おやすみなさい。
ショートな単発。
12月、寒さが厳しくなり始めた頃に社内で健康診断があった。
手の空いている人間から順番に受けたとは、悠人も記憶していたのだが…。
1週間後、手元に来た報告書を見て固まった…。
「過労って書いてある…。」
どれどれと、課の人間が面白がって覗き込み報告書をとりあげる。
「えーっと?悠人・ヴィンセント・ウォーレス・和奈城…、身長185・体重60?ほそーっ!体脂肪10%…。どこのアスリートだ!? あー、ここだここ先生の御言葉ってヤツ『血液成分より過労気味』課長!血に何混ざってたんですか?」
「知らん」
「睡眠不足とかじゃないのか?持ち帰りの仕事とかしてるだろ?斎藤さんどう?」
ワラワラ集まってきた人間に囲まれ、東に突然話を振られてぎょっとする。
「え?たまにしているみたいですけど…、結果論なので止めれなくてスイマセン…。」
「はいはい、早寝早起きしますよっと。僕会議行くから、後よろしく」
ヒラヒラと手を振って部屋を出て行く悠人を、心配そうに見送る六花だった。
各課の課長が集まる会議は、年度末の進行を調整するもので顔見知り過ぎるメンバーが15人程集まる。
「和奈城聞いたぞ~、過労だって?」
嫌そうな顔さえても、他の人間は気にしない。
「なんか変な成分が、血に混じってたとか言ってたかな?」
ペラペラと書類をめくりながら、明日の天気を言うような口調。
「自分の事なのに、疑問形?」
「和奈城、恐ろしい子」
口角を上げるだけの笑みを浮かべ、じきやってきた進行役によって会議は進む。
既に決まっていた事を確認しながらの会議だったので、特に長引く事もなく3時間程で終了した。
「僕は不健康かな?」
風呂上がりのストレッチをしながら、雑誌を呼んでいる六花に問えば曖昧な笑顔が戻ってきた。
「不健康って言うか…健康なんだけど、根詰めすぎかな?そんなに睡眠削る事ないんじゃないかなって思うよ?」
事実六花が寝てから、仕事をしているのは分かっている事だ。納期もそんなに迫って居ないのなら、就寝して目なり体なり休ませるべきだ。
「そうか…。」
「無理しているように、私達から見えるよ?体が資本なんだから、ね?寝よう?」
恐らく六花が知らない悠人の社会人生活は、きっとこのスタイルで培ってきたのだろう。いままではいい、これから先が心配だ。
雑誌をラックに戻し、ベットに腰かけるとポンポンと横を叩く。
渋々と言った顔で、ノートパソコンを一撫でして六花の横に寝転んで、黒い長い髪を弄ぶ。
ゆっくり動く手をそのままにしていると、じきに動かなくなり規則正しい寝息が聞こえてくる。
真夜中に目を覚まし、寝ている六花をそのままに半身を起してカーテンを少し開ける。
月の光で、薄く庭の樹木が浮き上がり真夜中だと言うのに、明かりの点いてる家もあるのが分かった。
「ヴィ…?」
「ん?」
目だけ開けて、六花がじっと見ていた。
「ああごめん、まぶしかった?」
「ううん、目が覚めただけ。何か見える?」
横に座って、窓から見える景色を同じように見る。
「町だね?ヴィって月の光浴びてると、すっごく綺麗よ?」
「ちょっと白いけどね」
小さく笑ってゆっくりとカーテンを閉め、明日も仕事でしょうと睡眠を促される。
―――おやすみ。
PCを使うと、ブルーライトってのが照り返して目にきます。
長時間目を使い過ぎると、半年で視力ガタ落ち(経験済)。
なので、睡眠もお仕事で。




