?」
その言葉に、目を丸くする斎藤一家。
「中学校かい?」
「いいえ、小学校からこれです。幼稚舎の頃はまだ早く帰ってくるでしょ?そうすると、ピアノとヴァイオリンの特訓がありまして」
ギコギコ弾くんですよと笑う、和奈城と言う古い家に産まれたそして後継ぎと決められた以上は、やらなくてはならない勉強なのだ。
「凄いわ…、グレなかったの?」
グレてはいけないだろうが、斎藤母は感心したように言って思い出したように桜干しの様子を見に戻る。
「グレる余裕がなくて、こんな感じに育ちました。父母は目を掛けてくれましたが、家族一丸は無かった記憶があります。」
「和奈城母は、どうして英国に?」
聞いていいのかなと前置きして、弟雄一が質問。
「母の実家が爵位をもってまして、母の兄が継ぐのを嫌がって国外逃亡しましてね。母が祖母に呼び戻されて、それが原因で離婚ですよ。次に次ぐのが僕の弟なんですが、勉強一切なしでいきなりそんな話廻って来たので、今大慌てでウチがやってる会社で修業させてます。」
はーーーと、一家がため息を突く。
「ナイフとフォークより、お箸と茶碗がいいですね。ウチの家政婦と六花ちゃんの料理が、一番おちつきます。…アレ?なんで泣いてるんですか」
「ばかやろー!泣いてなんかいねーよ、かぁちゃん佃煮も持たせてやんな!」
「そうね、和奈城さん持って帰って頂戴ね!!」
無言で背中をポンポンと叩く斎藤兄弟、不思議がる悠人。
「友達はいるのかい?」
「はい斎藤さん、幸いにも半同居状態の人間が2名。友達はなにかといますよ?」
そーかいそーかいと、斎藤家は笑顔で頷く。ピルピルと携帯が鳴り、社からなので失礼して出れば緊急事態だとの事。
「すいません、ちょっと呼びだしなので失礼します。煮物ありがとうございます!」
にっこり笑って、急いで車に戻る姿を全員で見送る。
「あのこ、可哀相な子供時代送ったのねぇ」
「かーちゃん、泣くな。」
「健司・雄一、仲良くしてあげなさいね?」
呼びだしをされた割には、社に戻ると事は解決していたようで拍子抜けし、サクサクと帰宅する。
「これ今日斎藤家に、お土産持って行ったら頂いたよ。六花の好きな煮ものだって?」
飛んできた六花が、タッパーを開ければ大好きな煮物が沢山。
「おかーさんの味だぁ♪」
一人では有り余るからと、白熊に赤鬼と4人で食べ、斎藤家での事を離す。
「お前…あの寂しい幼少時代を、あちらに話した訳?」
「寂しい?普通じゃないのか?アーネスト」
いやいやと、皆が首を振る。
「ヴィの黒歴史だな、まぁ人格形成に多大な影響を与えた時代だけど?」
「斎藤母、泣いてた」
最初その話を聞いた時、六花も凄く悲しい気分になったのだ。是非自分の子供ができたなら、もう少し余裕のある勉強をさせてあげようと、密かに思うのであった。
悠人の幼少時代でした。




