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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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おじょうさまとせいねん②

お嬢様再び。

ピンポーンと、インターホンが鳴る。


在宅の仕事にしているので、もっぱら鳴らすのはバイク便か宅急便のどちらかだ。モニター確認もせず、ガチャリと扉を開きレオンは驚いた。


「仕方がないので、こちらに参りましたの。」


「来なくていいのに…。」



ずいっと入ってくるので、身を避けて奥へと通す。

彼女は、奥山おくやま しのぶである。18歳、確かまだ学生だったよな…と、レオンは混乱する頭をどうにか整理して楚々とソファに座る彼女へと、視線を投げる。


上品な紺のワンピースに、薄いクリーム色のカーディガン…初見ぱっとみてお嬢様で実は和奈城の家と縁深く、実際中々のお嬢様だ。


「レオンハルト、あたくし玉露で我慢してさしあげるわ」


くりっとした大きな目が、上目づかいにレオンを見る。


「相変わらず高飛車デスネ…、玉露そんなもんウチにはない!サイダーでも飲んでろ。」


ペットボトルのサイダーをデンと前に置いてやれば、胡乱な眼で見返されじっと見つめられる。


「なんだ…?」


「…コップ!」


飲むンかいっと内心突っ込み、ハイハイと大人しくガラスコップを渡せばチビチビと飲む。


「んで?忍様が、本日お越しになった理由は?」


「そうよ!レオンハルト、お兄様が婚約なさっていたって本当?」


真っすぐでクセのない、漆黒の髪を揺らしてレオンを見る。


「あー…、婚約した。この間だよ?多分青山から、伝達行ったと思うけど?」


「来ましたわ!あたくしの家の者が調べましたら、普通の庶民ではありませんの!許せませんわ。」


「許す許さないも、忍様は昔にフラれてるでしょ?んじゃ、候補にも入らないじゃない?」


「そんなの気の迷いですわ、あたくしが見極めて差し上げます。レオンハルト、屋敷に連れて行ってちょうだい!」


両手をグーにして、じっと目を見て必死なのはレオンから見ると非常に可愛らしい。

少々高飛車なのだが、このお嬢根は素直なのである。


「はいはい、夕飯時にね。俺仕事あるから、忍様ここでTVでも見てて?」


ポンポンと頭を撫でて、部屋に戻るレオンをチラリと見送ると忍の頬はうっすらと赤く染まっていた。

レオンのマンションは2LDK、和奈城の家の裏にあり非常に何かと便利である。和奈城の家に行くまでにコンビニがあり、そこのオーナーは悠人である。


夕飯前に行くまで2時間忍はTVを見続け、出かけるレオンの後ろを楚々と歩く。


「レオンさん?今日はお連れ様?」


家政婦が首を傾げるが、1名追加できるかの問いには快諾した。


「こちらは、和奈城の親せき筋のお嬢さんで、奥山忍さん。忍さん、最近入られた家政婦さんだよ。」


「よろしくしてあげてもいいわよ」


ツンと顔を逸らし、チラリと家政婦を見る。その仕草がいじわるなお嬢様と、いかにもの仕草なので家政婦達は笑いをこらえるのに必死だ。


「よろしくお願いいたします」


忍が移動するので、レオンはそれとはなしに新聞を見ながら視線で追えば、玄関に向かっていく。

ソロソロと後ろから見れば、玄関先でキチンと正座して待っているのだ…。


「マジかよ…。」


かなり気合が入っている、忍があれほど気合を入れるのは何かあるのだろうが、知れば巻きこまれそうなので放置する事にした。




「ただいま…アレ、忍だ。」


「お兄さまっ!」


両手を広げて抱きつくのを、悠人は驚きながらも受け止める。


「どうしたのかな?忍、まぁ話は後でだ。晩御飯にしよう。」


「おかえり、あれ?一人?」


「いや…?回覧板まわしに行ってるから、直ぐに来る。」


レオンの出迎えに、苦笑する。目線で『困った』と訴えるが、『頑張れ』と訴え返す2人。それも知らず、忍は抱きついたままだ。


レオンに引きずられ、食卓についた頃に玄関の開く音がしたが食事を始めていた忍は、行儀が悪いので立ち上がれず部屋に入る人間を凝視するしかない。


「おかえりー、ただいまー!」


一人で全部言うのがアーネスト、後ろから苦笑して入ってきた六花は外玄関で会ったらしい。


「ゲ、忍だ!」


「あたくしだと、都合が悪いのかしら?アーニー?」


ジロリと見られ、アーネストは背筋が寒くなり余計な事は言わない様にと、言葉数を減らす事に努める。


「六花、忍ちゃんだよ。今日は何しに来たか知らないけど、晩御飯食べてる。」


「お兄様が婚約したと知りましたの、あたくし婚約者の顔を見に来たのですわ。お兄様が粗悪品つかんでないか、あたくしが見極めて差し上げます」


パカと口が開いたままの六花は、かろうじて席に着く。自分より少し下の、可愛らしい女子にそんな事言われるなど思ってもみない。


「忍…そんな事思いつかなくていいから、遊びに来たんじゃないの?」

「違いますわ♪」


ハートマークが飛びそうな、極上の笑顔で悠人に返事を返すがそのまま六花を見る目は冷ややかだ。

微妙な空間で食事を終わらせ、隣の和室に移動して悠人と忍それに六花が卓を囲む。


「先日あたくしを振っておいて、どんな女子が後釜についたのか…見たいだけです。」


「先日って、忍が10歳の頃だろう?僕はそう言うのは自分ですると、御断りしたんだけど?」


8年前も、突然忍が『悠人じゃないと、結婚しない』と騒ぎ始め、正月集まっていた親せき中を巻きこみ大騒動になったのだ。


「かぁさんも、ばぁさんも知ってるよ?僕の婚約は、何かな忍は僕の決定事項に意見するのかな?」


やんわりと、優しく話すが妥協はしない言い方に忍は上目で、ブツブツ言うが聞きとれない。


「忍さん?私と貴方初対面ですよね。初めまして、斎藤六花です」


ニコと笑って、六花は忍の目を見て笑う。

慌てたように、忍も自己紹介をするが赤くなって、卓をモジモジして止めない。


「忍さんは、もうずっとヴィンセントの事知ってるんですよね?羨ましいなぁ、お話聞かせて?」


「知ってますわ!幼少のころから、お父様に連れられて来ていますもの。」


ポンと膝を六花に叩かれ、悠人はそっと部屋を出た。


女子同士話が盛り上がったのか、いつの間にか風呂まで一緒に入り、出て来た頃には2人共ニコニコしてさっぱり顔。


「六花さん、また遊びに来てもいいかしら?」


「いつでも来て~!」


「忍いつまでも、僕をダシにしないでそろそろちゃんと、訪問理由を明らかにしないと駄目だぞ?」


悠人の一言で、はしゃいでいた顔が素になる。そして、ポワンと頬をピンク色に染めたのだ。


「もう帰ったけど?そーろそろ、僕に会いに来たじゃなくて誰かさんに会いに来たって正直に言うべきだと思うよ?」


「知りませんわ、あたくしは兄様に会いに来たんですもの。レオンハルトは、道案内ですわ!」


ピンク色から赤へ、頬を染めて言いかえす顔を見て六花も何事かと分かった。


「あー、なるほど。」


「成程じゃありませんわ!」


「そう?忍の兄貴から、そろそろお見合いさせるってメール来ていたけど?」


「それは…!家が勝手に決めるんですのよ、あたくしは嫌だと申しておりますのに!」


パサリと新聞を畳んで横に置き、ニッコリ笑う。


「それは、忍が兄である慶介にちゃんと好きな人間がいるって言わないから。慶介も鬼じゃないし、叔父さんや叔母さんもそこまで非情じゃないと、僕は思っているけど?それに、レオンのマンションに行けるのに、僕の家には一人で来れないってどう?」


「それは…、あの違いますの。だから…」


「忍?とりあえず、今夜は遅いから迎えを呼んでいるからそろそろ帰りなさい?玄関で運転手さんが、待っているよ?」


「分かりましたわ、今日のところは帰ります。」


「ちゃんと、慶介に言うんだよ?たまには素直に喋っても、いいんじゃないかな。天の邪鬼な忍は、損しちゃうよ~僕は忍の性格分かっているけどね。」


ふふっと笑い、ポンポンと頭を撫でる。

あの人同じように撫でられても、忍は平常心でいられる。運転手と一緒に玄関から出ると、クルリと振り返った。


「お兄様のいじわる!」


「そうだな」


先に行った運転手を追って、パタパタ小走りに行く姿を見送った。




「忍ちゃんは、誰が好きなの?ヴィンセントじゃないってのは、分かったけど?」


寝転がって自室で雑誌を読む悠人の上に、のっかり帰って行った忍への疑問を聞くが小さく笑われて終わる。


「そのうち分かるよ」


「ケチ」


小さい頃から、いつまでも愛称で呼べない彼の事、いつ思いを告げるのかと内心楽しみにする悠人だった。

お嬢様は、レオンが好き。

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